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8話『クソッタレファンタジー』

 

 彼女の話を聞く限りだと、研究施設のような場所で何らかの人体改造を受けていたということらしい。

 そしてそれは現代科学では言い表せない魔法的な物であり、あの巨大な蜘蛛もその実験の副産物だという。

 最初は冗談に思えたが、女の口から嘘を言っているようには見えなかった。


「魔法、魔法ね……ははっ、馬鹿げてる」


 思わず笑ってしまう。

 確かに目の前で見たあの惨状を考えれば『魔法』だとか『魔術』だとかその辺のあり得ない言葉で片付けた方がスッキリするだろう。

 だが実際にSF小説かアニメの中だけのものだと思っていたものが現実に存在するなどと言われても、はいそうですかと安易に信じられるものではない。

 そもそも俺はそんな非科学的なものは一切信用しない主義だってのに、こうも簡単に常識は覆されるってのか。


「じゃあ何か? お前らが使っていたその剣からは斬撃が飛ばせて、その杖からは炎でも出るってのか?」

「はい、その通りです」


 女は真剣な顔で剣を手に持ち、構えを取ると素早く振りかぶって横薙ぎに振るう。

 同時に剣先の軌跡を追うようにして赤い光弾のようなものが飛んでいき、地面にぶつかると同時に爆発した。

 俺は驚きつつも、すぐにそれが剣の力によるものだと分かった。


「冗談、きついぜ。なぁファスト……」

「俺はさっきから絶句が止まらない」


 俺と同じように唖然としている相棒に声をかけるが、返ってきた返事はあまり芳しくないものだった。

 それもそうだ。望んでいた答えとは遠すぎるほどの話をされて、それを目の前で実演されて、今まで紡いできた常識が片っ端から崩れ落ちていく音が聞こえるくらいだ。


「つかなんでその攻撃でさっきの蜘蛛倒せなかったんだ? そこらの銃火器よりよっぽど火力ありそうだが」

「……魔力が足りませんでした」

「あぁ? どういうことだ?」

「剣を振るのにも杖を使うのにも、全てには魔力というエネルギーを消費する必要があります。そしてそれを集めるのに必要なのが体内にある魔臓と呼ばれる器官なのですが、これが私達の身体の中には存在せず、体内に蓄積された分しか使うことが出来ないのです。故に自然的な回復に時間を要し、連続して使うことが出来ません」

「……つまりその魔臓っていうのが無いせいで、お前らはロクに戦うことも出来ないってことか?」

「はい」


 なるほど、だからあんな弱々しい姿を見せていたのか。

 短期戦ならある程度は戦えそうだが、長期戦では圧倒的なハンデを背負うと。

 最も本来戦闘というのは根本である体を鍛えれば済む話なのだが、こいつらは見るからに普通の体格だ。筋肉も付いているように見えないし、その辺の一般的な若者と大差ないだろう。

 魔法なんて洒落にもらなねぇ代物が出れば、まるで戦闘技術なんて全て魔法が片付けてくれるとでも言わんばかりだな、笑えねぇ。


「んで、あんたらはその研究所とやらから逃げてきてここにたどり着いたと。じゃあその研究施設は一体何なんだ?」


 俺が質問を続けると、二人は俯く。

 どうせ話すつもりがないんだろうなと思いつつ、それでも聞かずにはいられなかった。

 だが意外にも彼女達は何かを決意したように顔を上げる。

 その表情から察するに自分達のことをあまり話したがっていないことは分かるが、どうやらここまで来て黙秘を貫くのは難しいと判断したようだ。

 再び金髪の女が重い口を開けて語り出す。


「私達を実験台にした組織は、どこの国にも属さない単独のカルト教団です。表向きは普通の企業として存在していましたが、裏では様々な非人道的な行為を繰り返してきた組織でした」


 彼女の話では、その組織の人間は全員魔法が使えるようになるために人体改造を受けており、その結果として常人離れした身体能力を手に入れていたという。

 また魔法は個人によって適性があり、その中でも一部の人間だけが『異能』と呼ぶ特殊な力を手に入れることも出来るらしい。


「私の場合は、炎を操る魔法が使えました。他にも風を操ったり、水を生成したり、土を生み出したり……。皆、それぞれの能力を持っていましたが、やはりその全てが強力なものでした」

「その言い方だと、お前以外の連中も魔法が使えんのか?」

「はい。実験体にされた全員がそれぞれ魔法を使いこなし、中には魔法そのものを武器にして戦う者もおりました」

「いよいよもって現実味が無くなって来たな。一体そのカルト教団ってのは何なんだ、人類を巻き込んでこの惨状を引き起こした元凶か?」


 俺はそう問いかけると、彼女は首を横に振った。


「元凶かどうかは分かりません。ですがそのカルト教団の名前は──『アカシック教』です」

「──!!」


 その名前を聞いた瞬間、勢いよく反応して立ち上がったのはファストだった。


「おいファスト、知ってる名前なのか?」

「……あぁ」


 いつものように冷静な返事だったが、声色から動揺していることだけは分かった。


「説明してくれ」

「……分かった」


 ファストは少し考える素振りを見せると、やがてゆっくりと口を開いた。

 その口調からはまるで何かを恐れているような雰囲気を感じ取れる。

 しかしファストはすぐに覚悟を決めたらしく、天を仰ぐように見つめてこう言った。


「かつて、人類の進化を現実のものにしようとするお節介な連中がいた。科学の進化に甘え恒久的に続く今の平和よりも、人間そのものが更なる高みへと昇格することを目的として馬鹿げた妄想を掲げる連中。当然そんなものを易々と実現出来るわけもなく周りから嘲笑われていたんだが、ある日『暁ノ鴉(あかつきのとり)』を喰らってからその実体は大きく変わった。『暁ノ鴉』は人類の英知の集合体とも呼ばれる有名な裏組織のひとつだったんだが、人類の進化を目論む連中に一夜で食い殺された。そして連中はその拠点を軸に活動を広げていき、やがて新たに名を掲げた。──宇宙の英知の集合体『アカシックレコード』から取って『アカシック教』と」

「……一言で表してくれ」

「クソッタレな連中だ」


 吐き捨てるように言い放ったファストの言葉には怒りが込められている。

 なるほど、『アカシック教』か。裏で起きてたいざこざなんて知った事じゃねぇが、表に出てくるなら話は別だ。

 それにそいつらがもしこの惨状を招いた黒幕なのだとしたら……俺はそいつらを皆殺しにする必要がある。

 だが金髪の女はそこで更にとんでもない爆弾発言をかました。


「……彼らが仲間割れを起こした原因はある少女についての奪い合いでした。魔力増強の人体実験に適合する素体が見つかったとかで……その子は私達よりも幼くてまだ年端も行かない子供で、確か"メアリー"と名乗ってました」

「……なんだと?」

「メアリーだって!?」


 衝撃的な事実に俺は声も荒げず女を睨みつける。ファストも驚いた顔を向けていた。


「金髪金眼か?」

「はい、確かに金髪でした。眼は赤かったような気がしますけど……」


 俺が静かに拳を握ると同時に、隣に座っていた黒髪の少女が小さく息を飲む音が聞こえてくる。

 金髪の女もどうやら俺が怒っているのを感じたようで、こちらの方を見て申し訳なさそうな表情を浮かべながら頭を下げてきた。


「あの、ごめんなさい……」


 何に対して謝られているのか分からなかったが、とりあえず無視しておくことにした。

 ファストは何かを察し先んじて慌てるように驚異を語るが、俺はそれを無視する。


「と、とにかくその『アカシック教』が本当に表に出たというのなら最悪の事態だ。連中は活性化する前から組織一個を軽々と潰せるくらいの戦力を持っている、今はどれだけ膨れ上がってるか想像も付かない」

「どうなっていようと構わねぇ、鏖殺する」

「娘さんを助けたいのは分かる、だが相手は組織だぞ!」

「潰す」

「レスター……」


 確かに組織の規模がどれほどのものなのか分からない以上、迂闊に手を出すべきじゃないかもしれない。

 だが、相手がどんな組織だろうと関係ない。奴らの目的を果たす前に全てを終わらせる。

 メアリーにあんな顔をさせた挙句連れ去った連中をただで生かしておくわけにはいかない。必ず救い出して連中を抹殺する。

 それに俺はあの時確かに誓った。──このふざけた惨状を引き起こした奴らはひとり残らず皆殺しにすると。

 そして、メアリーは必ず救うと。


「おい、研究所の場所はどこだ?」

「こ……ここから北西に進んだ場所にあるひらけた荒野の研究施設です」

「よし、行くぞファスト」

「待てよ! 早まるな!」


 立ち上がって研究所に向かおうとする俺の腕を掴んだのは、先程まで無口だった黒髪の少女。

 少女はそのまま俺を引き止めるようにして腕を掴む手に力を込める。

 見た目の割に強い力だったが、俺はそれを強引に振り払った。

 少女の手を振り払う際に、一瞬だけ彼女の顔を見たのだが何故か泣き出しそうになっていたように見えた。


「なんだよ」

「……行かない方がいい」

「どうしてだよ?」

「……危ない」

「だから?」

「……殺される」

「それがなんだ?」

「……っ!!」

「いくぞファスト」

「はぁ、死んでも知らないぞ」


 そう言って再び歩き出すと今度は止められなかった。

 しかし後ろからついてきている気配もない為、おそらくついて来ていない。

 それでいい、一緒に来ても邪魔になるだけだからな。

 さて、それでは早速向かうとしよう。

 目的地は『アカシック教』の研究所だ。一人残らずぶっ潰してやる。


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