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20話『意外な一面』

 

 カリヤ街の裏通りを抜けた先、ゾンビ達が跋扈する大通り。

 そこでシティとスフィアは魔法の練習をしていた。

 ゾンビに発見されない壁の影から顔を覗き、魔法を詠唱する。


「…………ッ!」


 シティの手のひらに現れた火の玉がゾンビの群れの中心へ飛んでいき爆発を起こす。

 威力は手榴弾と大差ない程に強力で、連続して使えれば破格の戦力になると一目でわかる。

 だがシティは魔法を一発放っただけで軽くよろめき、膝に手をつく。

 魔法を使う度に体力を消耗し、そして瞬時に魔力切れを起こす。

 次いでスフィアも剣を薙ぎ払って魔法を放つが、結果は同様のものだった。

 魔臓のない二人は常時魔力を蓄えることが出来ない。時間をかけて自然的に体に溜まった分を放てばすぐに空になる。

 スフィアは火の魔法しか使えず、その回数は1日に5回が限度。シティは風と火の魔法を使えるが、1日3回が限度だ。

 無論使う魔力量を抑えて威力を軽減したものならばより多くの魔法が使えるが、結局のところ総合的な問題は何も解決していない。

 二人とも、この世界では圧倒的に弱いのだ。


「はぁ、はぁ、はぁー……、うぅ、やっぱりまだきついですね」

「……燃費がとてもわるい。私達も銃で戦った方がいいのかな」


 シティは自分の手のひらを見つめつつ呟いた。

 確かに銃火器を使えば今よりずっと戦力が増えるのは間違いないだろう。

 しかし彼女達は銃の扱いがどれほど難しいのかを知っている。レスターやファスト達が要所要所で見せた銃の扱いは常人のそれではない、あれほど小さな弾丸を容易に敵に当てるなど普通は出来ないものなのだ。

 事実、スフィアは研究所から逃亡を図った際に拳銃を扱ったことがあるが、20メートル程度離れた敵にすらその弾丸を当てることは出来なかった。

 相手に避ける意思があるのならまず当たらない、自分も動いているのならなおのこと当たらない。拳銃という代物がこれほど扱いの難しい武器だとはその瞬間まで想像も付いていなかった。

 その点、魔法ならば広範囲に攻撃が拡散するため多少狙う位置がズレても攻撃として成立する。少なくとも銃に比べたら比較にならないほど当てやすい。

 やはり自分達の戦闘スタイルは魔法が主軸となってしまうのだろうか。


「断られるかもしれませんが、今度レスターさんに頼んで銃の扱い方を教えてもらいましょう。少なくとも魔力切れで案山子になる心配はなくなります!」

「……レスター怖いからファストがいい」


 シティの言葉を聞いて苦笑いを浮かべるスフィア。

 先日研究所を襲いに行った時のレスターの顔を思い出し、表情を青ざめる。あれは人間の怒りの臨界点そのものだった。

 二人はそんな他愛もない会話を続ける。

 だがその話をいつから聞いていたのか。突如後ろから聞こえた声は、今最も聞こえてはならない人物の声だった。


「ほぉ? 誰が怖いって?」

「ぴッ!?」


 背後に伝う悪寒にゾクリとし、シティは聞いたこともないような声を上げながら反射的に飛び退き振り返った。

 そこに居たのは、先程デパートから帰ってきたレスターだった。


「へぁっ、ぃ、ゃ……っ」

「あの、あのあのあのあのあのあの」


 スフィアはひとつも単語を思いつけず完全にパニック状態に陥る。

 シティも額から大量の汗が流れ落ち、顔は真っ青になっている。

 焦る二人を前に、レスターはゆっくりと、一歩ずつ近づいてくる。

 その度に滝のように流れ出る汗、滲むような涙。下手なゾンビよりよっぽど怖い。

 レスターは震える二人の頭目掛けて手をかざす。反射的にぎゅっと目を瞑る二人。

 だがレスターはその手をポンっと二人の頭に乗せると、似つかわしくない手付きで優しく撫でた。


「今度銃の扱い方を教えてやる、だからさっさと店に戻るぞ」


 それだけ言うと、レスターはそのまま店のある裏通りの方へと消えていった。

 残された二人は一瞬何が起こったか理解できず、呆然と立ち尽くすしていた。


「……え? 今レスターさん教えてくれるっていいました? あのレスターさんが!?」

「……確かに言った」


 ようやく事態を理解し始めた二人が驚きを隠せずにいると、今度は店の奥から別の人間が顔を出す。

 それは食材の入ったゴミ袋を両手いっぱいに持ったファストだった。

 ファストは店を出て二人を視界に入れるなり固まっている両者を見て首を傾げる。


「どうしたんだ? もう飯の時間になるぞ~」

「あ、はい。今戻りますー!」

「……手伝う」


 二人はそう言いながら裏通りへと足を進める。

 そして、レスターの意外な一面が見れたことにちょっぴり得をした気分に浸りながら店の中へと戻るのだった。


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