17話『希望』
突然の出来事に理解が追い付かない。つい今しがた襲い掛かってきたはずのゾンビは頭に風穴を空けられており、脳髄をまき散らしながら地面に倒れ伏している。
そしてそこに現れたのは、ハンドキャノンを片手に煙草を咥えて立っているガラの悪そうな男だった。
……いいや、今は命の恩人だ。
次いで聞こえてきたのはその男の真横、ゾンビ達が入ってきた窓が更に割られ、そこから数体のゾンビが次々と投げ飛ばされてくる。
そして這い出るようにもう一人の陽気そうな男が現れた。手には長いナイフのようなものを持っており、明らかな武器なのが見て取れる。
「いいもん見つけたぜレスター、ニホントウって奴だ。コイツぁよく斬れる」
「二ホン……? なんだそりゃ、普通の刀となんか違うのか?」
「ああ全然違う、よく見ておけ」
そういうと陽気そうな男はこちらの前方にいるゾンビの群れに一人で走り出し、まるで曲芸でも見せるかのような乱雑な動きで武器を振り回す。
すると目の前にいた数十体のゾンビが一斉に倒れ込み、あっという間に殲滅したのだ。
そして、陽気そうな男は自慢気な顔でもう一人のガラの悪そうな男に返り血で染まった武器を見せつける。
「な?」
「おおこえぇ、随分と似合ってんじゃねぇか」
二人はそんな会話をしながら軽く店内を見渡し、他に生存者がいないかどうか確認しているようだ。
こちらにもそれを聞いてきて、反射的に首を横に振ると、二人は頷いてこちらを背にゾンビ達の方へと向き直った。
静まり返ったデパートの中に突然銃声が響いたのもあって、ゾンビ達は飢餓状態に苛まれた獣の如くこの場所へと集まってきた。
だが男達はまるで余裕とでも言わんばかりの表情で互いに視線を交わし、怯えた私に目を向ける。
「あ、あの……」
「安心しなってお嬢ちゃん。俺達すっげぇつえぇから、組むと敵いねぇんだ。もう安心していいぜ」
「なに抜かしたこと言ってんだファスト、敵いんじゃねぇか」
「クハハハッこりゃ一本取られた、無敵を自称するにはこの世界のゾンビ全部倒さないといけねぇってか? ウケるわ!」
あちゃーと顔に手を当てて天を見上げる陽気な男。
ふざけているのかと一瞬思うも、その目は何一つ笑っていないことに気づく。
そして陽気な男は再度こちらを向くと、今度は真面目なトーンで告げた。
「……心配すんなって、俺達が全部まとめて肉塊にしてやっから。だからそんな怯えた顔すんな」
そういって男は持っていた刀を遠方にいるゾンビに投擲すると、懐から短機関銃を取り出して刀が突き刺さったゾンビ達の方に向かって歩き出す。
ガラの悪い男もこちらを軽く一瞥すると、ただ一言口にした。
「安心して好きなだけ泣いてろ、涙が収まるころにはお前の望んだ世界だけが映ってる」
そう言ってガラの悪い男もまた、ゾンビ達の方へと向かって行くのだった。