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14話『ブラックアンティーク──再来』

 

 教団の研究施設を襲撃してから一夜明けて翌日。

 俺達は再びカリヤ街まで戻り、以前訪れた店『ブラックアンティーク』に足を運んでいた。

 カランコロンと鈴の音が鳴り響く店内に入ると、店の中は相変わらず客の姿はなく閑古鳥が鳴いている光景が広がっていた。

 店主はカウンター席でいつのものかも分からない新聞を読んでおり、俺たちの姿を目にした途端驚いた様子で駆け寄ってきた。


「お前達無事だったのか」

「ああ、……連れは多くなっちまったがな。アンタも無事そうで良かったよ」


 俺は隣にいるメアリー達を紹介するため手招きをする。それを見た店主は安堵したような笑みを見せた後、メアリー達に向かって深々と頭を下げた。

 スフィアとメアリーは合わせるようにお辞儀を返し、ファストは軽く手を振っただけで挨拶を終える。シティは興味なさげに欠伸をしていた。


「それで、今日は何の用事だ? あいにくまともな料理はまだ出せないぞ」

「気にするな。車ん中は狭くてな、ゆっくり話ができる場所が欲しかったんだよ」


 そう言って俺は店の奥にあるテーブル席に腰掛ける。他の面々もそれに続いて着席した。

 全員が座ると早速本題に入る。

 そして、各々が見てきた範疇でこの街で起きたことを全て説明した。

 死んだ人間がゾンビみたいに徘徊していること、教団のこと、魔法のこと。

 まずは死んだ人間がゾンビになって徘徊するというゾンビ映画みたいな異常現象はなんなのか。その議題を上げると、メアリーが結論から簡潔に述べてくれた。


「あれは科学的なものじゃない、もっと歪で気持ちわるいものだよ」

「……魔法?」

「少し違うけど、大体あってる。生きた人間が食べられて、食べられた人間は理性を失って他の人を食べようとする。……でもそれは毒やウィルスといった科学的なものじゃない。多分だけど……魔力によるものだと思う」


 メアリー曰く、ゾンビ化の原因は人間の体内に侵入した未知のウィルスなどではなく、ある条件を満たした際人間をゾンビ化させる魔法が原因である可能性が高いらしい。

 そしてその条件は──『死』らしい。


「ゾンビに噛まれた人は何人もいたけど、すぐにゾンビになるような傾向はなかった。でも、死んだらその瞬間動きだした」

「なるほどな、つまりトリガーは死か」


 噛まれても無事というのは幸か不幸か、科学と魔法の差が体感できるな。

 生きている内ならどれだけ負傷を負っても感染しない、毒が傷口から染み込んで突然理性を失うなんて恐怖に慄く未来は無さそうでひとまず安心だ。

 だがそれでも死ねば奴らと同類になる。安らかに眠ることを許されない死が間違いなく、この世界を包み込んだという事実は変わらない。

 もしこの中で誰かが死んでしまったとき、それが最悪のシナリオの始まりだとファストは呟いた。


「あっでも、これはあくまで私の感じたことだから、ほんとかどうかわからないから……」

「大丈夫だメアリー、教えてくれてありがとうな」

「お前ほんとメアリーちゃんに対してだけは素直だな」


 ファストの言葉を無視して優しくメアリーの頭を撫でる。

 そして今度は教団についての説明に移った。

 教団の目的はもう飽きるほど聞いただろう。──アカシック教の開進、つまりは人類の進化だ。

 そのためなら手段を選ばず、例え無関係の人間であろうと実験材料として使うことも厭わないのが見て取れる。


「……なるほど、このクソッタレな状況を作り出したのはあの教団だったのか」


 副流煙をメアリー達に向けないよう煙草を吸う店主が天井を見上げて呟く。

 その手の分野では悪名高い存在なのだろう、俺は知らなかったがファストは知っていた。

 俺達はその教団の研究施設をつい先日潰したことを伝えるが、店主は大きく溜息を吐きながら力なく首を横に振るだけだった。


「連中は全世界にことを構えてる、ひとつやふたつの施設をぶっ潰したくらいじゃ鼻クソほじって終わりだな」

「なんだそれ、冗談じゃねぇぞ……」

「この国だけじゃなく世界すべてが同じようになってると思うと、いよいよ持ってこの世の終わりだな」


 冷静になって考えてみればその通り、世界中でこのふざけた状況が起こっているのならもう生きている人間に人権なんてものはない。新たなディストピアの誕生を待つか、死んで見届けるかの二択だ。

 横でファストが腕を組んで考え込でいるが、その表情を見る限り打開策は浮かんできそうもない。

 教団のトップが誰なのか、どこに拠点があるのかすら分からないのだから黒幕の首を取る一騎当千の行動にも出られない。

 明確な味方と呼べる人員はここにいる6人だけ、他の人間は生きているかどうかも怪しい。

 俺達に残された選択は、死ぬまで逃げ続けるか、死ぬまで抗うかの二択だ。

 現状を整理すればするほど未来は暗い。シティとスフィアは黙り込んだまま一言も話そうとはしなかった。


「……とりあえず、これからどうするか考えなきゃな」

「ああ、どんな鬱になる状況下でも死ぬのだけはごめんだ」


 ファストの意見には同意する。どんな状況下になったとしても死ぬことは選択肢に入らない。もしそれで連中同様ゾンビにでもなったら笑えない迷惑だ。

 しかし、仮に逃げるにしてもどこへ行けばいいのか。食料だって無限じゃない、今でこそガラ空きになったコンビニやスーパーから適当に備蓄できるが、期限が切れればその瞬間餓死まっしぐらだ。

 それにいつまでもこんな生活を続けられるわけがない、いずれ限界が来るだろう。

 どうしたものかと悩んでいると、先程まで考え込んでいたメアリーが口を開いた。


「──いや、ここにするとか」

「どういうことだ?」

「……今世界で一番安全な場所って、ここなんじゃないかな」


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