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13話『有言実行』

 

「……魔法ってのはほんと厄介だな」


 火の粉が舞う研究施設内でファストは未だ教団の連中と応戦していた。

 既に4、50人は倒しており、途中から弾薬が尽きはじめて小型拳銃と携帯用のナイフ一本で戦っている状態だった。


(そろそろ逃げてもいい頃合いか?)


 敵の人数はそれほど多くないものの、このまま応戦し続けてもジリ貧だ。いつ不意を突かれるか分かったもんじゃない。

 研究施設を迷路のように走り回りながらこちらでもメアリーを探し続けてはいるものの、その姿は一向に見えない。

 となればレスターが向かった方角に居る可能性が高い。

 もしそうなら今すぐこの場から戦線離脱して逃げに徹するのがベストだろう。

 それに、あまり時間をかけていると最悪のシナリオになりかねない。


「……チッ」


 舌打ちをして目の前に現れた敵を蹴り飛ばす。

 背後からの奇襲。その攻撃はファストの首筋を捉えており、あと少し反応が遅れていれば首を掻っ切られていたところだった。

 奥の方では束になって魔法を放射しようとしている者もおり、いよいよもって逃げなければいけないと応戦を諦める。

 そんな時だった。


「たぁあああぁああっ!!」


 慣れない大声と共に後方から突貫してくる者がいた。

 ──スフィアとシティだ。

 スフィアは勢い余って剣を振り降ろすと、土埃で煙幕になってよく見えなかった前方を真っ二つに切り裂き、その先で魔法を放射しようとしていた教団の連中に火の斬撃が命中。火炎の渦を巻きながら大爆発を引き起こした。


「ないっすぅ!!」


 思わずグッドサインを出して後ろにいるシティにハイタッチする。

 シティも無口ながらノリノリでタッチを交わした。


「ファストさん、レスターさんがメアリーさんと合流出来ました! すぐにだっせぇ車のところにまで戻って逃げる準備をしろとのことです……!」

「……あんのヤロウ、スフィアちゃんに何言わせてんだ。まぁいい、分かった──逃げるぞ!」


 そう言って踵を返し、スフィアと共に出口へと急ぐ。

 逃げることに気づいた教団が勢いよく追いかけてくるが、シティが風の魔法で瓦礫を落とし後方の道を塞ぐ。

 そして外へ続く道はスフィアが突貫してきたのもあって倒れた敵の死骸だらけだ。


「私はもう魔力切れなので後は頼みます……!」

「……私も限界」

「任せとけ、運転なら俺の右に出るやつはいねぇからよ!」


 後ろを振り返ることなく全力疾走でその場を離れる。

 教団が追ってくる気配はない。道を塞いだ瓦礫に向かって魔法を放とうとしている声が聞こえるが、それだけの時間があれば車に乗り込むには十分だ。

 やがて外の光が視界に映り、近場に止めてあった愛車もすぐに見つかる。

 そして──


「邪魔だどけゴラァ!!」

「どけどけ~っ!」


 脳漿をぶちまけながら前方に吹き飛ばされる教団の連中と同時に、胸が高鳴るような喝采の声が聞こえてくる。

 相棒のレスターと、その娘であるメアリーの声だ。

 二人は全身返り血で染まっており、教団の連中の死体を積み上げている最中のようだった。

 その光景を見て思わず目頭が熱くなる。


「おうファスト、元気か?」

「最悪の気分だったよ、お前に会うまではな」

「そりゃあいい、ドライブ料は割引されるんだろうな」

「100%offだ」


 レスターと息の合った拳を交わし、運転席に乗り込んでエンジンをかける。

 既に助手席に座っているシティが後部座席に乗った三人にシートベルトを締めるように促した。

 バックミラー越しに、二人がしっかりベルトを閉めたことを確認する。


「……! 後ろ、追ってきています!」


 スフィアが振り返って叫ぶように言うと、レスター以外の全員が一斉に振り向く。

 そこには先程よりも多くの教団の人影が見えた。

 どう考えてもあれだけの人数があの狭い通路を通ってきたとは思えない。恐らくはどこか別のルートから出てきたのだと思われるが、それにしても数が多い。

 だがレスターは冷静にバックミラーを覗き込むと、愉悦を含んだ表情を浮かべた。


「いいもん見せてやる」


 そう言って手に持っていた起動式のスイッチを押す。その瞬間車体全体がレッドカラーを塗りつぶすように青白く発光し、その光は徐々に強くなっていく。

 すると、 ドゴォオオオン!! と後方から凄まじい轟音が鳴り響き、一瞬にして教団の集団を爆炎の中に飲み込んだ。

 それはまるで天変地異が起きたかのような衝撃と破壊力であり、全員呆気に取られてしまう。

 そしてその爆発は、先程積み上げていた死体から発せられたものであることが分かった。

 明らかに人工物で出来るものではない。恐らくメアリーの魔法を爆薬の起爆剤と複合させたのだろう。


「……ははっ、こりゃ最高の光景だ。溜飲が下がりすぎてケツから出ちまいそうだぜ」

「連中も最後に花火が見れて泣いて喜んでるだろーよ、最も泣くための顔は無くなっちまったみてぇだがな」


 そう言って笑う二人とは対照的に、シティとスフィアはあまりの光景に絶句していた。

 メアリーはドヤ顔を浮かべており、もはやこっち側が悪役なんじゃないかと疑うくらいに凄まじい光景だ。


「これはもう……なんていうか……すごいですね……」

「……レスター、怖すぎ」

「宣言通り鏖殺してやっただけだ。これが有言実行だ、覚えておけ」


 本当にするやつがいるかと、文字通りの鏖殺の惨状を見て言葉を失う二人。

 ファストも満足そうな表情でアクセルを踏み込み、ついに車は走り出した。

 目的地はこの忌々しい研究施設とは逆方向。

 未来ある明日の彼方だ──。


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