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11話『逆襲の狼煙』

 

 その頃、スフィアとシティは車の中で待機しつつ外に警戒を張り巡らせていた。

 施設内では幾度かの爆発音が響き、レスター達が交戦している音も聞こえてくる。


「シティ、大丈夫? 具合は悪くない?」


 心配そうな表情をしながら、隣に座っているシティに話しかける。

 すると彼女はニコッと微笑んで返事をする。

 その笑顔を見て少しホッとするが、それでもまだ不安が拭えない。


(レスターさん、ファストさん……)


 彼らの無事を願うことしか今の自分にはできない。

 出会った頃は横暴な人達だと思っていたが、いざ話してみるとその雰囲気は他の人達と大差ない。

 みんな家族を失って気が立っている、これだけ絶望的な世界に変貌してしまえば人間性が変わってしまうのも当然だ。

 でも彼らは生きている。これだけ死がばら撒かれ、希望が失われた世界でも生き残っている。

 これがどれだけ凄いことなのか、きっと本人達ですら分からないだろう。

 この状況で生きている、それだけで彼らの存在そのものが希望となるくらい大きな証拠なのだ。


 ……しかしあれから30分。未だにレスター達が帰ってくる様子は無い。

 確固たる意志で帰りを待っている自分達も段々と不安に駆られ始める。頭は項垂れるように下がっていく。

 するとシティが服の裾を強く引っ張り、外に何かいることを指さして伝えてきた。


「あれは……メアリーさん!?」


 遠目、数百メートルの先に居る人影。

 そこにいたのは、レスター達が探していたメアリーだった。

 スフィアは急いで車を降り、彼女の元へ駆け寄ろうとする。

 だが、よく見れば彼女は教団の追手から逃げているようで、こちらから近づけば巻き添えを食らってしまう危険性に気づく。

 せめて車を動かせる人員がいるか、レスター達が帰ってきて来れば逃げる算段に取り掛かれるものの、今出来ることは教団の追手と対峙することくらいだ。

 そしてそれは非常にまずい、こちらは数発分の魔法しか使えないのに、追手の数はゆうに10人を越えている。シティと合わせても半分削れるかどうかだ。

 しかも追っているのは実験体。魔法を使うことを念頭に置いているはず、つまり彼らもまた魔法を使ってくるかもしれない。

 それではどう考えてもこちらに勝ち目はない。

 それに彼女の挙動はどこかおかしかった。せめて隠れるか距離を置いてくれればいいものの、メアリーは追手をわざと引きつけているかのように逃げている。


「どうして……」


 何故そんなことをするのか理解できない。

 仮に自分が追われた立場なら間違いなく一目散に逃げて生き延びようとするはずだ。

 なのに彼女は違う、まるで自ら死にに行くような行動を取っているように見える。


「────ッ!!」


 瞬間、彼女がしようとしていることに気づく。

 魔法を放出する際、その出力を限界まで高めると暴発して自滅することがある。実験で何体も死んでいるのをよく見かけた。

 そして今メアリーが行おうとしているのは、敵を一箇所に集めての──大自爆。

 その腕に溜まり続けて輝きを増している魔力の光が全てを物語っていた。


「シティ!」

「……うん!」


 呼びかけに応じてシティも勢いよく車から飛び出す。右手には杖を持ち、魔法を放つ準備を整えている。

 今ここで彼女が死んだら、誰が彼の希望になれるというのか。

 世界で唯一立ち向かっている人かもしれないのに、その男の希望すら打ち砕くというのか。

 そんなのをただ茫然と見ているわけにはいかない。

 剣に魔力を込め、突貫するべくメアリーのいる場所へと走り出した。


「はぁああぁああっ!!」


 全力疾走し、彼女の元へ辿り着くとそのまま振りかざした刃を振り下ろす。

 そして後方にいる教団の追手に火の斬撃が飛んでいき、広範囲の爆破音を響き渡らせて大爆発した。

 続けてシティが風の魔法で近くの瓦礫を浮かし、そのまま勢いをつけて燃え滾る炎の中に次々と放っていく。


「だ、誰……?」


 困惑しながら驚いているメアリーの前に立ち塞がり、前方で燃えている火の渦を睨みつける。


「あなたのお父さんがお迎えに参ってます! ここは一旦逃げましょう!」

「うそ……パパが……?」


 メアリーは信じられないと言わんばかりに目を丸くして驚く。

 しかしすぐに首を横に振った。

 彼女の気持ちはよく分かる。今までずっと一緒にいた父親がここにいるというのだ、混乱するのは無理もない。

 それでも今は彼女を逃さなければならない。このままここに居続ければ確実に死ぬ。

 目の前で燃え盛っていた火の渦は10秒も経たずに消え去り、そこには無傷で立っている教団の追手の姿があった。

 やはりあの程度の攻撃じゃ傷一つ付かない。

 しかし時間稼ぎとしては十分だったようで、追手との距離は十分に離すことが出来ていた。

 これでひとまず安心だと胸を撫で下ろし、メアリーの手を連れて後ろにいるシティの方へ振り返ろうとした時だった。


「あ……」

「そんな……っ」

「……これは間違いなく死ぬ」


 そこにいたのは笑みを浮かべてこちらの絶望を舐めとるような表情をした教団の追手……新たに20人以上が後ろを取り囲んでいた。

 しまったと思った時にはもう遅い。メアリーの背後からも追手が迫り、退路は完全に断たれてしまった。

 外の通路は一本道、逃げ場はない。教団の追手たちは勝ちを確信したニヤケ顔でジリジリと迫ってくる。

 万事休す、誰もがそう思った矢先だった──。


「──え?」


 突然、前方の横合いから何かが飛来してくる。視界に入ったのはほんの一瞬、長細い形状をした筒状の物体。

 それが追手の身体に触れた瞬間強烈な光を放ちながら爆ぜ、追手を跡形もなく吹き飛ばした。

 一体何が起きたのか分からず呆気に取られていると、倒れ伏した追手の横にある施設の窓を叩き割って出てくる男が一人。

 全身血に塗れており、その表情から常時メンチが切れているのが分かる。


「……おうコ"ラ"、誰の娘に向けてそんな汚らしい顔見せてんだ、あ"ァ"!?」


 男は死体同然となった教団の追手に向かって怒鳴り散らすと、今度はこちらを向いて無言で持っているハンドキャノンの引き金を引く。

 飛んで行った弾丸は私達の横を通り過ぎ、後方で驚いていた教団の一人の頭部に見事に命中し脳髄を飛び散らせる。

 完璧な命中精度、圧倒的練度。待っていたと言わんばかりの人物が顔を見せる。


「……おかえり」

「レスターさん!」

「パパ……パパ……っ!!」


 メアリーは目に涙を溜め、シティも嬉しそうな笑顔を見せる。

 私もその光景を見て、ようやく安堵することができた。


「な、何者だお前……!」

「あァ!? 喋る前に死んどけやクソゴミが!」


 レスターの登場に動揺している教団の追手に、彼は容赦なく発砲する。

 教団の追手はまた頭を狙われると思い込み顔の前に魔法で作られた防壁を張るが、まさに無意味。

 銃声と共に放たれた弾は彼の言う通り、見事に相手の心臓を撃ち抜き即死させた。

 その圧倒的な実力に思わず見惚れてしまう。


「シティ、スフィア。まだ中でファストが戦ってる。魔力が残ってるなら援護に行ってくれないか」

「……分かった」


 シティは返事をするとすぐに建物の中へと入っていく。


「あの、レスターさんは……」

「こっちは大丈夫だ、ファストにダッセぇ車の所に戻って逃げる準備をしとけと伝えてくれ」

「……分かりました、お気を付けて!」


 魔法も使えないのに教団を相手に一人で立ち向かっている彼を見て、心底実力を履き違えたと過去の自分を後悔する。

 彼の大言壮語は事実それを成し遂げるだけの実力があったのだと今さらながら理解した。

 私はシティの後を追うべく、すぐに施設内へと向かう。

 そして後方を一瞥すると、今までにない口角を上げた笑顔を浮かべてやる気満々のレスターが視界に映っていた。


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