じゅーる。
「ここかぁ……」
カメラを片手にして辿り着いた廃墟。
まだ明るいうちに。
暗くなれば危険だ。
獰猛な野生動物なんかが現れたら。
イノシシやクマ、今ではアライグマでさえ。
夜行性の動物を避けても、昼間でもいる。
とにかく要注意をしてーー、それから。
「え~、ただいま噂の心霊スポットにきております!」
ずいぶん有名になっただろう、この分野では。
メディアでも取沙汰されるようになったし。
ただ、初心忘れるべからず。
私はいまだに、生で実況中継している。
「あ~あ……」
何処にでもやってくるのだろうか。
壁一面にーー、アーティスティックな絵画。
とにかく安っぽい。
スプレーで描かれた放物線。
せっかく訪れたのに怖さが半減してしまった。
これでは元がとれないだろう。
恐怖が伝わらないだろう。
「もう少し、奥のほうへ行ってみたいと思いま~す」
思い返せばーー、行かなければよかった。
何重にも鍵をかけた部屋で。
「なんかじめじめしていると思ったらーー、これですよ」
画面をしたに向ける、水溜まり。
先に行くにつれて深くなってゆく。
転ぶと水浸しになってしまうし、何よりもまずカナヅチだった。
溺れたら、それこそ救いようがない。
壁際に手をつけて、細心の注意を払った。
例の場所に辿り着くまではと。
ぬるぬるして気持ち悪い手のひら。
全身の汗はまるで乾きやしない。
「お、ここかな?」
錆び付いた扉はかなり重かった。
「ぬ……ぐぐぐぐぐ……っ!」
がぱぁ。
全体重を載せてようやく開いたら。
そこだけまるで異空間のような気がした。
いままであった湿気などまるで感じやしない。
むしろ、乾ききっていた。
「さぁ、ここですよ!」
先程までにも壁際に描かれていた。
下手くそなアーティスティックなペイントなど微塵もない。
ただ気になったのは、頭上の蛍光灯だった。
廃墟となってずいぶん経ったのにまだ、チカチカと。
「いや、とっくに機能していないハズ……」
辺りを見回す。
きっとまだ生きている電源を。
そこにあったのは脈打つ、絡み付いていた。
教科書なんかで見たことのある、寄生虫のような蠢き。
啜っている。啜っている。啜っている。
じゅるじゅる、じゅるじゅる。
じゅるじゅる、じゅるじゅる。
じゅるじゅる、じゅるじゅる。
とびっきりの気持ち悪さだった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
命からがら逃げ出した。
見たことすべてを忘れようとして。
だけどーー、そこにアレが。
じゅるじゅる、じゅるじゅる。
コンセント口に引っ付いていた。
※あくまでも架空。
実体験などではありません。