第92話 マウンティング
「私、宰相が嫌いです。あの人と一緒にいると私のキャラの方向性がブレてしまいます」
「嫌いになる要素はもっと他の部分にありますよね?」
「何言ってるんですか? 社会において、生き残るのに最も重要な要素はスキルでもなければ、戦闘能力でもなく、知力でもありません。キャラの濃さによって生き残るんですよ? 知らないんですか? そして今、私は宰相によって、私の根幹を成すキャラを揺さぶられています。これは非常に由々しき事態です」
「心配する部分が違うと思います。そう言えば、宰相さんは査問委員会で暴走したですよね? あの後どうなったんですか?」
「あ、あの人ですか? あの人は2週間ほどの謹慎を言い渡され、聖戦士が宰相の屋敷を封鎖しています。まあ、そんなどうでもいい事は置いておいて、帝国政府って素晴らしいですよね?」
「帝国にとっては重大事件なんですけど?」
「この素晴らしい帝国政府が治める場所がこんな狭くていいはずがないです。というわけで、皇帝の名前を使って、近隣の有力者の土地を返してもらいましょう」
「戦争ですか?」
「それは相手次第です。大人しく返してくれれば、戦争は起きません。抵抗すれば……言わなくても分かりますよね?」
「少しは落ち着いたらどうなんですか?」
「しかし、勇者さんの命がけの時間稼ぎも限界があります。このペースだと勇者さんの命が燃え尽きても、帝国を掌握できません」
「ルカさんが死ぬ前提なの、やめてもらえませんか?」
「私の予想ですが、勇者さんが生き残る確率は宇宙人に誘拐される確率よりも低いでしょう」
「その分かりにくい例えを何で使いまわすんですか? そう言えば、師匠はルカさんがどんな状況か知ってるんですか?」
「もちろんです。勇者さんから10キロメートルほど離れた地点にいる尾行部隊によると……」
「10キロ? 何でその距離は尾行できないと思うんですけど?」
「報告によれば、勇者さんはアンデッドと鬼ごっこをしているそうです。ただ、逃げた先々に鬼がいるので、だんだん追い込まれているそうです」
「それ、かなりピンチですよね?」
「はい。なので、勇者さんの命が燃え尽きて、魔王が余韻に浸り終えるまでには事を終えなくてはいけません」
「せめて、勇者さんを助けようと努力をする素振りぐらい見せたらどうなんですか?」
「私の時給と比較した結果、見合うだけの価値が無いと判断しました。まあ、そんなことは置いておいて、皇帝に謁見しに行きましょう」
「皇帝ってそんなに簡単に会えるんですか?」
「簡単には会えませんし、会いたくもありませんけど、そろそろ友好的な関係であることをアピールしておいた方が良いですからね」
「それは誰に対してですか?」
「説明したいところですが、言い表せる数を超えています。まあ、ざっくり言うと全方位にです」
「ざっくり過ぎて困るのですが?」
皇帝との謁見。
本来ならば、正式な場所で正式な作法に則っての謁見をするべきだが、皇帝と私の個人的な繋がりをアピールするために皇帝の私室で会うことにした。
私は皇帝に用意された椅子に座っている。
椅子を追われた皇帝は跪いている。
「頭を上げてください。皇帝(笑)さん」
「何で師匠は平然としてるんですか?」
「イラリアは忘れたんですか? これは全身整形をした生ゴミですよ? 間違いました信者ですよ?」
「その言い間違いは取り返せませんよ」
「ありがとうございます」
皇帝は息を荒くして喜んでいる。
「久しぶりの本格的な信者ですね、師匠」
「もうすぐ、彼らで帝国が埋め尽くされると思うと喜びで震えが止まりません」
「私は恐怖で震えが止まりません」
「中毒ですか?」
「何で私が危険な薬物をやっている前提なんですか?」
皇帝の背後で直立不動の状態で待機している侍従長が挨拶する。
「お初にお目にかかります、教祖様」
「ああ、あなたがカーショさんの部下をなさっているルサンチマンさんですね? ……よく、人格を疑われませんか?」
「どういう第一印象ですか?」
「何でしょうね……内弁慶の匂いがします」
「どんな匂いですか? この方がルサンチマンって名前なんですよね? 矛先が師匠に向きますよ?」
「問題ありません。この方は内弁慶です。家の壁に何カ所か穴が開くだけでしょう」
「それはそれで問題な気がします。師匠は、ここに悪意を垂れ流しに来たんですか?」
「違います。私と皇帝が友好的な関係であることをアピールするのが目的なので7時間ほど雑談すれば、アピールできると思います」
「それはあまりにも長すぎると思います。1時間以内で良いんじゃないですか?」
「では、1時間ほど世間話をしましょう。世間話……世間話……、宰相の進退について……」
「世間話ですよね?」
「話を聞いてなかったのなら、割り込まないでください」
「いや、世間話で国のナンバー2の進退を話すのはおかしいと思います」




