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第83話 入国。手段? 入国は入国ですよ?

商館の裏の事務所の部屋を借り、私はお茶を頂いている。

イラリアは私の陰に隠れようとしているのか体をできるだけ小さくなるように座っている。


「イラリアの負のオーラは私の神々しいオーラを浴びても改善しませんよ?」


「師匠、寝言は寝て言ってください。私が隠れている理由は師匠の目の前にいるカーショさんですよ」


「カーショさん、イラリアに何かしたんですか?」


「いえ、特に何も」


「出会い頭に毒物を仕掛けてきたことが何もしてないに入るわけないですよね?」


まだ、あの時のことを気にしていたのか。

イラリアも随分と器の小さい人間だ。


「あ~、あのことですね。でも、解毒薬貰ったんですからチャラじゃないですか?」


「師匠は人間性だけじゃなくて判断基準までおかしくなっているんですか?」


「え? 私の人間性がおかしいってことが前提条件になってることからゆっくりと話し合うべきだと思うんですけど」


「そこは疑いようのない事実だと思います」


「カーショさんはどう思いますか?」


「教祖様は人格者です。その場にいるだけで空気や雰囲気が浄化されます」


「ありがとうございます。これで2対1ですね」


「師匠、信者はカウントされませんよ? ツッコミませんでしたけど、何でここにカーショさんいるんですか?」


「イラリアはカーショさんの出身地をご存じないんですか?」


「何で知ってるって思ってたんですか?」


「ここ、帝国がカーショさんの故郷ですよ」


「え? ちょっと待ってください。ここが何ですか?」


「カーショさんの出身地は帝国です」


「そっちじゃなくて、ここ帝国……なんですか?」


「あ、そう言えば、イラリアは鮮魚として密輸されたんですね」


「鮮魚? 道理で目覚めたら氷に囲まれて……ん? 記憶がおかしい」


「どうかしましたか?」


「ここに来るまでの記憶があやふやなんですけど、確認していいですか、師匠?」


「仕方ないですね」


「師匠の準備が手間取っているからって、女の人が出した紅茶を飲んで、そしたら眠くなったから、自分の寝室で休んで……、それから……」


「それからは、係りの者がイラリアを氷の敷き詰められた箱の中に入れて、鮮魚のラベルを付けて密輸しました」


「は? 何で、鮮魚なんですか? ルカさんですら、絨毯ですよね」


「イラリアは弟子なので、特別に生物として密輸したのですが」


「生もの扱いのせいで、危うく凍死しかけたのですが?」


「まあ、そんな日もありますよ」


「その返し、絶対に間違っていると思います。師匠はどうやって、帝国に入国したんですか?」


「歩いて入国しました」


「は? 国境警備隊に見つからなかったんですか?」


「存在を認識できない敵の侵入を防ぐことは不可能です。視覚情報は当てにならず、犬の嗅覚をもってしても探知不能、熱源探知でも見つけることはできません。私ほどのステルス戦上級者になると変顔しながら敵兵の目の前をダンスをすることすら、ナメクジに塩をかけるほど簡単な作業です」


「この前も出てきましたけど、その例え何ですか? 絶妙に分かりづらいんですけど。カーショさんはどうやって入国したんですか?」


「カーショさんは帝国の秘密警察の部隊長をされている方です。なので入国も余裕です」


「え? 師匠はこれから帝国をめちゃくちゃにしようとしているのに良いんですか?」


「教祖様、元秘密警察の職員です。今はフライパン神に帰依している身。裏切りなどありえません」


「え? 師匠、カーショさんは何のために師匠と一緒にいるんですか?」


「それはカーショさんと私の出会いについて聞いてるんですか? それとも、私がなぜカーショさんをここに連れてきたのかを聞いてるんですか?」


「じゃあ、両方お願いします」


「まず、カーショさんは二重スパイです。そして、私とカーショさんが出会ったのはワクワクルームです」


「何で出会いの場が尋問部屋なんですか? 二重スパイ?」


「はい。カーショさんは帝国のスパイとしてフライパン教だけでなく星教会や他の都市に潜伏してました。しかし、教団の防諜班、今は調査部ですが、彼らは周辺では敵なしと言われているぐらい優秀でして、カーショさんの怪しい動きをキャッチして尋問かけていたころに私たちは出会いました」


「あの時の衝撃は今でも、思い出すだけで興奮してしまいます。あれほど熱烈な尋問を受けたのは、長年密偵をしてきましたが初めてです」


「師匠、何したんですか?」


「はっきり言って何したのか覚えてないんですよね。頭を鷲掴みしたのは覚えてるんですけど」


「逆にそこまで覚えていて何をしたか思い出せないなんてことがありますか? カーショさんは覚えてないんですか?」


「あの時のことを鮮明に思い出そうとすると頭に靄がかかって、思考がまとまらなくなるので、しっかりとは思い出せません。私も頭をすごい握力で掴まれたのは覚えているんですが……」


「いや、だから、何でそこまでされたのに思い出せないんですか? あと思い出すと靄がかかるのに興奮するんですか?」


「生命の神秘、ですかね?」


「神秘って言えば何でも許されるわけじゃないんですよ」


「それで、何で私がカーショさんを連れてきたかと言うと……」


「え? 出会いの話終わりですか? 内容が薄くないですか?」


「え? それからはカーショさんに闇ギルド星教会の集いを立ち上げてもらって、仲間を全員呼び寄せてもらったところで、まとめて改宗したぐらいで特に話すことなんてありませんよ?」


「まだまだ、話すべきことがある気がするんですけど」


「まあ、長くなると面倒なので、また今度。それで、カーショさんを連れてきた理由は帝国の中枢に浸透するために、いろいろ頑張ってもらうためです」


「はあ、いろいろ?」


「はい。いろいろです」


「あの、師匠、そう言えば、この商館らしき建物は誰のですか?」


「ここは、愛を届けます商会の商館です。代表は戸籍を適当に記入した架空人物が代表ということになっています」


「戸籍の件は置いておいて、変な名前ですね。何の商売をしてるんですか?」


「武器商です」


「早く名前を変えてください。武器の販売は愛には変換できませんよ? しかも、密輸品の販売ですよね?」


「お客は帝国政府や太陽神殿、月神殿、地方軍閥とよりどりみどり。品質のいい武器を安く大量に売りさばきます」


「ドワーフの武器を買い叩き、密輸で関税回避、戦争継続の一役を担う。最低な行為を積み重ねすぎて返す言葉が無いんですが」


「世界平和のための辛抱です」


「思い出したかのように大義名分を言っても、何の効果もありませんよ?」


「そう言えば、カーショさん。月が綺麗ですねと太陽の方が好きですの財政状況はどうですか?」


「どちらも、しつこく神殿側から寄付金をせがまれているようです。近いうちに大規模な衝突は間違いないでしょう」


「中央政府の状況は?」


「ヴァンニ宰相が主導して両神殿に妨害工作を仕掛けていますが、地方軍閥も乗り気であまり効果はないようです。そのため、月が綺麗ですねと太陽の方が好きですの方に圧をかけていますが、どうしたしますか?」


「もちろん財政支援をお願いします。当たり前ですが、愛を届けます商会の武器を大量に寄付してあげてください。あと、中央政府の妨害が既にあると言う事なら、拠点も移転させておいてください。小耳にはさんだ情報によるとガサ入れが2週間以内にあるそうなので」


「かしこまりました」


「師匠、ツッコミどころが満載過ぎてどこから突っ込めばいいか分かりませんけど、神殿の後援会の名前おかしくないですか?」


「どこかおかしいところがありましたか?」


「最近、愛を訴える名前が多くないですか? 愛羅武勇とか愛死天流とか、愛を届けます、月が綺麗ですね、何で最後は太陽の方が好きです、になっちゃうんですか? 断っちゃダメでしょ」


「何言ってるんですか? それは深読みしすぎってやつですよ。月が綺麗ですねは月神殿を持ち上げる言葉で、太陽の方が好きですは太陽神殿を持ち上げる言葉です。イラリアは、普段は考えが足りないのに変なところで頭が回るんですね」


「それ、失礼すぎませんか?」


「そうでしょうか? カーショさんはどう思いますか?」


「教祖様のおっしゃることが尤もだと思います」


「教団にはイエスマンしかいないんですか?」

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