第72話 わき腹に重たい一撃
「やはり、プラシドさんは封印するべきなのでしょうか?」
イノシシ族の築いたバリケードは完全に破壊され、両手に刃物を持った狂人により、里は壊滅させられた。
「師匠が狂喜乱舞しているプラシドさんの管理ができないのなら、した方が良いと思いますよ」
「悩ましいところですね」
「でも、1カ月も膠着していた包囲がプラシドさん一人で解決するなんて……」
「プラシドさんは肉の卸業者でありながら、傭兵業界がスカウトするほどの戦闘力の持ち主ですから」
「普通はそんなことにはならないと思いますけどね。そう言えば、私たちは何でイノシシ族の里にいるんですか?」
「イノシシ族の生き残りと犠牲者を調べるためです。簡単に言うとプラシドさんがどのぐらいやらかしてしまったのかを調べるためです」
「なるほど」
「教祖様!」
兵士が息を切らせながら走ってきた。
「どうかしましたか? また酔っ払いですか?」
「そのネタ、いつまで引っ張るんですか?」
「旧ウサギ族要塞がブタ族により占領されました」
「は? あちらは3000人で守備していたはずです。誤報ではないですか?」
「しかし……」
グリッロさんが走ってきた。
「教祖様! 早急に会議をしますので、お越しください」
「グリッロさん、旧ウサギ族要塞の陥落は本当なのでしょうか?」
「現在、斥侯を放ち、調査中ですが、巡回兵がブタ族の大規模な行軍を確認したことから、おそらく事実かと」
「……それはかなりマズいですね」
「それって、私たちは敵に囲まれたってことですよね?」
「その通りです。ウサギ族の里は魔王城から補給を受けるための唯一の場所です。そして、このイノシシ族の里は獣人族領の中心部に近い場所です。つまり、私たちは敵によって完璧な包囲をされたというわけです。最悪のトレードです」
「ブタ族は怠け者なんじゃなかったんですか?」
「そのはずでした。敵がこちらに攻めてくるのは明白です。防衛設備を整えるよう指示をお願いします」
「分かりました」
グリッロさんと兵士が走っていった。
「私たちも会議室に移動しましょう」
私、イラリア、プラシドさんが席についている。
「何でプラシドさんがいないんですか?」
「会話が成り立たないからですよ。常識で考えてください」
「私がだいぶ前に指摘した時は相手にしなかったくせに、どういう風の吹き回しですか?」
「今回はふざける余裕はありません。最悪の場合、聖戦士に玉砕覚悟の特攻をさせて、私だけが秘密裏に脱出します」
「最低ですね」
「しかし、タイムリミットは迫っています。魔王城からの補給は包囲により事実上不可能。聖戦士のM値がいくら高くても、食料がゼロとなれば勝てません。あ、イノシシ族がいましたね」
「その手はやめておきましょう」
「グリッロさん、この状況を脱する方法はありますか?」
「順当に考えれば、旧ウサギ族要塞を奪還することでしょう。彼らは要塞設備を完全には修復できていないはずです。この機を逃せば、敵の完成した要塞で戦うことになるでしょう」
「分かりました。基本方針はウサギ族要塞の奪還をします。しかし、ブタ共になめられたままではいけません。プラシドさんに1000名の聖戦士を預け、ブタ族の本拠地を攻撃します」
「教祖様、敵兵は15000。我々の2倍います。この状況で軍を分けるのは危険すぎます」
「敵の本拠地を攻撃し、様子を見ます。敵の本拠地の攻略が目的ではないので、かまいません」
「……分かりました」
私たちは軍備を整え、旧ウサギ族要塞の付近に潜伏。
プラシドさんは1000名の聖戦士を引き連れ、ブタ族の本拠地を攻撃。
ブタ族は敵が決死の攻撃を仕掛けてきたと、誤解したことにより、旧ウサギ族要塞から1万人がブタ族の本拠地に移動した。
「敵がバカで助かります。1万の兵を側面から襲いましょう」
「何でですか、師匠? 放置して、要塞を占領しましょうよ」
「想定以上にプラシドさんが本拠地に大打撃を与えているようです。1万の兵を動かすというのは尋常ではありません。敵はかなり動揺しているようですね。グリッロさんにはここで4000の兵と共に待機してください」
「かしこまりました」
「私は2000で敵の側面を攻撃して、打撃を入れます」
「それ成功するんですか?」
「イラリアはボーっとしている時にわき腹にボディブローを食らったらどうなりますか?」
「どう? ……大変なことになりますね」
「その通りです。下手したら、致命傷になるかもしれませんね。集団は個人が集まった物です。不利を悟り、一人が逃げ出せば、恐怖が伝染し、連鎖的に逃走するようになります。これは戦意が挫かれている時には、特に有効です。彼らは故郷が攻撃されているという情報で動揺しています。作戦の成功は間違いなしです」
私たちは奇襲地点を決め、潜伏した。
敵は最短ルートを移動しているため、進軍経路が手に取るようにわかる。
幸いなことに、彼らは絶好の奇襲ポイントを通過する。
「ブタ族をミンチにしろ!」
「「「オー!!」」」
私の合図を皮切りに聖戦士たちが突撃する。
側面攻撃に1000、旧ウサギ族要塞への道に1000配置して、敵を本拠地に退却するように誘導する。
敵は突然の奇襲により、大混乱。
敵兵は指揮官の命令を無視して、それぞれが本拠地に向かって逃げて行った。
ブタ族1万は軍としての機能を完全に失い、ただの逃げ惑う武装集団になり下がった。
「教祖様、終了いたしました」
「お疲れ様です。衛生兵に負傷者を手当てさせてください。1時間後には移動を開始します」
「敵補給部隊の置き土産はどうしましょうか?」
「もちろん回収します。こちらも物資に余裕はありませんからね」
私たちは負傷者と戦利品を回収して、旧ウサギ族要塞へ戻った。




