第58話 穴蔵生活の終わり
「ただいま戻りました」
イラリアが出迎える。
「師匠! あの部屋何とかしてください!」
「あの部屋?」
「師匠の尋問部屋ですよ!」
「尋問部屋?」
「尋問部屋ですよ?」
「あ! ワクワクルームのことですね」
「ワクワク? 名前と実体の乖離が激しすぎませんか? 尋問でワクワクしないでください」
「友好的な会話をワクワクと表現した良い名前だと思うんですけどね」
「師匠のネーミングセンスを疑います」
「で、ワクワクルームがどうかしましたか?」
「うめき声が反響して、皆、精神的に参りかけています。何とかしてください」
「では、参ってから出直してきてください」
「それは手遅れです!」
「まあ、そうですね。そろそろ、信仰心が植え付け終わる頃ですし、解放しますか」
私はワクワクルームに入り、5人の獣人の拘束を解除する。
「では、皆さん手筈通りにお願いします」
「「「かしこまりました、教祖様」」」
「荷物はそこに置いてあります」
「師匠、この人たちは何の集団ですか?」
「魔王城、城下町に商品を売りに着た行商人の皆さんです」
「師匠、一般人に手を出すなんて何を考えているんですか?」
「でも、彼ら嬉しそうですよ?」
5人の行商は私を拝み続けている。
「そろそろ、仕事に取り掛かって頂いてもよろしいですか?」
行商人たちは急いで解散した。
私は行商人たちを見送った。
「彼らに何を頼んだんですか?」
「魔王城の城下町に拠点を作って頂こうかと」
「作ってどうするんですか?」
「ここと繋げます」
「まさか、穴を掘って門を抜けるつもりですか?」
「はい。気付かれずに門の警備を抜けるのは難しいですからね。それにいつまでも、ここにいるとバレますから」
「城下町に入ったらどうするんですか?」
「そこで潜伏することになるでしょうね。まだ、魔王城の見取り図が手に入ってませんから。まずはトンネルを延伸しないといけませんね」
大賢者さんの魔法を活用して、トンネルを延伸して1カ月。
急に地下を掘ると振動でバレる恐れがあるので、慎重に行った結果、想像以上の時間を要してしまった。
「ようやく、終着点に着きましたね」
獣人の行商人に用意させた部屋にたどり着いた。
「やっと穴蔵の生活からおさらばね」
「聖女さんにはよく似合ってましたけどね」
「ちょっと、それ、どういう意味?」
「あとは秘密裏に市街地戦をするだけですね」
「一般的には暗殺って言われてませんか?」
イラリアの声は長い地下生活を脱出した喜びに浸っている勇者さんらの声でかき消された。
大賢者さんは穴掘りに勤しんでいる。
城下町に反乱軍の地下拠点を拡張するためだ。
来る魔王城攻略戦の時に反乱軍を城下町で蜂起させれば、魔王城から鎮圧の兵が出てくるはず。
そうなれば、城の警備は薄くなる。
また、ルーテリアさんにはナーボを攻撃してもらい。
ナーボの足止めをお願いした。
反乱軍の背後にはルーテリアさんがいるように偽装しているので、魔王軍はさぞかし慌てていることだろう。
四天王の残りの二人はテプサと獣人族の反乱に対応して動けない。
「あなたは魔王軍のガーネ隊長の家を襲撃してください。あなたは北にある兵士の宿舎を襲撃してください」
「承知いたしました」
「承知いたしました」
魔人とヴァンパイアがうなずく。
「師匠、この拘束されている人は何ですか?」
イラリアが指さすところには手錠を付け、衛兵に囲まれている魔族の男がいた。
「彼は失敗しました。ですので、鞭打ち14967回の刑です」
「ずいぶんキリの悪い数字ですね。と言うより死んでしまいます」
「仕方ありませんね。では、軽い打ち首にします」
「打ち首に軽い、重いがありますか?」
「ありますよ。詳しく聞きますか?」
「いえ、結構です。失敗するたびに処刑してたら、味方がいなくなりますよ?」
「私の味方に魔族の方はいませんよ?」
「じゃあ、ここにいる人たちは何ですか?」
「使い捨ての駒です」
「最低すぎます。本人を目の前によくそんなことが言えますね。悪魔ですか?」
「人間ですよ?」
「種族のことは聞いてません」
「まあ、私の素晴らしい性格のことは置いておいて、いい加減、魔王城を攻めたいですね」
「攻められない理由があるんですか?」
「見取り図がなかなか手に入らなくて、歴代の魔王が魔改築したうえに、4代前の魔王が改築した際に設計者が途中で亡くなったのですが、引継ぎに失敗して、しっちゃかめっちゃかになってしまいましたので、内通者に実際に歩いて書いてもらっています」
「それ、終わるんですか?」
「1か月後ぐらいには終わるといいんですけどね」
「何ですかそれ? もう、攻めた方が速いんじゃないですか?」




