第51話 契約
私たちはエルフの里に戻り、今後の計画を練る。
「まず、今回魔人に接触した目的としては反魔王の魔人を扇動し、反乱を起こすことです」
「その目的は魔王を魔王城から引きずり出すことか?」
大賢者さんが答える。
「その通りです。魔王城周辺の魔力濃度は極めて高いです。高濃度魔力下での戦闘は魔人にとっては有利な環境ですが、人間にとってはあまり居心地のいい環境とは言えません。魔王を討伐するのならば、こちらに、少なくとも魔王城からは引きずり出す必要があります」
「反乱で魔王が出るのか? 四天王がいれば、四天王が動くんじゃないのか?」
「確かに、勇者さんの言う通り、四天王が出るでしょう。そこでです。私たちが反乱軍と連携し、四天王を討ち取ります。その後の魔王討伐には連携するか、それとも単独で行くかは分かりませんが、ひとまずはそのように考えています」
「師匠は魔人と契約を交わしたんですか?」
「契約? ああ、あのなんちゃって約束のことですか?」
「なんちゃって?」
「まず契約について説明しましょうか。契約とは同格同士の取り決めで、拘束力があります。約束を破れば、心に甚大な傷を負うとか」
「そんな危険な物をよく魔人と交わしましたね」
「だから、なんちゃって約束なんですよ。契約を結ぶには同格でないといけません。あの魔人と私では悪玉菌と魔王ぐらいの力の差があります。そのため、私が契約を履行しなくても、かすり傷一つ負いません。逆に彼が契約を履行しない場合は全身から魔力が噴き出し、干からびて息絶えます」
「何でそんな契約を結んでくれたんですか?」
「それは彼がおバカで、私が素晴らしい技量の持ち主だからです。私クラスになると魔人の心すらも簡単に操れるようになります」
「でも、テプサって言う魔人が約束を破る可能性だってありますよね?」
「それはタザンを切り捨ててということですか?」
「はい」
「その心配は限りなく低いと思いますよ。彼はテプサの一族の中でも上位の魔人だそうですから」
「ねえ? 契約内容が気になるんだけど」
聖女さんが声を発する。
「彼らは反乱を起こし、四天王の排除と魔王を魔王城から引きずり出します。私たちはテプサを除く5家の壊滅を行います。5家というのは西の魔王に服属している魔人の有力血族の5つのことです。ナーボ、ルーテリア、バルティガ、ルグド、テプサの5体の魔人がトップにいます。反乱を起こすのはテプサの血族。ナーボは現魔王が魔王になる前に率いていた血族です。魔王になると血族を離脱して全魔族の王となります。ルーテリア、独立心が強く、相互不干渉を前面に出す血族です。バルティガ、四天王の一角です。魔王には忠誠を誓っていますが、ナーボとは対立関係にあります。ルグド、バルティガを敵視しています。四天王の一角です。ついでにですが、テプサは自己評価の高さだけは他の追随を許さない血族です。そのため魔人テプサは自らが魔王となれないことが不満でしょうがないそうです」
「師匠はその約束を守るんですか?」
「面倒なので守りません。利用できるところまでは利用します。特に魔王を引きずり出すまでは。用が済めばテプサを真っ先に殲滅します。扱いが面倒ですからね」
「師匠は人間の心が無いんですか?」
「何言ってるんですか? 敵とは殴り合って、仲間とは机の下で蹴りあう。それが人間であり、フライパン教徒ですよ?」
「どっちが悪魔か分かりませんね」
「まあ、何にしても、魔人の反乱が起こったら、私たちが動くときです」
魔王城。
魔族の王が居城とする場所。
魔族にとって住みやすい場所はいろいろあるが、一番最初にあげられるのは高濃度な魔力だまりだろう。
大規模な魔力だまりは5家と魔王が居を構えている。
その中でも魔王城のある場所の魔力だまりはすべての魔族が羨望の眼差しを向けるほどの上質な魔力がある。
しかも、魔王の魔力が漏出するため、魔族にとってはすさまじい心地よさを与えることだろう。
しかし、ここ最近の魔王城の空気には大きな緊張を孕んでいる。
魔王城の一室。
円卓が並び四天王のために4脚の椅子が用意されている。
そのうち3脚が埋まっている。
「陛下は再びふさぎ込んでしまった」
「医者は何と?」
ダークエルフの女、カリンが尋ねる。
「精神が不安定になっていると意味の分からない単語を延々と連呼し、何かに許しを乞うているらしい」
「貴様の呼んだ医者はずいぶんと腕が悪いようだな、バルティガ」
「ここは陛下のお膝元だ。喧嘩を売るのであれば、場所を変えるべきだな、ルグド」
「お二人とも、今はそれどころではない。四天王最強のランベルト殿が勇者に討たれた。北の魔王の干渉もある」
西の魔王領と北の魔王領は海峡を間に挟んではいるが、それほど渡るのに苦労はしない。
そのため、境界付近では頻繁に小競り合いがある。
「北の魔王はこちらの引き抜きを行っているようだな」
バルティガが悩ましげに言う。
「一部の魔人の血族はそれに呼応して反逆を企てているらしいな」
ルグドはあまり気にしていないようだ。
「魔族だけでない、獣人族の方もおかしな動きがある。奴らから四天王を選んで不満を抑えるしかないのではないか?」
カリンがそう言うとルグドが疑問を呈する。
「ランベルトは低位魔族から初めて選ばれた四天王だ。奴らの不満を考えれば、次の四天王はオークあたりから選ぶべきだ」
低位魔族、スライムやオークなどの比較的知能が低い魔物のことを指す。
高位魔族は魔人や獣人、ダークエルフなどを指す。
「どちらから選ぶにしても、陛下が決定を下す。我々が言い争ったところでどうにもならんだろう。我々は我々のできることをしよう。私は魔族の監視に就く、カリン、お前は獣人族とダークエルフ、あとは低位魔族だ」
「分かった」
「ルグドは勇者でどうだ?」
「ランベルトを倒した勇者だぞ? 俺一人で行って何とかなるわけがない。そんなに言うのなら、貴様が行けばいい。魔族は任してくれても構わないぞ」
「仕方ない。勇者が侵攻を始めたら、私とルグドで対処すればいい」
「私は構わないのですか?」
「カリンには治安の方を担当してもらいたい」
「分かりました」




