第45話 私の交渉力の高さに驚きを隠しきれない
パダラは悲壮感に包まれていた。
教祖である私が魔王討伐に出発するためだ。
勇者たちはフライパン教徒に恐れをなしたのか、目につかない場所でひっそりと隠れていた。
「もう出発なさるのですか?」
「仕方ありません。信仰に生きる者の宿命です。タフィ、教団のことはお任せいたしましたよ」
「はい。お任せください」
私は信者たちに別れを告げた。
「お待たせしました」
一応、待ってもらったので勇者さんにお礼を言う。
「もういいのか?」
「はい。問題ありません」
砂漠越えは常人には厳しいものがある。
馬に長時間乗るのも大変だが、たまに襲ってくる熱風は慣れない者の体力を激しく削る。
そこに砂塵が含まれるとさらに体力を削っていく。
夜は火を焚き、寒さから身を守る。
砂漠は昼夜の気温の差が激しい。
なめてかかるとすぐに体調を崩してしまう。
砂漠に来ると毎回思うのだが、日中の空気と夜の空気を足して2で割って欲しい。
「帰りたい」
聖女さんが弱音を吐く。
「土にですか?」
「そんなわけないでしょ?」
「聖女さん、あなたはお気づきではないかもしれませんが、いくら弱弱しさをアピールしても、どうしようもないレベルで残念さが強調されています。諦めたら如何ですか?」
「残念さって言うのやめてくれない?」
「師匠はまったく疲れを感じさせない罵詈雑言ですね」
聖女さんの隣にいるイラリアが火に手をかざしながら言う。
「ありがとうございます」
「褒めてません」
「口汚く罵って頂きたい方がいらしたら、ぜひ私の前まで来てください。おなか一杯、蔑みの表情と罵声を差し上げます」
「もうお腹いっぱいなので結構です」
「では、夜ご飯はいらないということですね。イラリアの分の食事は私が頂きます」
「それは勘弁してください」
私たちは夕食を終え、明日のために休息をとる。
代わり映えの無い砂と岩の大地を抜けて、草原が広がる場所に到達した。
ここまで来るとゴブリンの集団やコボルトが稀に攻撃しに来る。
万が一、生き残ったゴブリンなどが魔王軍に密告されると面倒なので、出会ったら全滅させる。
「ジーナ様、終わりました」
「お疲れ様です剣聖さん。そろそろエルフの森の入り口です。彼らは幻術で里への侵入を防ごうとするので、私に付いてきてください。はぐれた人は置いていくので、頑張ってください」
「師匠には幻術が効かないんですか?」
「私の魔法耐性はかなり高いです。エルフ程度では私に幻術を掛けるのは不可能だと思いますよ」
「まあ、師匠がそう言うならそうなんでしょうけど、何か納得できません」
私たちはエルフの森に足を踏み入れた。
エルフの住む森は巨大な魔導具という感じだ。
彼らは自らが住む森の木や地面に魔法陣などを仕掛け、方向感覚を鈍らし、幻覚が見えるようになるとか。
「霧が濃いな」
勇者さんは魔法耐性は高めのようだが、攻撃に対する耐性に偏っているため、エルフが使うような間接的な魔法に対する耐性はかなり弱そうだ。
「勇者さん、それは幻術ですよ」
「ルカは魔法耐性をもっと鍛えないといけなさそうだな」
大賢者さんは勇者さんの師匠とのことだが、鍛え方が足りないにもほどがあるのでは? と思わずにはいられない。
「ねえ? 道に従うべきなんじゃない?」
聖女さんが不安そうにしている。
不安のあまりか勇者さんにしがみついてる。
勇者さんが身動きがとりづらくなっている。
奇襲されたらどうするつもりなんだろうか?
「聖女さんがどのように見えているのかは分かりませんが、私は道をしっかりと歩いています」
「師匠! どうやって木を通り抜けたんですか?」
「通り抜けたということその木は幻です」
しばらく歩き続けると、人型の何かが包囲するように動いている。
おそらくエルフなのだろう。
「皆さん、エルフの方々が攻めてくるようです。彼らの主な攻撃は風魔法と弓です。木の上からの射撃は気を付けてください」
顔に向かって飛んできた矢を打ち払う。
「エルフは礼儀というものを知らないので嫌いです。森から出てきて礼儀を学んだら如何なのかなと思いますね」
「それをエルフの森で言いますか?」
『去れ。ここはエルフの森だ』
頭に直接語り掛けてきた。
念話のようだ。
私以外の全員がかなりびっくりしているようだ。
いきなり念話を使うなんて無礼を畳みかけてきた。
基本的に相手の思考を読んだり、念話を使う場合は事前に相手に了承を得ることがマナーと言われている。
とは言っても、念話は了承がないと相手に呼びかけるのが難しいスキルなので、基本的にはこのような無礼な真似はできない。
今回は森の魔法陣によって補正がかかり、強制的な念話ができたのだろう。
私はお返しに高出力の念話でエルフに返答する。
『そこまでおっしゃるのなら顔を見せては如何?』
木からバタバタとエルフが落ちる。
高出力過ぎる念話で気絶もしくは驚きで足を踏み外したのかもしれない。
「降りてきましたね」
「師匠、何をしたんですか?」
「すぐに私を疑うのはイラリアの悪い癖だと思います。降りてきたようなので、里まで連れて行ってくれるように友好的な対話をしましょうか」
「師匠、手に持っているフライパンは何ですか?」
「フライパンって自分で言ってますよね? 何か分からないところがありますか?」
「友好的な対話とフライパンに何の接点があるんですか?」
「友好的な対話にはまず、会話を始めるための説得って言うものが必要なんですよ?」
一番強そうなエルフが目を覚ましてしまった。
「貴様ら、どういうつもりだ?」
「イラリアがうるさいせいで目を覚ましてしまったではないですか。仕方ないですね、フライパンを使う子守唄を披露しなくては」
「一般的には殴るって言いませんか?」
「あははは」
「笑ってごまかそうとしないでください」
エルフのリーダー格に急接近して、殴打する。
再び眠ったようだ。
「この子守唄の注意点は適度に眠らせることです。頑張りすぎると永遠の眠りになっていまいます」
「だから、それは殴るってことですよね?」
他の寝ているエルフを無視して、捕縛したエルフと友好的な対話をした結果、里に案内してもらえることになった。
「時々、自分の交渉力に恐怖を感じます」
「師匠は恐怖で思い通りに動かすことを交渉って言うんですか?」
「何言ってるんですか? それは恫喝って言うんですよ? 私の天才的な交渉力をそんな失礼な表現をするなんて心外です。フライパンを使いたくなります」
「謝るんでフライパンをしまってください」




