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第40話 狩りの時間です

イラリア、剣聖さん、盗賊さんは緊張感あふれる面持ちで席についている。

勇者さん、聖女さん、大賢者さんは夕飯もいらないそうだ。


「どうかなさいましたか? 夕飯に緊張する要素はありませんよ?」


「師匠、反省って言葉知ってますか? 自分の行いを省みてから発言してください」


「皆さんに魔力回復に効果のある肉を出しただけですけど……」


「味の方に言及してください」


「すべてを求めるというのは傲慢というものですよ?」


「人間が食べることが出来る最低限の味は満たしてください」


料理が運ばれてくる。


「匂いだけは良いというのが憎たらしいですね。今日も肉料理ですか?」


「はい。では頂きましょうか」


私はナイフを入れ、口に運ぶ。

イラリアは覚悟を決めた様子で口に運んだ。


「あれ? おいしい」


その一言を聞いて盗賊さんと剣聖さんも肉を口に入れた。


「当然です」


「何の肉ですか? この肉、食べたことないんですけど」


「水竜の肉です」


「え? 水竜って食べられるんですか?」


「はい。食べても問題ありません。魔力回復など効果は魔人の肉と同じですが、味は雲泥の差があります」


「確かに……、でも、どうやって水竜の肉を?」


「ご存じないのですか? 魔族領と人間領を陸路ではここを通るしかありませんが、海路であれば、別に通れないわけじゃないんですよ?」


「え? じゃあ、何でこんなヤバい場所に……」


「水竜がうじゃうじゃいるおかげで海路で魔王領へ無事に到着できる確率は50パーセントです。これは帰りも同じ確率です。つまり、4隻行っても1隻しか生還できないということです。乗組員が無傷で帰ってくる確率はさらに低くなります。ちなみにですけど、最近はその生還率がどんどん低下しています」


「何でですか?」


「水竜の数が増えているからです」


「ここは大丈夫なんですか?」


「大丈夫です。フライパン教徒は魔物に後れをとることはありません。そんな人間がいたら、私が先に滅ぼします」


「斬新な教育方法ですね。でも、どうやって水竜を狩ってるんですか?」


「養殖しているので、簡単ですよ?」


「え? 水竜って養殖できるんですか?」


「はい。ただ、水槽は厳しいので放し飼いなんですけどね」


「放し飼い? 最近の生還率が下がってる原因はこの街のフライパン教徒にあるってことじゃないですか!」


「違うんです。エサ代がバカにならないので、そこら辺の船を襲ってもらおうと」


「違わないじゃないですか」


「まあ、海路を使われるとこの街の強みが無くなりますからね」


「とうとう本音が出ましたね。でも、そんなに魔王領に行く冒険者います?」


「まあ、そこそこはいますよ。軍隊が砂漠越えするのは厳しいですが、パーティー規模でそれなりの実力があれば、これと言って問題になるほどのことではありませんから。それに魔王領の魔物は高濃度の魔力を吸収しているので、素材としては最高級品です。売れば、それなりの値段がつくことは間違いありません。ただ、魔物も強いので注意が必要ですけど」


「なるほど」





翌日、私は教団本部の執務室で報告を受けていた。


「タフィ、これはどういうこと?」


「どうやら、魔王軍によって、通商妨害が行われているようでして……」


「通商路の安全確保は最優先事項と言っていたはず。それを分かったうえでの失態ですよね?」


タフィは頭を下げる。


「申し訳ありません」


「魔王軍の攻撃の予想は?」


「偵察部隊によると2週間以内であると報告を受けています」


「1週間で世界各地にいる聖戦士たちを集めなさい」


「承知いたしました」


「師匠、分かるように説明してもらっていいですか?」


イラリアが急に声を上げる。


「会話の妨害とはいい度胸してますね」


「いや、今終わったところじゃないですか」


「仕方ありませんね。鳥頭でも分かるように説明します」


「自然な流れで悪口は良くないと思いますよ?」


「ここはフライパン教徒が集まってできた街です。この街は魔物による襲撃から安全を確保するために作られたので、基本的には自給自足の考えがあります。しかし、交易などを通じて、経済規模が大きくなると外部からの商人や冒険者などが訪れるようになります。彼らの食糧は外部からの輸入に頼ってます。現在、魔王軍の攻撃で食料の輸入が滞っており、十分な食料を確保できていません。この場合とる方法は三つあります。魔王領に進軍して、やられる前にやる。余剰人口を水龍の餌にする。防衛の準備を整えるです」


「二番目の選択肢は論外です。住民を何だと思ってるんですか!」


「もちろん。フライパン教徒は餌にしませんよ。フライパン教徒には鉄の結束があります。その連携力をたたえて、トレントのツル並だと評されます」


「それ、悪質で粘着質って言われてませんか? それより、ダーバラでフライパン教の兵士を置いて逃げることが出来るって豪語していたのに、鉄の結束とか言って恥ずかしくないんですか?」


「イラリアに恥という概念があったんですね。ゴブリンすらまともに狩れないことに恥ずかしさを感じてなかったようなので、てっきり恥という言葉を知らないのかと思ってました」


「あれはまだ、レベルが低かったから……」


「私はレベル9でもゴブリン程度は100人組み手をしても余裕でしたよ?」


「それは師匠が異常なだけです」


「まあ、何にしても魔王軍には痛い思いをしてもらいましょう」




私が聖戦を宣言したため、世界各地に傭兵として働いていたフライパン教徒が聖地であるパダラに終結している。

もちろん、この宣言を大々的にしたことにより、魔王軍はこちらの準備が整う前に攻撃しようとするだろう。

だが、聖戦士たちの機動力は凄まじい。

4日で万単位の人間が集まってきた。


「聖戦士って言葉を最近聞くんですけど、何ですか?」


「聖戦士とは普段は傭兵として、生計を立て、いざというときは教団のために戦う人間のことです。M値が高いので教団幹部にはなれませんが、信者たちからは尊敬される存在です」


「いい感じに言ってますけど、常備軍にするとお金がかかるかあら、都合のいい時だけ。使えるようにしているってことですよね?」


「何言ってるんですか? フライパン教のために戦うのにお金なんて貰えるわけないじゃないですか」


「こっちが聞き返したいです。ただ働きでよく集まってくれますね」


「みなさん信心深いですから」


「全員、サディスティックなマゾヒストなんですか?」


「程度に差がありますけど、そうですよ」


「その人たちもフライパンで戦うんですか?」


「傭兵として戦うときはフライパン以外の武器で戦います。そして、物に当たり散らしながら、天空神への信仰を説くように指導しています」


「ネガキャンがすごいですね」


「そうですか? 私としては物足りなさがあるのですけどね」


「今の発言でさらにドン引きです。でも、街の人は何でこんなに盛り上がっているんですか? 普通は避難を始めると思うんですけど」


「フライパン教徒の魔物と他宗教に対する憎悪は本物です。彼らは敵を撃ち滅ぼす喜びに震えているのですよ」


「魔物はまだわかりますけど、他宗教はダメだと思います。そう言えば、師匠は魔王軍をここで迎撃するんですよね?」


「はい」


「師匠の攻められるより攻めたいっていう病気は大丈夫なんですか?」


「病気の点は意味が分かりませんが、敵は都市の近郊まで接近していると思います。人間領の通商路を攻撃されているので潜伏は間違いないでしょう」


「でも、敵が攻撃してくるのは2週間後ですよね?」


「通商妨害と都市への攻撃は必要な戦力と準備が異なります。今頃、魔王領に援軍でも求めてるのではないですか?」


「援軍を求めるぐらいなら、撤退しても良さそうですけど……」


「撤退をすれば、確実にこちらの警戒網に引っかかります。魔王軍の指揮官もそのことを理解しているのでしょう。しかも、撤退中に背後を突かれれば、深刻なダメージを追う可能性が高くなります。攻撃よりも撤退の方が難易度は高いですからね」


「なるほど」


外からドタドタと足音が聞こえる。

扉が開けられた。


「タフィ、ノックもできなくなりましたか?」


「大変です! 勇者が!」


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