第34話 良いですか? お布施とは自らの力で勝ち取る物なんです
私たちは馬車に揺られてパダラの近くの大きな街まで行った。
パダラは交易が盛んで経済的にも発展した街ではあるが、他の大都市と直接つながる街道が少ない。
魔王領との距離が近いため、魔力濃度が高く、魔物が自然発生することがよくある。
他の都市と同じ気分でパダラに来ると間違いなく痛い思いをする。
むしろ、痛い思いが出来れば幸運の部類に入るかもしれない。
そのような人間は魔物の餌になり、学習できないで人生を退場になる。
「ここからは徒歩の方が良いと思いますよ。馬車の場合は対魔物用になっているので、値が張りますし」
「私は多少お金がかかっても、馬車が良いな」
「聖女さん、わがままはいけませんよ。パダラまではそこまで遠くありませんから」
「まだ、名前覚えてないの?」
「急ぎではないので、10年ぐらいかけて覚えます」
「それ、ほんとに覚える気あるの?」
「レラさん、師匠にまともな受け答えを頼むのは無駄なので諦めた方が良いですよ」
パダラまでの道には魔物も多くいるが、盗賊も多い。
行商人が貴重な魔物の素材を運んでくるのを待ち伏せているようだ。
向こうから護衛に守られた馬車がやってくる。
その護衛たちは全員おでこに傷があった。
それは地面に額をこすりつけたような傷だった。
私は彼らが近づくのを待って、フライパンの間合いに入ると、護衛たちをフライパンで殴打して、全滅させた。
「な! おい、ジーナ! 君は一般人にまで手を出したのか?」
勇者が叫ぶ。
「いつの間に……。まったく目に追えなかったのだけど」
レラのつぶやきにイラリアが反応する。
「師匠の戦闘能力とクズさは右に並ぶ者はいませんからね」
勇者は私の腕を掴み、動きを封じようと試みたので、その手を躱し馬車の御者を引きずり出して信仰心の籠った一撃を頭に叩き込む。
「彼らを殴ったちゃんとした理由があるんだろうな」
勇者が本気で怒っている。
余りの怒りに魔力が漏出して、周囲の人間を威圧している。
聖女さん、盗賊さん、イラリアは顔が面白いぐらい青ざめている。
「もちろんです。私は無意味に暴れる戦闘狂ではありませんよ。立派な文明人ですから」
「日頃の行いを省みてから物を言ってほしいです」
イラリアが何か言ってる。
勇者の怒気に当てられて、ダメになってるかと思いきや見た目に反して平気なのかもしれない。
「そこで寝ている男たちの額をよく見てください」
「額?」
「生々しい傷がありませんか?」
「全員にあるな」
「この周辺の盗賊にはこの傷があるんですよ」
「何言ってるんだ?」
「話せば長くなるんですけど、フライパン教の聖職者は活動費を盗賊の方から頂きます。初期の頃は良いカモと思って襲ってきた盗賊たちを返り討ちにしてお布施を頂いていたのですが、次第に盗賊たちの間でフライパン教徒には手を出すなという噂が流れたらしいんですよね。なので、対応策をフライパン教の幹部の間で審議した結果、フライパン教徒は毎日額を地面に血が出るまでこすりつけて、礼拝するという虚偽情報を盗賊に流したので、この周辺の盗賊は額に生々しい傷があります」
「そうか。怒って悪かったな」
「マジですか、ルカさん。心が広すぎて、驚きです。尊敬の念を通り越してドン引きです」
「追加情報ですが、流している噂は複数あるので、私が殴ったら、そいつは盗賊なんだなって思ってください」
「師匠、殴る前に教えてください」
「最大限の努力をします」
「しないって言いたいんですか? 絶対にしてください」
「嫌です。特にイラリアと聖女さん、あと勇者さんにも教えたくありません」
「何でですか師匠!」
「ちょっと、何でよ!」
「叫ばなくても聞こえます。まったく、ハーピー並みに下品な方ですね。聖女さんは」
「それは言い過ぎだと思います」
「ハーピー並み?」
「レラさん、知らない方が良い事もありますよ」
「聖女さんとイラリアは教えたら、動きがぎこちなくなってバレそうじゃないですか。勇者さんは無意味な正義心でこちらが疲れる結果になりそうなので嫌です。あ、少し待っていただいて良いですか? ちょっと、こちらの寝ている方々を教育するので」
「何をするつもりだ?」
「ルカさん、師匠と一緒にいると良くある話なので、気にしない方が良いですよ」
「本当に何をするつもりだ?」
私は馬車の陰に盗賊たちを引きずり、しっかりと信仰心を植え付けた。
「何でこんなに鈍い殴打音が聞こえるんだ?」
「改宗じゃないですか?」
「改宗? 宗教行為に殴打音はおかしくないか?」
「フライパン教に常識って概念はないので、あまり考えない方が良いですよ。考えすぎると、すべてが馬鹿らしくなって廃人になりますよ」




