第25話 肉体労働? 私は働きたくないの!
迷宮内ではいくつかのパーティーを一まとめにして一グループを作り、グループ単位で持ち場を任されている。
私たち100人ほどのグループに編成された。
「お前ら、俺の指示通りに動けば、スタンピードなど恐るるに足らん」
この大した実力もなさそうなのに自信だけはいっちょ前なのは剛腕のアドルフォと呼ばれている。
ひねりもなければ、特徴としても微妙な通り名であり、人だ。
「ジーナちゃんは休んでればいいから」
この男、私にいいところを見せようと、カッコつけている。
一応、この中では一番強いらしい。
そして、彼がこのグループのリーダーだった。
この街はよっぽどの人材不足と見える。
「ありがとうございます」
「アドルフォがいるなら安心だな」
どっかからそんな声が聞こえる。
イラリアが私に耳打ちしてきた。
「良いんですか?」
「構わないでしょ? だってリーダーがサボっていいって言うのですから、これで私が働くことになったら水分を50パーセントカットしてやります」
「やめてください。そんなグロ映像は見たくありません」
私たちが雑談していると魔物の気配が近づいてくる。
「来たぞ!」
「おい、何だよ。千は軽く超えてるぞ……あんなの相手にどうやって……」
剛腕のアドルフォは早速心が折れかかっている。
「リーダー頑張ってー」
私が極限までぶりっ子な声を出し、声援を送る。
「そうだ、俺はこのスタンピードを超えて、ジーナちゃんを貰う!」
彼の中のやる気と私の殺意が高まっている。
「やっぱり、あいつの水分半分飛ばすべきですね」
「え? 今何か言った?」
「何でもないよ。剛腕のアドルフォの実力見てみたいなって」
「ウオオオォォォ、何か気分が乗ってきた。やれる、やれるぞ!」
アドルフォは一人で魔物の大軍に飛び出した。
他の仲間たちもアドルフォに続いた。
マジ、ちょろ。
「俺らも行くぞ!」
「オオオォォォ」
彼らは実力以上の力を引き出され、痛みも感じず、まるで狂戦士のように戦っている。
「師匠、何したんですか? 彼らに」
「勇気が出る薬と、痛みを感じなくなる薬と、気分がよくなる薬を彼らの飲み物に混ぜといたよ。でも、ヒクよね。公衆の面前で私を貰う宣言だって。バカじゃね?」
アドルフォがこちらに向かって叫んでる。
「ジーナちゃん見てるか~」
「うん。見てる。見てる。ねえ? まだ、終わんないのー」
私はアイテムボックスから金貨を取り出し、枚数を数える。
「師匠、演じるなら最後まで頑張ってください。彼の夢を戦闘中に壊さないであげてください」
「大丈夫です。今、彼の脳内では私に補正がかかっていますから」
「何を根拠にそんなことを……」
「私は教祖様ですよ? 人心を掴むなんて造作もない事です」
「私の心はどんどん離れてますけどね」
彼らはドーピングにより、何とか魔物の第一陣を退けた。
だが、ドーピングが強力すぎて、次の戦闘には使えなさそうだ。
今は、ぐったりとして、バタバタと倒れながら寝ている。
夜になると迷宮は寒くなる。
なので火を焚いて、地べたに座り、暖をとる。
「薪が足らなかったら、そこら辺の寝ている人を燃やしましょうか」
「やめてください」
「それにしても、明日の戦闘はどうしましょうか?」
「師匠が一人で頑張ればなんとかなりますよね?」
「でも、ここを突破されちゃいけないって言うならそれは無理ですね」
「師匠ならできます」
「イラリア、私を盾にして逃げようとしてないですか?」
「そんなことは……」
「最近、守るもん君が朝方になるとイラリアの枕元に移動しようとしています。私を呪殺できないって知ったら、他に標的を変えたみたいですね。毎朝、止めるのが大変なんですよ?」
「嘘です。死力を尽くして教祖様をお守り致します!!」
「よろしい。でも、そうですね……守るもん君を地雷として使ったら、その魔力でまた、魔物が寄ってきて、本末転倒ですし……。やっぱり、ここは大きいのを倒せばいいと思いませんか?」
「詳しく教えてください」
「今回のスタンピードがイラリアの推測通りだとしたら。より下の階層から来た化け物がこっちに向かってくるから、それよりも弱い魔物がここに来るってわけですよね。なら、一番強い魔物を倒せば、今回のスタンピードは収まるということです」
「じゃあ、その魔物を倒すにはどうするんですか?」
「そんなのは持ち場を離れてちょちょいと……」
「持ち場を離れていいわけないでしょ」
「でも、それ以外に方法はないと思いませんか?」
「今の話、詳しく聞かせてもらっていいかな?」
私は見知らぬ声を聞き、驚きからとっさに顔を上げる。
「勇者! なぜここに? あなたの持ち場はここではないですよね? 殴りますよ」
「師匠! やめてください」
「真面目な方なんですね」
「あ? 今のを……」
私はイラリアに口を押えられ喋れない。
「私の師匠は融通の利かない真面目な人なんです。勇者様にご無礼な口利きをして申し訳ありません。師匠の代わりに謝ります。すみません。すみません」
「気にしてないので、大丈夫ですよ。それで、先ほどあなた方が話していたことを教えてもらっていいですか?」
イラリアは私の話の危ない部分を良い感じに誤魔化しながら、簡潔に勇者に伝えた。
「なるほど。確かに一理ある。君たちも手伝ってもらえるかな?」
「いいですよ。ね? 師匠……」
私の目がそんなに怖いの?
イラリア。
なぜ、そんなに震えているのかしら?
ねえ?
怖いの?
私は口を押えられているため、声は発せない。
「師匠、だい、じょ、うぶ、ですよね?」
私の口を塞いでいるイラリアの手を軽く叩いた。
「あ、すみません」
「仕方ありませんね」
私は勇者に手を差し出す。
「友好の証です」
握手だ。
勇者の顔に喜びの色が現れる。
「ああ、よろしく頼む」
私たちは堅い、堅い、握手をした。
「では、この方々に事情の説明が必要なので、明日お迎えに来ていただけると助かります」
私は地面で寝ている冒険者を指さす。
「ああ、そうしよう」
勇者はこの場を後にした。
「珍しいこともあるんですね。まさか、師匠が勇者と握手するなんて……」
「いい? 守るもん君、この匂いを嗅ぎなさい。そして覚えるのよ、あなたが明日の朝、呪殺する対象の手の匂いよ」
私は守るもん君に勇者と握手して触れた手を擦り付ける。
「師匠! 勇者を呪殺しようとしないでください!!」




