第3話 身体に宿ったもの
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この小説は僕が別で投稿している小説「クロレキシ」の番外編の3話です。
本編もぜひご一読ください!
「君たちのこと、これから俺が鍛えます!」
「「「……はいぃ?」」」
俺たちは3人同時に素っ頓狂な声をあげた。何言ってんだこの人。
「いやぁ、自覚してないと思うけど、トツカくんだけじゃなくて、君たち2人もすっごい妖気を持ってるっぽいんだよね。その剣の近くにいたからかな?」
「マジっすか!? マジっすか!!?」
「わ、私たちも……勇者に……!?」
佑助と優姫は急に興奮しだした。
おい、ノリノリじゃないか。
そんな時、涼介が俺の耳元でコソッと言った。
「でもねトツカくん、君の妖気はやはり特別なんだ。なんてったって、八岐大蛇の妖気だからね。その剣を狙ってる悪いヤツらを倒すためには、君のその能力が必要不可欠。どうだ? 君は力を貸してくれるか?」
涼介は真剣な顔で俺に訊いてきた。
「……その悪いヤツらがこの剣を手に入れたらどうなるんだ?」
「その剣に宿っている八岐大蛇の力を解き放ち、世界中の諜報機関を崩壊させる。そして、そこに悪いヤツらの親玉が座り込み、いずれ……世界を征服する」
「!!」
「驚いた? でもこれは冗談でもなんでもない。そうなる可能性が本当にあるんだ。この世界も裏の世界も、その悪いヤツらによって全ての世界が終わる」
今朝の俺なら、そんなこともどうでもいいと思っただろう。
「知らねーよ」で済ましていたし、そんな話、信じようともしなかっただろう。
けど、今は違う。
教室の隅っこで1人でいる俺に話しかけてくるような変な奴らだけど、いい奴らだ。
俺みたいな奴のことを本気で心配してくれる、いい奴らなんだ。
そんな奴らを、2人を守りたい。
俺は拳をグッと握る。
「俺がソイツらと戦って勝てばこの世界を、2人を守れるのか?」
「それは俺には答えられないな。その答えを導き出すのは、君自身だ」
「ソイツらは、さっきの怪物よりも強いのか?」
「強い奴もいるだろうね」
アイツより、強いのか……
そう思った途端、全身が小さく震えだした。
「……怖くなってきたかい?」
「……いや、武者震いさ」
俺はなんとか笑顔を作り、涼介に応えたつもりだ。
俺の顔を見て、ぷっ、と涼介が吹き出した。
「いいねぇ。怖い時でもそうやって強がって笑う。その剣は、君のそういうところを勇者の素質と見込んだのかな」
そう言うと涼介は、右手をスッと差し出してきた。
「武者震いってことは、返事はYESでいいのかな?」
「まぁ、そうかな」
俺も右手を差し出し、グッ、と握り合う。
「そんじゃ、よろしくね。勇者くん」
「ああ。よろしく、師匠」
俺たちは顔を見合って、ニッ、と笑った。
「じゃあ3人とも、今日から早速特訓するからねー。場所は夜の君たちの学校で。そんじゃねー!」
そう言うと、涼介は俺たちに背を向けてスタスタと去っていった。
「い、行っちゃった……」
「夜っていったって、何時だよ……」
俺たちが呆然としていると、
「まぁ、8時くらいから待ってたらいいだろ! そんじゃ、また後でなー!」
と佑助が元気に言った。
明るいだけなのか、何も考えていないのか……
「あ、待ってよ佑助! それじゃあね、人柄!」
佑助の後を慌ただしく優姫が追っていった。
「ああ、後でな」
俺は彼女に軽く手を振る。
さて……家の庭と壁、どうしよう。
◇◆◇◆◇
午後11時。
「やーやー、お待たせ。あれ、なんか怒ってる?」
「「「もちろん」」」
俺たちは午後8時に学校の前に集合してた。それから3時間ほどが経過して、ようやく師匠がやって来た。
おっせーよ。
「どんだけ待ったと思ってんだ……」
「まぁそう言うな弟子よ。あと、弟子になったんだから、師匠には敬語で話しなさい」
「……分かりました、師匠」
うぜぇ……やっぱり選択間違えたかな……
「んじゃ3人とも、まずは準備運動だ! ここのトラック10周くらいしておいでー」
「「「……はぁ?」」」
「はぁ? じゃない。ほら、行った行った」
そう言うと師匠は俺たちに向けて手をしっしっと払った。
俺たちは渋々トラックを走ることにした。
10分後。
「ぜはー……ぜはー……」
ヘロヘロになった優姫が10周目を終え、戻ってきた。
「優姫、大丈夫か?」
「だ……だいじょばない……」
優姫の横で、佑助もまだ少し息を荒くしている。
「おつかれー! んじゃ、こっから妖術の修行だよ。準備はいいね?」
「「「うへぇ……」」」
初日なのに、なかなかハードだな。くそ……
「じゃあ、まずは妖術を使って俺に攻撃してみて」
「え……いいんですか?」
優姫が躊躇いがちに訊いた。
さっきは怪物だったから攻撃できたが、人に向けて妖術を放つのは、俺もさすがに抵抗がある。
「いいのいいの。さ、まずは君から」
そう言うと、師匠は優姫を指さした。
「じゃ……じゃあ、いきますよ……?」
「いつでもどーぞ」
優姫は師匠に向けて手をかざし、妖気を溜める。
「うん、妖気を操る感覚は掴めてるみたいだね。んじゃ、そのまま俺に放ってみな」
「はぁっ!!」
ドンッ!! という音と共に、優姫の手から水色に光るエネルギー弾が師匠に向けて放たれた。
「師匠! よけて! 避けてください!」
優姫はそう言うが、師匠はニヤリと笑い、エネルギー弾に向けて指を弾いた。
「大丈夫さ」
パァンッ!!
すると、エネルギー弾は弾け散った。
「う、うそぉ……」
「マジか……!!」
「……すごいな……」
俺たちは目の前で起きた事に、口々に感想を述べた。
「ほら、感心してないで次、次。じゃあ佑助、俺に攻撃してみな」
「お、おっす!」
佑助はそう言うと、俺たちより一歩前に出る。そして優姫と同じように構え、妖術を放った。
ドンッ!!
佑助の妖術は、優姫のものよりも勢いよく放たれた。
バチィンッ!!
しかし、師匠はそれも容易く弾く。
「優姫の妖術よりは威力があるね。でも、まだ妖気が圧縮しきれていない。佑助はもうちょっと溜めの時間を作るか、妖気をもっとスムーズに流す練習をしようか」
「おす! 分かりました!」
「じゃあ次、人柄」
師匠は俺に向かって手招きをした。
俺は素直に師匠の前に立つ。
「いつでも何でもいいよー。撃っておいで」
「……そんじゃ、いきますよ」
俺は先ほどと同じ感覚で、剣先を師匠に向け、妖気を溜める。
「いけ!!」
そう言って妖気を放った時、俺の頭の中で、蛇が威嚇した時のような声が響いた。
「え?」
ゴォォォオオオ!!
俺の剣先から、もの凄い勢いで炎が放たれた。
「炎!?」
俺は自分で放っておきながら、炎を見て驚いた。
「……へぇ」
師匠は炎を見てニヤリと笑った後、指鉄砲を右手で作り、指先に妖気を溜める。
「ほいっ」
ドンッ! という音がし、指先に溜めていた妖気が放たれた。
その妖気は俺の炎とぶつかると、爆発を起こし、相殺した。
「……す、すげぇ……」
「いやー! やっぱり君は勇者だよ、勇者!」
師匠が楽しそうに俺に歩み寄ってきた。
「さっき、炎が出て驚いたろ? 夕方に見た妖術と違ったから」
「は、はい……なんでですか……?」
俺がそう問うと、師匠はふふふ、と楽しそうに笑った。
「夕方俺が、君の身体には八岐大蛇の妖術が宿ったと言っただろ?」
「はい」
「八岐大蛇はね、八つの首を持つ化け物なんだ。そして、その首一つ一つに自我がある。この意味、分かる?」
俺はそこで、ピンときた。
「まさか、8種類の妖術が俺に宿ってる?」
「そーいうこと。1種類目は、夕方の黒い蛇の妖術。2種類目が、今の炎の妖術。この2つに加えて、まだ6種類もあるんだ」
「……でも、俺はまだそんなに上手く使い切れてませんよ。今だって、さっきの黒い蛇の妖術を使おうと思ったのに、炎の術が出た」
俺は師匠にそう言って、下唇を軽く噛む。
妖術を上手く扱えないことが悔しかった。
そんな俺の肩に、師匠は手をポン、と置いた。
「そんなに落ち込まなくてもいい。妖術の存在を知って、たかが数時間の奴がここまで威力のある妖術を放てるんだ。あんまり実感湧かないだろうけど、それだけですんごいことなんだよ?」
「そうなんですか?」
「ああそうさ。そのうえ、ただでさえ扱いづらい八岐大蛇の妖術をいとも簡単に放てるんだ。自信を持ちな。君はすごいよ」
そう言うと師匠は俺の背後に回り込み、背中をバシッと叩いた。
「……痛え」
「ふふ。さて、佑助ー、優姫ー。こっちおいでー」
師匠に手招きされ、少し離れた所にいた2人はこちらに駆け足でやってきた。
「さて、3人とも。今日の特訓はこれで終わりだけど、明日からの特訓内容を今から伝えます」
「あ、明日もあるんっすか!?」
佑助が一歩前に踏み出して言った。
「あるよ〜。っていうか、これから毎日特訓します!!」
「「えぇ〜!?」」
2人は勘弁してくれ、とでも言うような顔で声をあげた。
俺は薄々分かってたよ。だって世界を救うためだもんな。1日2日特訓したところで、そんなことできるわけない。
「佑助と優姫は妖術っちゃ妖術なんだけど、まだ妖気を固めて放ってるって感じに近いんだよねー。だから、2人は明日から妖気を練る特訓」
師匠がそう言うと、スッと優姫が手を挙げた。
「妖気を固めるのと練るのって何が違うんですか?」
「いい質問だねぇ。んーと、じゃあ妖気を粘土に置き換えて説明しようか」
師匠はオホン、と咳払いをする。
「学校でさ、粘土を使っていい作品を作ろうとする時、君たちならどうする?」
「……そりゃあ、粘土をよくこねて、大体の形を作って……」
俺がそう言うと、師匠が指をパチンと鳴らした。
「そう。ただ粘土をくっつけるだけじゃない。粘土をよくこねて形を作ってから、完成品として先生に提出するでしょ?」
「あ……!」
優姫が目を見開く。
それを見た師匠は満足げにうん、うんと頷いた。
「分かったみたいだね。妖術を放つためには、妖気をくっつけるだけじゃダメなんだ。妖気を練って、妖術の大体のイメージを頭の中で思い浮かべて、放つ。これができて、初めて妖気は妖術と呼べるものになるんだよ」
なるほど。説明上手いな。この人、本当は教師か何かなのか?
「と、いうことで! 佑助と優姫は明日から妖気をよく練る特訓ね〜。OK?」
「「……おーけー……」」
2人は不満げだ。そりゃそうだわな。どうせだったら、もっとカッコいい特訓したいよな。
師匠は俺の方に体を向けた。
「そんで、人柄は妖術はもう出来上がってるから、次は自分が扱える妖術をすべて把握すること。いいね?」
「……分かりました」
俺が返事をすると、師匠が、はい! と言ってパチンと手を叩いた。
「それじゃあ、今日の特訓は終了! 気をつけて帰るように〜」
そんじゃね、と言って師匠は校門から出ていった。
「「「はぁ〜……」」」
俺たちは3人同時に大きなため息をついた。
それが特訓の疲れによるものか、これからの日々への不安によるものかは、俺には分からなかった。
お読みいただき、ありがとうございます!




