表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/5

第3話 身体に宿ったもの

100PV、ありがとうございます!


この小説は僕が別で投稿している小説「クロレキシ」の番外編の3話です。

本編もぜひご一読ください!

「君たちのこと、これから俺が鍛えます!」


「「「……はいぃ?」」」


 俺たちは3人同時に素っ頓狂な声をあげた。何言ってんだこの人。


「いやぁ、自覚してないと思うけど、トツカくんだけじゃなくて、君たち2人もすっごい妖気を持ってるっぽいんだよね。その剣の近くにいたからかな?」


「マジっすか!? マジっすか!!?」


「わ、私たちも……勇者に……!?」


 佑助と優姫は急に興奮しだした。

 おい、ノリノリじゃないか。


 そんな時、涼介が俺の耳元でコソッと言った。


「でもねトツカくん、君の妖気はやはり特別なんだ。なんてったって、八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の妖気だからね。その剣を狙ってる悪いヤツらを倒すためには、君のその能力(ちから)が必要不可欠。どうだ? 君は力を貸してくれるか?」


 涼介は真剣な顔で俺に訊いてきた。


「……その悪いヤツらがこの剣を手に入れたらどうなるんだ?」


「その剣に宿っている八岐大蛇の力を解き放ち、世界中の諜報機関を崩壊させる。そして、そこに悪いヤツらの親玉が座り込み、いずれ……世界を征服する」


「!!」


「驚いた? でもこれは冗談でもなんでもない。そうなる可能性が本当にあるんだ。この世界も裏の世界も、その悪いヤツらによって全ての世界が終わる」


 今朝の俺なら、そんなこともどうでもいいと思っただろう。

 「知らねーよ」で済ましていたし、そんな話、信じようともしなかっただろう。


 けど、今は違う。

 教室の隅っこで1人でいる俺に話しかけてくるような変な奴らだけど、いい奴らだ。


 俺みたいな奴のことを本気で心配してくれる、いい奴らなんだ。


 そんな奴らを、2人を守りたい。


 俺は拳をグッと握る。


「俺がソイツらと戦って勝てばこの世界を、2人を守れるのか?」


「それは俺には答えられないな。その答えを導き出すのは、君自身だ」


「ソイツらは、さっきの怪物よりも強いのか?」


「強い奴もいるだろうね」


 アイツより、強いのか……


 そう思った途端、全身が小さく震えだした。


「……怖くなってきたかい?」


「……いや、武者震いさ」


 俺はなんとか笑顔を作り、涼介に応えたつもりだ。


 俺の顔を見て、ぷっ、と涼介が吹き出した。


「いいねぇ。怖い時でもそうやって強がって笑う。その剣は、君の()()()()()()()を勇者の素質と見込んだのかな」


 そう言うと涼介は、右手をスッと差し出してきた。


「武者震いってことは、返事はYESでいいのかな?」


「まぁ、そうかな」


 俺も右手を差し出し、グッ、と握り合う。


「そんじゃ、よろしくね。勇者くん」


「ああ。よろしく、師匠」


 俺たちは顔を見合って、ニッ、と笑った。


「じゃあ3人とも、今日から早速特訓するからねー。場所は夜の君たちの学校で。そんじゃねー!」


 そう言うと、涼介は俺たちに背を向けてスタスタと去っていった。


「い、行っちゃった……」


「夜っていったって、何時だよ……」


 俺たちが呆然としていると、


「まぁ、8時くらいから待ってたらいいだろ! そんじゃ、また後でなー!」


 と佑助が元気に言った。

 明るいだけなのか、何も考えていないのか……


「あ、待ってよ佑助! それじゃあね、人柄(とつか)!」


 佑助の後を慌ただしく優姫が追っていった。


「ああ、後でな」


 俺は彼女に軽く手を振る。




 さて……(うち)の庭と壁、どうしよう。






◇◆◇◆◇






 午後11時。


「やーやー、お待たせ。あれ、なんか怒ってる?」


「「「もちろん」」」


 俺たちは午後8時に学校の前に集合してた。それから3時間ほどが経過して、ようやく師匠(このひと)がやって来た。


 おっせーよ。


「どんだけ待ったと思ってんだ……」


「まぁそう言うな弟子よ。あと、弟子になったんだから、師匠(おれ)には敬語で話しなさい」


「……分かりました、師匠」


 うぜぇ……やっぱり選択間違えたかな……


「んじゃ3人とも、まずは準備運動だ! ここのトラック10周くらいしておいでー」


「「「……はぁ?」」」


「はぁ? じゃない。ほら、行った行った」


 そう言うと師匠は俺たちに向けて手をしっしっと払った。


 俺たちは渋々トラックを走ることにした。


 10分後。


「ぜはー……ぜはー……」


 ヘロヘロになった優姫が10周目を終え、戻ってきた。


「優姫、大丈夫か?」


「だ……だいじょばない……」


 優姫の横で、佑助もまだ少し息を荒くしている。


「おつかれー! んじゃ、こっから妖術の修行だよ。準備はいいね?」


「「「うへぇ……」」」


 初日なのに、なかなかハードだな。くそ……


「じゃあ、まずは妖術を使って俺に攻撃してみて」


「え……いいんですか?」


 優姫が躊躇いがちに訊いた。

 さっきは怪物だったから攻撃できたが、人に向けて妖術を放つのは、俺もさすがに抵抗がある。


「いいのいいの。さ、まずは君から」


 そう言うと、師匠は優姫を指さした。


「じゃ……じゃあ、いきますよ……?」


「いつでもどーぞ」


 優姫は師匠に向けて手をかざし、妖気を溜める。


「うん、妖気を操る感覚は掴めてるみたいだね。んじゃ、そのまま俺に放ってみな」


「はぁっ!!」


 ドンッ!! という音と共に、優姫の手から水色に光るエネルギー弾が師匠に向けて放たれた。


「師匠! よけて! 避けてください!」


 優姫はそう言うが、師匠はニヤリと笑い、エネルギー弾に向けて指を弾いた。


「大丈夫さ」


 パァンッ!!


 すると、エネルギー弾は弾け散った。


「う、うそぉ……」


「マジか……!!」


「……すごいな……」


 俺たちは目の前で起きた事に、口々に感想を述べた。


「ほら、感心してないで次、次。じゃあ佑助、俺に攻撃してみな」


「お、おっす!」


 佑助はそう言うと、俺たちより一歩前に出る。そして優姫と同じように構え、妖術を放った。


 ドンッ!!


 佑助の妖術は、優姫のものよりも勢いよく放たれた。


 バチィンッ!!


 しかし、師匠はそれも容易く弾く。


「優姫の妖術よりは威力があるね。でも、まだ妖気が圧縮しきれていない。佑助はもうちょっと溜めの時間を作るか、妖気をもっとスムーズに流す練習をしようか」


「おす! 分かりました!」


「じゃあ次、人柄(とつか)


 師匠は俺に向かって手招きをした。

 俺は素直に師匠の前に立つ。


「いつでも()()()いいよー。撃っておいで」


「……そんじゃ、いきますよ」


 俺は先ほどと同じ感覚で、剣先を師匠に向け、妖気を溜める。


「いけ!!」


 そう言って妖気を放った時、俺の頭の中で、蛇が威嚇した時のような声が響いた。


「え?」


 ゴォォォオオオ!!


 俺の剣先から、もの凄い勢いで炎が放たれた。


「炎!?」


 俺は自分で放っておきながら、炎を見て驚いた。


「……へぇ」


 師匠は炎を見てニヤリと笑った後、指鉄砲を右手で作り、指先に妖気を溜める。


「ほいっ」


 ドンッ! という音がし、指先に溜めていた妖気が放たれた。


 その妖気は俺の炎とぶつかると、爆発を起こし、相殺した。


「……す、すげぇ……」


「いやー! やっぱり君は勇者だよ、勇者!」


 師匠が楽しそうに俺に歩み寄ってきた。


「さっき、炎が出て驚いたろ? 夕方に見た妖術と違ったから」


「は、はい……なんでですか……?」


 俺がそう問うと、師匠はふふふ、と楽しそうに笑った。


「夕方俺が、君の身体には八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の妖術が宿ったと言っただろ?」


「はい」


八岐大蛇(ヤマタノオロチ)はね、八つの首を持つ化け物なんだ。そして、その()()()()()()()()()()()。この意味、分かる?」


 俺はそこで、ピンときた。


「まさか、8種類の妖術が俺に宿ってる?」


「そーいうこと。1種類目は、夕方の黒い蛇の妖術。2種類目が、今の炎の妖術。この2つに加えて、まだ6種類もあるんだ」


「……でも、俺はまだそんなに上手く使い切れてませんよ。今だって、さっきの黒い蛇の妖術を使おうと思ったのに、炎の術が出た」


 俺は師匠にそう言って、下唇を軽く噛む。

 妖術を上手く扱えないことが悔しかった。


 そんな俺の肩に、師匠は手をポン、と置いた。


「そんなに落ち込まなくてもいい。妖術の存在を知って、たかが数時間の奴がここまで威力のある妖術を放てるんだ。あんまり実感湧かないだろうけど、それだけですんごいことなんだよ?」


「そうなんですか?」


「ああそうさ。そのうえ、ただでさえ扱いづらい八岐大蛇(ヤマタノオロチ)の妖術をいとも簡単に放てるんだ。自信を持ちな。君はすごいよ」


 そう言うと師匠は俺の背後に回り込み、背中をバシッと叩いた。


「……痛え」


「ふふ。さて、佑助ー、優姫ー。こっちおいでー」


 師匠に手招きされ、少し離れた所にいた2人はこちらに駆け足でやってきた。


「さて、3人とも。今日の特訓はこれで終わりだけど、明日からの特訓内容を今から伝えます」


「あ、明日もあるんっすか!?」


 佑助が一歩前に踏み出して言った。


「あるよ〜。っていうか、これから毎日特訓します!!」


「「えぇ〜!?」」


 2人は勘弁してくれ、とでも言うような顔で声をあげた。


 俺は薄々分かってたよ。だって世界を救うためだもんな。1日2日特訓したところで、そんなことできるわけない。


「佑助と優姫は妖術っちゃ妖術なんだけど、まだ妖気を固めて放ってるって感じに近いんだよねー。だから、2人は明日から妖気を練る特訓」


 師匠がそう言うと、スッと優姫が手を挙げた。


「妖気を固めるのと練るのって何が違うんですか?」


「いい質問だねぇ。んーと、じゃあ妖気を粘土に置き換えて説明しようか」


 師匠はオホン、と咳払いをする。


「学校でさ、粘土を使っていい作品を作ろうとする時、君たちならどうする?」


「……そりゃあ、粘土をよくこねて、大体の形を作って……」


 俺がそう言うと、師匠が指をパチンと鳴らした。


「そう。ただ粘土をくっつけるだけじゃない。粘土をよくこねて形を作ってから、完成品として先生に提出するでしょ?」


「あ……!」


 優姫が目を見開く。

 それを見た師匠は満足げにうん、うんと頷いた。


「分かったみたいだね。妖術を放つためには、妖気をくっつけるだけじゃダメなんだ。妖気を練って、妖術の大体のイメージを頭の中で思い浮かべて、放つ。これができて、初めて妖気は妖術と呼べるものになるんだよ」


 なるほど。説明上手いな。この人、本当は教師か何かなのか?


「と、いうことで! 佑助と優姫は明日から妖気をよく練る特訓ね〜。OK?」

 

「「……おーけー……」」


 2人は不満げだ。そりゃそうだわな。どうせだったら、もっとカッコいい特訓したいよな。


 師匠は俺の方に体を向けた。


「そんで、人柄(とつか)は妖術はもう出来上がってるから、次は自分が扱える妖術をすべて把握すること。いいね?」


「……分かりました」


 俺が返事をすると、師匠が、はい! と言ってパチンと手を叩いた。


「それじゃあ、今日の特訓は終了! 気をつけて帰るように〜」


 そんじゃね、と言って師匠は校門から出ていった。


「「「はぁ〜……」」」


 俺たちは3人同時に大きなため息をついた。


 それが特訓の疲れによるものか、これからの日々への不安によるものかは、俺には分からなかった。

お読みいただき、ありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ