入学式を終えた二人
垪和 大和
三上 凰
「母からの贈り物」を解放出来なかったという噂が学校内ですぐに広まり、クラスメイトから奇異の目でみられ誰も近づいて来なかった。
入学式後に校長室に呼ばれ、今後の意向を伝えられた。
まず二人の少年のようにキューブが使えないという前例がない為、教師間の配慮で同じクラスとなった。
そして、おそらく今後の授業課程に変更が加えられることを伝えられた。
校長室で説明を聞き終え教室に行くと、初日は午前中のHRだけということもあり他の生徒は下校していた。
「垪和くんだっけ?」
垪和 大和が声の方へと振り向くと少年が立っていた。
(こいつは俺と同じ適正なしって言われた奴。名前はたしか三上だっけ?)
「なにか用か?」
「いや、ちょっと聞きたいことがあってね」
「ん?聞きたいこと?」
「うん、垪和くんはキューブを使えなかった理由とか心当たりあるのかな?例えば両親のこととか教えてもらっ…」
バキッ
その瞬間、三上 凰は垪和 大和に殴られ周囲の机を巻き込み倒れこんだ。
「痛っ!!何すんだよ!」
倒れた状態で相手を見上げたまま、三上 凰は殴ってきた相手に問いかけた。
「なんで俺のことをお前なんかに言わなきゃいけないんだよ。」
そう言って垪和 大和は教室から出て行ってしまった。
(はあっ?!なんで俺は殴られたんだよ。適正なし同士なんだから仲良くしようと思ったし、何かわかればキューブが使えない解決策も見つかると期待もした。なのに…)
「ふざけんな!!」
三上 凰は立ち上がった。垪和 大和に殴り返すために。
とその前に、
(机戻さなきゃ…)
数分後…机を元の状態に戻し、垪和 大和の後を追った。
校門へ向かう途中、敷地内の中心にある中庭で垪和 大和を発見した。
(いた!けど誰かといるな?話しおわるまで様子見だな)
三上 凰は物陰から話し終わるのを待つことにした。
「垪和 大和君、君はこの学園にふさわしくない」
そう申し立てたのは、入学式の適正検査にてトップの結果だった九条 尊。この少年は由緒ある家系の為、育ちの良さを感じる。
(ん?友達というわけではないのか?)
「ふさわしくないってなんだよ」
「先程教師の話しを聞いてしまってね。君は両親がいないらしいじゃないか。この学校は全国でも有名な学院なんだよ。君ともう一人みたいな適正なしの者達がいると学院の品格が落ちてしまう。だから、転校を検討してほしいんだよ」
垪和 大和は黙って聞いている。
九条 尊の言葉に真っ先に驚いたのは、三上 凰だった。
(あいつ…両親がいなかったのか?じゃあ、いきなり殴ってきたのは両親のことに触れたから…はあ、やってしまった。)
三上 凰は殴られた頬に手を当てながら、自分がどれだけ無神経なことを聞いたかと思うと気が滅入った。
家庭の事情について触れられるのは自分自身だって嫌だ。
三上 凰はある事情から親と弟妹から絶縁に近い状態となっているからだ。
(最低だな俺は)
九条 尊は、その後も適正なしがどれだけこの学園に相応しくないかを延々と語り続けた。
垪和 大和は黙って話しを聞いているのが不思議だった。
(俺の時は、すぐに殴り付けてきたくせに。。。なんかまた、腹が立ってくるな)
三上 凰は物陰から飛び出した。延々と語り続ける九条 尊に一発入れるために。
(こいつ、うぜぇ。)
延々と語り続ける九条 尊に垪和 大和は段々腹が立っていた。
教室で起こった三上 凰との事もあり、早く帰りたかったのだ。そのため、九条 尊の内容は頭に入ってなかった。
(はあ…殴るのはまずかった。明日謝らなきゃ)
垪和 大和は、先ほどの軽率な行動を後悔していた。
同じ適正なし同士ということで、三上 凰は歩み寄ってくれたことは、すぐに気づいた。なのに…
その相手を殴ってしまった。
家のことには、触れてほしくはなかった。
物心ついたときから、周りと違うことを知っていたから。
そのことについて、話したくなかった。
それだけだったんだ。。。
精神面が形成される小学生時代に、両親がいないことに対しての劣等感は、大きく感じてしまう。
その結果が、三上 凰を殴ってしまうことに繋がってしまった。
(うん、明日謝って仲直りしよう)
決意を固め、顔を上げた。
と同時に
バキッ!
っと鈍い音が響いた。
目の前の九条 尊が顔面を殴られ勢い良くぶっ飛んでいった。
「お前!俺の時はすぐにぶん殴ったくせに!いつまで好き放題言われて黙っているんだよ」
三上 凰は、垪和 大和に対して言葉を放った。
垪和 大和は、殴られた九条 尊を見ながら なぜ?というような顔をしている。