ドブに落ちた、足下が乾く頃
俺は、愕然としていた。
「・・・嘘だろ」あまりの事に声が漏れる。
今朝おろしたての真っ白いスニーカーとソックスを履いた右足が、黒水たぷたぷのドブに見事に沈んでいたのだ。ズボンこそ慌てて捲くって難ん逃れたのが唯一の救いだが不注意で落ちたとはいえショックは、デカい。恐る恐る足を上げてみる。これまた見事に黒く染まっているスニーカーとソックスを脱ぎ捨て、ぐっしょりのソックス軽く絞り熱いアスファルトに広げた。
軽く項垂れてると、アスファルトと側溝の間に生えた小さなタンポポと、その黄色い花の下でくつろぐ1匹の蟻が目に入ってきた。蟻からすれば丁度良いパラソルといったところか。アスファルトをも熱くするこんな日には、蟻でも日陰が恋しいのかと思ってると突然蟻は、茎の周りをクルクル回って花の上に登り俺を見上げた。
「俺は、俺の時間を生きている」とでも言ってるかの様に俺を見上げた蟻は、花の上をぐるぐる回って、茎をたどって地面に降りると足早に歩いて行ってしまった。
「何してるの?」蟻を見送る俺に小さな影をもたらしたのは、熊のぬいぐるみを大事に抱きしめた赤いワンピースを着た小さな女の子だった。
「スニーカーとソックスを乾かしてたんだ。」話し終わる前に女の子は、片隅にしゃがみソックスを摘み上げた。
「乾いてるよ。」小さな手で摘んだソックスを差し出してきた。黒くズブ濡れだったソックスは、カラカラに乾いてた。そっと受け取りソックス、スニーカーを履き終え立ち上がった。
「君も蟻も俺も同じ時間を、生きている。」俺の言葉に円な瞳で応える女の子を見て思った。まだ少し早かったか・・・
「それじゃ行こうか。」女の子の小さな手を握り、背中の翼を解放させた俺は天国を目指した。
今回決まってた設定は、「ドブに落ちる」「タンポポと蟻」だけでした。そこに肉付けしていき何とかまとまって良かったです。