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恩返しシリーズ

ダンゴムシは押しかけ女房ならぬ、世話焼き侍女でした〜恩返しは正直お腹いっぱいです。今すぐ帰ってください。〜

あとがき部分に、キャラクター紹介があります。

画像が出ますので、不要の方は画像表示機能をオフにしてください。

 朝起きたら、台所の鍋にダンゴムシが一匹入り込んでいた。

 ねえ、ここ家の中だよ? しかもかまどの上の鍋の中に、どうやったら入り込めるっていうわけ? ダンゴムシは死んでいるのかと思いきや、元気に鍋の中を動き回っている。おいこら、危機感ないんかい。


 だいたいあたしが気がついたからいいものの、このままお湯を沸かされてたらあんた死んじゃってるんですけど。まったく鈍臭いダンゴムシめ。


 ここまで考えてあたしは思い出した。そういや昨日、蜘蛛の巣に引っかかっていたトロいダンゴムシを逃がしてやったっけ。え、あんた、あのダンゴムシなの? これって、あれ? 何もお礼を用意できないから、自分を食べてくださいとかいうやつ? 


 えー、うさぎならともかく、いくら貧乏でもダンゴムシは食べないよ……。助けられたお礼に食べてもらうとか全然意味ないじゃん……。


 あたしは仕方なく、鍋の中のダンゴムシを裏の畑まで連れて行ってやった。ころんとまるまることもなく、ダンゴムシは綺麗に地面に着地する。


「恩返ししたけりゃ、イケメンか美少女になって来なさいな。話はまずそれからよ」


 うろうろといつまでも足元から離れないダンゴムシに向かって、あたしはそう告げた。やれやれ、朝ごはんの時間がずいぶん遅くなっちゃったわ。さあて、今日は昨日の残り物でも食べますかね。



 ********



「そういうわけで、お伺いしましたミシェルと申します。誠心誠意お仕えしますので、どうぞよろしくお願いいたします」


 あたしが朝食を食べ始めたその数分後。なぜかとびきりの美少女が我が家を訪ねてきた。パリッとした小綺麗な侍女服に毛先までしっかり手入れされたツヤツヤの髪がまぶしい。おやおや、貴族街はあちらですよ〜。訪ねる家、間違ってるんじゃないの。話をテキトーに聞き流していたあたしの荒れた手を、美少女はしっとりとした手で包み込んだ。


「先ほど、お嬢さまが『美少女になって出直せ』とおっしゃったでしょう。神さまに頼んで『チョッパヤ』で仕上げていただいたんです。もしかして、お好みに合わなかったのでしょうか……」


 しょんぼりした美少女もいいもんだなあ。いやあ眼福だわあ……って、え、何それ、展開はやっ。なんでこの国の神さま、こういうことばっかり仕事早いの。もっと他にやることないの? 思わずスプーンを取り落としたあたしのことを放置して、美少女は台所で何やら勝手に作り始めた。さすが侍女の格好をしているだけあって、仕事が手早い。


「これは、ビスクとよばれるクリームスープです。ぎゅぎゅっと濃縮されたエビやカニの旨みを全部食べることができる上に、栄養たっぷりなんです」


 エビとかカニとか貧乏人の家には縁のない高級食材なんですけど! 単純に押しかけるのではなく、手土産持参とはやっぱり美少女は強い。これは思わず追い返せなくなる高等テクニック。さすが、神さまと直接話したことがあるひとはやることが違うわ〜。意地汚いだけ? ふふん、なんとでも言うがいいわ。腹が減っては戦はできぬ。貧乏人なめんなよ。


「わたくしたちは、おおざっぱに言うと甲殻類の仲間なので、エビやカニとも言葉が通じるんですよ〜。ここに来る直前に海で捕獲してきました♪」


 おいおいおいおい、食べづらいじゃん!


 まあ、高級食材と美少女の努力を無駄にするわけにはいかないので、全部美味しくいただいたけどね。何か問題でも?



 ********



 美少女ミシェルはそんなこんなでちゃっかりあたしの家に住みついた。なんと、周囲のみんなもミシェルのことを受け入れている。いや、もっと怪しめよ。ふたりで買い物に行くと、あたしひとりで買い物に行く時よりもおまけの量が桁違いに多くて、あたしは軽く絶望した。


「ミシェルちゃん、これ売れ残りのブーケなんだけどね。良かったら持って行ってくれたら嬉しいなあ」


 いや、それ全然(しお)れてないし! 普通に売り物のブーケだし! ってか、あたし、そんなこと一回も言われたことないし! ちょっと待て、どういうことだよ。あと白いアイリス(あなたを大切にします)とか、ガチ過ぎてヤバい。


「今日もミシェルちゃんは可愛いねえ。どうだい、うちの息子の嫁に来ないかい?」


 結構本気っぽい勧誘をする八百屋のおっさんや、肉屋のおっさんに向かって、ミシェルは天使のような微笑みを浮かべる。


「いいえ、わたくしの喜びはこのまま一生お嬢さまにお仕えすること。それ以上の望みはありませんわ」


 そのまま周囲の視線があたしに突き刺さる。OK、OK。皆まで言うなよ。あたしにだってよくわかる。なんでこんな美少女が、あたしみたいな平凡娘に仕えているのかって言いたいんでしょ。むしろあたしが知りたいわ。


「本当なら、お嬢さまにはわたくしそのものを召し上がっていただきたかったのですが、お断りされてしまいましたので……」


 ため息をついたミシェルの姿に、八百屋の息子と肉屋の息子が鼻血を出して倒れた。いや、違うから。ミシェルが言ってるのは、そんなスイートなお誘いじゃなくって、ダンゴムシとして物理的に食べろって意味だからね。なんか、「鼠婦(そふ)」っていう薬になるらしいよ。効果は利尿作用……いらねー! あと、非常食としてそのまま食べることも可能らしいよ。絶対、食べないけどね!


「わたくし、お嬢さまのことは頭のてっぺんから脚のつま先まですべて存じあげておりますのに……」


 それはさ、水と燃料費の節約のために一緒にお風呂に入っているだけで……。あ、魚屋の息子も鼻血を出して倒れた。ここの商店街さ、本当に大丈夫?



 ********



 ふたりで自宅に戻ると、玄関脇の蜘蛛の巣にダンゴムシが引っかかっていた。あのさあ、ここの蜘蛛の巣はダンゴムシホイホイなの? ダンゴムシよ、もう少し賢くなりなさい。それから蜘蛛の巣を張るなとは言わないからさ、蜘蛛ももうちょっと別のところに張りなよ。ダンゴムシ捕獲しても、たぶん美味しくないよ。


「お嬢さま、そのダンゴムシはどうなさいます? よろしければ……」

「食べないからね。絶対に食べないからね! そうだねえ、イケメンならミシェルの弟分として一緒に住んでもいいかも」


 なーんてね。正直、美少女だけで手一杯。これにイケメンなんて来たら、荷が重いわ。それなのに、軽口を叩いた次の瞬間、ダンゴムシがイケメン執事に様変わりした。黒いスーツと白の手袋で爽やかに一礼をきめられる。


 おいこら、様式美ってもんはどこに行った。こういうのは何かを助けてやった何日か後に、「自分はあの時助けていただいた○○です」って恩返しに来るんじゃなかったんかい。えらくお手軽に来やがったな。


「お嬢さま。私はあなたに助けていただいた……」


 知ってるから。今、この瞬間、助けたばっかりだから。


「まったくお嬢さまったら、本当にお優しい方なんですから」


 いや、そんな笑顔でこっちを見つめるのはやめてくれる?

 ってか家主の許可を得ずにうちに上り込むのはなんで?

 一緒に暮らすことは決定済みってどういうこと?

 イケメン執事め。勝手知ったる我が家感を醸し出しながら、お茶とかつがないでほしい。


「ですから、最初はわたくしです。それは譲れませんわ」

「わかりました。それではその後の順番は?」

「毎日交互にするにしても、お嬢さまも単調では飽きてしまわれるかもしれません。たまには三人で……」


 あとさあ、当たり前のように昼日中から、いかがわしい会話をするのやめてくれないかな。っていうかやるなら、本人に聞こえないようにするとかそういう気遣いが必要なんじゃない? え、聞こえるように会話している? 本当にお前たちはさっさとダンゴムシの国に帰れ。


 両手に花どころか、頭痛のタネが増えた翌日。

 今度は幼児特有の甲高い声が玄関に響いた。


「あの、すみません。すづくりのじゃまをしていた、ダンゴムシをとってくれたおれいに……」


 もういい! もういいから!

 恩返しはもうお腹いっぱいです!!!

◼️登場人物紹介◼️

=================

主人公

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貧乏な町娘。両親は駆け落ちしてこの街にやって来た。

ある日を境に両親が行方不明となってしまっており、両親が帰ってくるまで住んでいる家を守ると心に決めている。


裏庭に貴重なハーブなどがたくさん植えられており、それを売ることで生計を立てている。そのため畑仕事命。虫への耐性も高い。(もちろん害虫はあっさり駆除する)


商店街の八百屋、肉屋、魚屋の息子たちとは幼馴染。彼らが悪ガキ時代に、「アリの巣に水を流す」「ダンゴムシを袋いっぱいにつめて放置する」「暇つぶしにアリを潰す」などのいたずらを行なっていると、がっつり叱っていたのが主人公。そのため、虫たちによる支持は高い。(なお、こういう過去があるため、商店街の各店の息子たちが虫の女性と異類婚をする未来は永遠に来ない)


最近、ミシェルの伝手により、テントウムシの援軍が来たためアブラムシ退治が楽になったのだとか。



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ミシェル

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ダンゴムシのお姫さま。

尽くされるより尽くしたい派。家事スキルが無駄に高い。

畑仕事をしている主人公をいつも落ち葉の陰から観察していた。さらにプライベートを観察するべく主人公の家に不法侵入しようとし、あっさり蜘蛛の巣に引っかかった。


可愛いお嬢さまをイイコイイコしたい。なんだったらぺろぺろしたい。さらに言うなら、イケナイ関係になりたい。


挿絵(By みてみん)

(イラストは相内充希様。フリー素材等を使用して作っていただきました)



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執事

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ダンゴムシの王子さま。ミシェルとは血縁関係あり。


ミシェル同様、主人公のことを以前からストーキングしていた。ミシェルが恩返しの名目で人型になったことを知り、神さまを執拗に脅は……もといお願いしてすきあらば人型になるチャンスを狙っていた。


蜘蛛の巣には自らダイブ。普通のダンゴムシにとっては自殺行為だが、彼にとってはどうってことはない。蜘蛛に喧嘩売るとんでもない奴。敵に回してはいけない。



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ニオ

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無駄にダンゴムシを捕獲してしまう蜘蛛。


せっかくなので金髪美幼女姿で家を訪ねようとしたが、神さまがなぜかショタ路線を主張したため、美ショタの姿で家に来た。特技は悪い虫と変態の捕獲。知人にイケメンすぎるハエがいるとかいないとか。


挿絵(By みてみん)

(イラストは相内充希様。フリー素材等を使用して作っていただきました)

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(イラスト作成:あっきコタロウさま)

(バナークリックで『テントウムシは思った以上に肉食だった』に飛びます)



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(イラスト作成:あっきコタロウさま)

(バナークリックで『ヘビは意外と怖がりの臆病者でした』に飛びます)
よろしければこちらもどうぞ。同一世界のおはなしです。
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