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魔物退治(木槌をカメに向かって振り回すだけ)

 その後、おばあちゃんに教えてもらった畑まで移動する道すがら、道具屋に寄った。

 中には剣だの鎧が並んでいて、小林が身につけている鎧よりも大分上等な物が並んでいた。

 しかし、どれもこれもめちゃくちゃ高い。


「買えないよな」


「買えるわけないだろ。金槌くらいは農家で貸してくれると思うが、さすがに鎧はないだろうな。タートルはかみついてくるから無防備って訳にはいかないし……」


 そんなことを話していると、道具屋に座っていた若い男が口を挟んできた。


「なんだい、君らタートル退治? なら、無理に鎧なんて買わなくても、ぼろ布を足と腕に巻いておけばなんとかなるよ。だいたい、タートル退治ごときに鎧なんか買ってたら割に合わないでしょ」


「え? 俺、草むしりとか店番で一ヶ月ためたお金でこの鎧を買ったんですけど。たしかにタートルくらいならそれでいいかも……」


 小林が悲しそうな顔をする。


「い、いいじゃないか。格好いいし、後々役に立つさ!」


 フォローするが、小林の顔は晴れない。

 道具屋を出て農家へ向かって歩き出したが、小林はまだ落ち込み続けていた。


「俺が……俺がどんな思いで一ヶ月金を貯め続けたと思ってるんだ……無駄な出費だった……くそっ……」


 忌々しげに自分の鎧を叩くが、わりと手加減して叩いている。

 後悔をしているにしろ、大事な道具には違いないので、雑に扱う気にはならないのだろう。

 ちなみに、小林が来ている鎧は、中世の騎士が着ていそうな全身フルアーマーではなく、腕・足・銅などの各部に取り付けるタイプの簡易的な鎧だ。

 関節みたいな複雑な機構が必要になる部分は守っていないので、対人戦になれば隙間を狙われるかもしれないが、かみついてくるような相手には腕や足を守れそうだ。

 でも、鉄板を足や腕につけているようなもんだから、重そうだな。


「その鎧、重そうだなぁ……」


「重いさ。かといって捨てられないしよ。あー、くそ、仕方ない! うん、仕方ない、仕方ないんだ……」


「ま、まぁ、そんなに落ち込むなよ。俺なんかぼろ布を巻いて戦わないといけないんだぜ。それより格好いいじゃないか」


「そっちのほうが軽くていいだろ。俺は鎧があるから着て戦うけどな」


 そんな話をしていて、だんだんと俺は腹が立ってきた。


「ってか、なんだよこれ!? どうなってるんだよ、この異世界転生は!?」


「今更怒鳴るなよ。疲れるぞ」


「うるせぇ! なんで初めての戦闘がぼろ布を足と腕に巻いてカメと戦うなんていうふざけた戦いなんだよ!? 違うだろ! 異世界転生って言うのはもっと夢があるもんだろ!」


「はじめは俺もそう思っていたけど、もうしかたないだろ」


「お前、それでも高校生か!? 若者よ、熱い心はどこに置いてきた!? そんなくたびれたサラリーマンのようなセリフを高校生が言ってはいけないんだ! うをおおおおおお!! ざっっけんなああああああああ!!!」


「おい、街中だぞ、止めてくれ!」


「いいか、異世界転生って言うのはそういうもんじゃないんだ。転生した途端に転生特典で最強になって、最強なスキルで無双をして、最強なステータスで無双して、最強なスペックで無双して、異世界の人間どもが羨望のまなざしで主人公を仰ぎ見て主人公SUGEEEEEって言ってくれるのが異世界転生なんだぞ!? なんでチートなしなんだよ!? じゃあ、無双展開はないとしても、せめてゲームの世界に入ったみたいに魔法を使う喜びとか楽しさを感じさせろよ! それなら、ギリ楽しめるよ! それなのに、魔法もなしとかまじで腐りすぎだろ! おい、作者出てこい!」


「そう言いたいのは分かるけど、落ち着けよ。まぁ、俺だって本屋に行ってこんなラノベがあったら絶対に買わないけどな。買っても読まないで捨ててやる」


「俺だったらこんなラノベが置いてある本屋を見掛けたら、本屋ごと燃やしてやるぜ! 誰がこんな異世界転生を望んでいるんだよ! わけわかんねぇよ! もし小遣い叩いて買ったラノベがこんな内容だったら、作者と出版社を訴えてやる! 魔法なしならせめてなにかスキルとかハイスペックとかよこせよ! 俺文化系だし、お前と違って素のスペックでこんな世界生き抜けねぇよ!」


「あのなぁ、俺だって苦労したきたんだぜ……」


「分かってる! 奴隷なしもまぁいいよ、許してやるよ! ぶっちゃけ、実際に奴隷とか目の前にいても気まずそうだし、全然接点とかなくてもいいけどさ! でも、女禁止はおかしいだろ! なんだよそれ! お前、ヒロインも女キャラも全然出てこないRPGとかプレイしたいか? 仲間は全部男で、街に行っても男しかいなくて、いる女はおばあちゃんだけだぞ!? 幼女すらいないんだぞ!? どこの監獄だよ! 地獄だよ!」


「俺も奴隷は別にいいと思うが、たしかにそれはひどいよな。現にお前と一緒になってから、本当に女と出くわしてない」


「ん、そういえば前の村でもヤドヤド亭の女の子と仲がいいぽかったもんな。なんだよ、お前だけいい思いしてるのかよ!」


「おい、勘違いするな。俺だって別にそんな俺TUEEE主人公みたいにモテてたわけじゃないよ。ただ、普通に話をしてたりしただけだ。あと、最初の頃金がなかったから飯をおごってもらったりとか」


「十分いい思いをしてるじゃねぇか! 俺なんか一言も口をきけてないんだぞ! じゃあ、日本に帰ったら仲良くする相手がいるかと聞かれれば別にいないけどよ! だからって、この仕打ちはひでぇ!」


「怒っても仕方ない。とにかく早いところ目的達成して日本に帰ろうぜ」


「そうだな……」


 ひとしきり言いたいことを言ったので、少しすっきりした。

 一息ついてから、ふと思いついた。


「ところで、お前LINEつかってる? 日本に帰った後にお互いに連絡つかないよな」


「つかってるけど、アカウント名とか覚えないな。本名をもじった名前が登録できなくて後ろにランダムな数字をつけたからここじゃわからん」


「じゃあ、電話番号は?」


「それなら覚えているけどよ」


 ということで今時お互いに電話番号を交換したところで、農家にたどり着いた。

 本当に俺たちは異世界でやることじゃないことばかりやっている気がする。


 その畑ではがたいのいいおっさんがよく分からない農作物を土から引っこ抜いていた。

 引っこ抜けた作物を見ると、大根をものすごく太くして短くしたような物だった。

 もしかしたら、元の世界でも似たような作物があるかもしれない、と思うほど普通だった。

 まがまがしい形をしたり完全な球形だったり、地球じゃあり得ない形をしているなんてことはなかった。

 ここもがっかりだ。


「あぁ、なんだ、えらい若いのが来たな」


 農家のおっさんが手を止めてこちらに声をかけた。


「ギルドから依頼を受けてタートル退治にやってきました」


 すると、小林が礼儀正しく頭を下げた。

 あかん、こいつ俺の100倍くらい社会慣れしている。

 俺もあわてて頭を下げる。


「来てもらって悪いが、タートルが来るのは夕方なんだ。それまでこいつらを引っこ抜くのを手伝ってくれんか」


 おっさんがまるっこい大根を指さす。

 いや、それは依頼内容とは違うけど、こういうのは断るべきなのかやるべきなのか。


「もちろん、やらせていただきます」


 と悩んでいたら、小林が返事をしてやることになってしまった。

 農家の人に指導されながら引っこ抜いていくと、10本ほど抜いたところで結構疲れてきた。

 小林とおっさんはまだ普通に作業しているが、自分だけ手が止まっていた。


「桃山、飛ばしすぎなんだよ。もっとゆっくりやれよ」


 小林は一定のペースでたんたんと収穫していく。

 見るからになれている。

 俺もまた手を動かしながら小林に声をかけた。


「なんだ、お前前の村でこういうバイトもしてたわけ? えらい慣れてるじゃないか」


「まぁな。っていうか、うちの祖父が農家やってるんで、たまに手伝っていたんだ」


 祖父なんてえらいよそ行きの言い方をするじゃないか。

 横に雇い主がいるのでなんだかんだで言葉に気をつけているようだ。


「へぇ、おまえんとこ農家なの?」


「祖父母の代までは専業農家だったんだけど、うちの父親はサラリーマンだ。祖父も今は大規模にやってるわけじゃないから、家で食べて親戚にお裾分けして後は直売所に売る分ぐらいしか作ってないけどな」


「へー。うちは引っ越し組だから、農地とか全然ないな。こういうことやったのも学校の農業体験ぐらいだ。ってか、この姿勢疲れるんだけど」


「俺だって疲れてるよ」


 すると、横で黙々と大根を引っこ抜いていた農家のおっさんが声をかけてきた。


「ほぉ、おまえさんとこは農家やっとるんか。何を作ってるんだい? ゲェモか? モジェリか? 小麦か?」


 あ、興味を持たれた。

 どうやってごまかすんだ。

 異世界出身なんてばれたらまずいんじゃないか?


「ちゃんと作ってたのは昔の話なので。今はいろんなものをちょこちょこ作ってるだけですよ」


「なんだぁ、そうかい。この辺りの人かい?」


「いえ、ここからかなり東の方の村です。見聞を広めようと日銭を稼ぎながら旅をしているところです」


「へぇ、それいいなぁ。その年であちこち気ままに旅をするなんていい身分じゃないか。いい村をみっけたらそこに腰を落ち着けるって寸法かい?」


「いえ、故郷に戻りますよ」


「ほほ、真面目だな。近所のジョンの三男坊なんか旅に出たままずっと戻ってこないで遊びほうけてるって、ジョンのかかあがえらい嘆いてたぞ。まぁ、帰れるなら帰った方が親もよろこぶだ」


 小林がそつなく話をする。

 やっぱり三ヶ月のアドバンテージは伊達じゃない。


「ほれ、ちっと休むか。水はあっちの手桶のを使いな」


 手を洗って畑の隅に積んであった藁に腰を下ろした。


「あー、くそ、疲れた……」


 ほどよい疲れにそのまま寝転がりたくなるが、そうすると完全に寝そうなので止めておく。


「おい、疲れたっていうけど、まだタートル退治してないぞ」


 あ、完全に忘れてた。


「ええ、もうよくないか? 普通に農作業を手伝ったってことで金もらえないか?」


「そりゃダメだろ。そこまでやらないと」


 なんて真面目な奴だ。


「あ~、まさか異世界まできて大根を引っこ抜くとはな。ダンジョンに潜るんじゃないのかよ……」


「もうそれは言うなって」


 小林がそのまま藁に寝転がる。

 おい、まさか寝る気じゃないだろうな。

 お前が寝たら、俺が一人でタートルを倒さないといけないんだけど。


「なぁ、戻った後は元の時間に戻るんだよな。ここでつけた筋肉とかはどうなるんだろうな」


「さぁな」


「ってか、戻ったら受験について真面目に考えないと……とか思わね?」


「正直、日本に戻れればそんなことどうでもいいだろ。ひとまずなんとかなるだろ」


「まぁ、たしかに……」


 つくづく異世界っぽくない会話だ。

 そうこうしていると、遠くで小さな物がぴょんと跳ねたのが目に入った。


「ん、なんだ?」


 小林がガバッと身を起こした。


「おい、タートルだ! 早くぼろ布を腕と足に巻き付けろ!」


 小林が荷物の所まで駆けていって、手早く鎧を身につける。

 俺も荷物からぼろ布を取り出して、腕と足に巻き付けて紐で縛り付けた。

 脇にあった納屋みたいなものから、おっさんが木槌みたいなものをもって走ってきた。


「いつもより早く来やがった! この前大分潰したんだが、こんなに来るとは思わなかった。あんたら来てくれてよかった! 頼むわっ!」


 おっさんが木槌を俺と小林に渡した。


「え、これで叩くの? なんかもっと斧とかのほうが良くないか?」


「あんまり重い物じゃふり回りにくいんだよ。いいから来いって!」


 小林について走り出すと、遠くからピョンピョンと黒い影が飛び跳ねてくるのが見えた。

 見た感じ、50以上はあるだろう。


 近づいていくと、それはそんなに大きな物ではなく、まさに普通のカメサイズだということが分かる。

 そのうちの何匹かが農作物の葉っぱをかじったり、地面に頭を突っ込んだりしてる。

 つまりは農作物を荒らす害獣ってことか。


「おい、気をつけろよ! かみついてくるからな!」


 小林がそう言いながら、一歩前に出る。

 カメ集団の先頭が小林に向かって飛び跳ねる。

 小林はテニスラケットかバットのように木槌を振り回して、そのカメに打ち付ける。

 カメはふっとんで地面にぐちゃっと落ちる。

 うわ、意外とぐろいってかきつい。


「最初はあたらないと思うけど、とにかく顔とかに飛びかかられないようにしろ! 鼻とか食いちぎられるぞ!」


「うえぇ!?」


 ガチで怖いじゃないか!?

 農家のおっさんも小林と並んで飛び跳ねてくるカメをタイミング良く叩きまくる。

 下でもがいているやつには上から木槌を叩きつける。

 

 これは立ち回りがすごく重要だ。

 万が一囲まれたら、後ろから噛みつかれるだろう。

 小林とおっさんはカメがぴょんぴょん飛び跳ねる中央にいるが、初心者の俺にその場所はつらい。

 距離を取ってカメが少ない場所まで移動する。


「よぉし!」


 しかし、木槌を持って構えたものの、カメたちは俺を無視してピョンピョン飛び回りそこらの作物に食いついていく。


「え、えーと、え、えい!」


 とりあえず、近くにいた大根に食いついているカメに木槌を投げ下ろす。

 動物愛護くそくらえ!


 カメは跳ねようとしたが木槌の方が一瞬早く、木槌がカメの甲羅を粉砕した。

 木槌から伝わってくる感触が思いのほか生々しくて、あわてて木槌をあげる。


「な、なんだ、しょぼい甲羅だな! か、簡単じゃないか!」


 次のカメにも木槌を振り下ろすが、今度は逃げられた。

 すると、横から飛んできたカメが右上のぼろ布に噛みついた。


「うわ!? うわっ! どっかいけ! どっかいけ!」


 腕を思いっきり振り払うと、ぼろ布が破れてカメがどこかに吹っ飛んでいく。

 おい、本気でこわいぞ、このカメ!?


「ち、ちくしょー!」


 俺は次のカメに向かって木槌を振り下ろした。




「は!?」


 作者は我に返った。

 こんなクソラノベを推敲して誤差レベルのクオリティアップを図ったところでどうなる。

 そんなことで投稿が遅れて、みなさんの時間を奪うなんてとんでもない。

 こんなクソラノベの完結までに数ヶ月もかかってしまったら、読者的にも作者的にも幸せにはなれない!


「ということで、推敲とかはほどほどにして、とにかく出せるだけどんどん出します。早く終わることを祈ろう!」

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