中ボス戦(剣士と笛使い)
廊下を通って次の部屋に向かうと、扉の前で団体さんが固まっていた。
「おい、早く行かせろ!」
「そうだ! 俺たちの勢いに怖じ気づいたか!」
「まぁまぁ、桃山さん達が来るまで待ってくださいよ」
扉の前でリカルドが団体を押しとどめている。
リカルドは俺たちに気がついて手を上げた。
「あれ、なにしてるんだ?」
「先ほどは突入していきなり戦いになってしまいましたので、戦いの前の口上を撮影できなかったんですよ。こういうのモノは口上を含めてのバトルですからね。だから、この方達が先に突入してしまうとよろしくないんですよ」
リカルドが説明する。
なるほど、撮影のためか。
でも、リカルドが止めて置いてくれてよかった。
勢いで突入したら、団体さん達が返り討ちに遭って死人が出ていたかもしれない。
ふと、廊下の隅にまとまっているカメラクルー達を見ると、あの女神もマイクを持たされている。
いつの間にか、撮影要員にされてしまったらしい。
これでいいのだろうか。
「じゃ、小林さんと桃山さんを先頭にして並んでください。はい、いいですね。では扉を開けますよ」
リカルドのノリが完全にアトラクションの誘導員だ。
扉が重苦しい音を立てて開くと、やはりそこも広大な部屋だった。
向かい側に身長ほどの長さの大剣を持った軍服の少女が立っていた。
その脇には、どこにでもいそうな私服の少女が笛を持って立っていた。
「珍妙な姿だが、ここまでたどり着いたと言うことは実力は確かなようだな。余計な言葉はいらない。いざ、尋常に勝負!」
軍服の少女が大剣を構える。
「いや、ちょっと待った……って、あー大声出しにくい。小林、俺の代わりに突っ込んでくれ」
「え? はぁ!? な、なんだよ、こんなときに!?」
剣を構えていた小林が姿勢を崩す。
「なんで片方が軍服で、片方が私服なんだ? というか、私服の女の子は髪の毛もボサボサに見えるけど」
「え、俺が言うの?」
小林が渋々俺の言葉を大声で復唱する。
すると、大剣を持った少女が返事を返した。
「ふん、本来であれば私一人で十分なのだが、大人数できたことを知ったヒミラが急遽助けに入ってくれたのだ。急なことだったのでヒミラは服を着替えている暇が無く、寝起きそのままなのだ! どうだっ、分かったか!」
よく響く声が部屋の中で反響する。
「わ、わわっ! ちょっとレイアちゃん! それは言わないで!」
笛を持った私服の少女がわたつく。
かわいい。
ってか、いいなぁ、美少女二人が並んでる姿。
「おっと、ヒミラを甘く見るなよ。今はこんな姿だが、正装だと道化師のような姿をして顔にも派手なメイクをいれて、ものすごくインパクトがあるんだ! それに、言動もすごく物騒になっておっかないんだぞ! この見た目で判断するな!」
剣の少女が堂々と言わなくてもいいことを言う。
冷静に見えて実は緊張しているんじゃないか。
「ちょっとレイアちゃん! それは言わないで! オンの時とオフの時は分けてるんだか! あぁ、もう!」
私服の少女が恥ずかしそうにする。
実にいい。
そのメイクした姿を見たかったなぁ。
きっといかにもボス戦みたいな光景になっただろうに。
「む、無駄なこと言ってしまった! と、とにかく来い!」
大剣を構える少女。
「よ、よし、分かっ……」
小林が構えた瞬間、後ろでおとなしくしていた団体が一気に駆けだした。
「ぬぐあぁ!?」
俺と小林はもみくちゃになって転びそうになるが、なんとか耐えた。
見ると、すでに団体様の約半数が少女を取り囲んでいた。
「ま、またこれか……小林、がんばれよ」
「無茶を言え! あいつら、剣の達人とか槍の達人ぞろいなんだぞ。素人の俺がついて行けるか!」
確かにその通りだ。
チート武器とチート防具は装備しているが、俺も小林も腕は素人に毛が生えたレベルだ。
走る速度や距離の詰め方では、団体さんの足下にも及ばない。
「しかし、残っている連中もいるな」
と振り返ると、後ろにいるのは矢を構えた遠距離攻撃タイプと、戦えなさそうな一般人だった。
その中の見覚えがある田舎者っぽい一般人に話しかける。
「ってか、あんたとかなんでついてきてるの?」
「あぁ、あるじさまぁ、おら、えらいところについて来ちまったよぉ。荷物持ちだとかそのぐらいの手伝いのつもりでついてきただけども、まさかそのまんま魔王城に来ることになるとはおもわなかったぁ。おら、どうすりゃええかね」
「いや、小林が帰れって言ったときもノリノリでついてきてたじゃないか」
「あれはただの勢いでさぁ。まさか、本当にこげなとこにくることになるとはおもわながった」
「し、しらんがな……。怪我しないようにじっとしてなよ」
「そうしますがなぁ。あぁ、おっがねぇ。さっきの獣が出てきたときは、三途の川が見えたでな」
田舎者がブルブル体を震わせる。
視線を前方に戻すと、大剣の少女と剣士・槍使いが戦っている。
さきほどの武闘少女と違って武器を持っているので、団体に対しても押されることなく対等に戦っている。
たしかに化け物だ。
ちなみに地味な笛使いの方も、襲いかかる男達の剣を笛でカンカンと弾いている。
めちゃくちゃ地味なのに、普通に強い。
「おお、なんか今回も団体さんだけで普通に圧勝だな」
「そう……みたいだな」
小林が釈然としない表情をする。
俺は普通にうれしいのだが。
すると、笛使いの少女が常人離れした跳躍力で男達から距離をとる。
地味な姿なのでやっぱり地味だが、道化師の姿をしていればさぞかし映像映えしただろう。
そして、笛を構えてノリのいいケルト音楽のような曲を吹き始めた。
「おー、うまいな」
「のんきなこと言ってる場合か! きっと幻惑スキルだぞ!」
小林が怒鳴る。
すると、大剣の少女とつばぜり合いをしていた男達が次々と剣を取り落として、床にうずくまった。
「あ……なんかやばいっぽいね」
「あ、あぁ」
小林が額から汗を垂らす。
床にうずくまった男達はうめきながらのたうち回る。
後ろを振り向くと、弓使いや一般人の男達も倒れてのたうち回っている。
ちなみに、部屋の隅からカメラを構えているカメラクルーと女神は普通に立っているので、彼らは幻惑に対して耐性があるのだろう。
「ん……そういえば、俺たち幻惑耐性があったな。なるほどー」
辺りを見回すと、団体さんは全員倒れている。
「ふっ、残るは貴様らだけか。お前らごときは私の相手にならないが、二人まとめてかかってこい!」
倒れている男達を一瞥した大剣の少女は、俺たちを見据えた。
「くっ……」
小林が苦しげな表情をする。
なるほど、緊張するとこうやって冷静さを失うのか。
今俺は鎮痛剤の効き目が和らいできていて、ちょうど眠気と冷静さの中間にいる。
だから俺には分かる。
今は全くピンチではないと言うことを。
「よし、小林、もっとピンチっぽく演出しろー。リカルドのためにいいシーンをたくさん用意してやれよ-」
「お、お前、なんでそんなに緩いんだ!? ピンチだぞ!?」
「いや、ピンチじゃないって」
「はぁ!?」
「相手、女の子。しかも、近接系」
「あ、あぁ……」
小林も察して頷く。
「よ、よし、少しずつ間を詰めよう。一気に近寄って襲われたら危険だ」
それでも小林は怖いらしく、じりじりとすり足で近づいていく。
俺はまだだるいので、ゆっくりと普通に歩いて行く。
「ほ、ほぉ、そっちの男は余裕とでも言いたげだな。だが、私の実力を甘く見たツケを払ってもらおう……ん?」
大剣を構えた少女の体勢が崩れる。
とっさに足を踏ん張って転ぶのはこらえたようだが、しかしその表情に余裕はない。
「き、貴様、何をした!? この私に幻惑スキルは効かないはず!?」
少女が構える大剣がガクガクと震えている。
今にも取り落としそうだ。
「いやぁ、幻惑とかそういうチンケなスキルじゃないんだよ……」
そうつぶやきながらゆっくりと歩いて行く。
ちなみに、距離が縮まっているので、大声を出せなくても会話が成立する。
「で、では、なんだ……これは!?」
少女はついに大剣を地面に取り落とす。
膝がガクガク震えていて、立っているだけで精一杯という様子だ。
笛使いの少女は俺たちが幻惑にかかっていないことに驚いて、必死な形相で笛を吹き続けている。
しかし、魔王の幻惑でさえも無効化する幻惑耐性なので、そんなものは全く効かない。
「あぁ……効いて驚け。『50才以下の女性は接近禁止』の呪いだ」
「は、はぁ!? そんな馬鹿なモノがあってたまる……か……」
大剣の少女はそのまま床に崩れこむ。
「それがあるんだよなぁ……悲しいことに」
さらに歩いて行くと、床に崩れ混んだ少女が激しく痙攣した。
「ふぐあぁっ……うがっ……」
そして動かなくなる。
「あれ?」
「おい、やばいって!」
小林が俺の左腕をつかんで後ろに引き戻す。
「あ、悪い。うっかり近寄りすぎた。なんか楽しくなっちゃってさ」
「なにやってんだよ! 死んじまうだろ!」
「仕方ないだろ。この世界に飛んできて初めて俺TUEEEぽい展開だったんだから」
「おいおい……」
ちなみに、笛使いの方はいまだに頑張って笛を吹いている。
「あれも倒した方がいいのかな?」
俺が足を踏み出そうとすると、小林が肩をつかんだ。
「やめろって。戦意喪失している相手に追い打ちをかけるなよ」
「だってまだ笛吹いてるし。今の展開、もう一度やってみたい」
「やめとけ」
そんなことを言っていると、笛使いの少女はさきほどの非常識な跳躍力で後ろに飛ぶと、
「さよなら!」
と一言言い残して、扉から出て行ってしまった。
「あーあ」
「なに残念がってんだよ。よし、これでこの部屋も終わりだな。リカルド次の部屋に」
すると、カメラクルーの中からリカルドが走ってきた。
「いいですねー。次はいよいよ魔王ですよ。なかなかいい絵が撮れているので、このまま頼みますよ」
「え、あれでいいのか? すげーめちゃくちゃな気がするけど」
「大丈夫です。さて、魔王の部屋は……」
と、リカルドが言いかけた瞬間、部屋の中央で黒い渦が発生した。
「な!? まさか!?」
ひょうひょうとしているリカルドが驚く。
渦が消えると、70を超えているであろうローブをかぶったじいさんが立っていた。
「し、しまった、カイエル!? あいつが居ましたか!」
リカルドが慌てふためく。
「え、まって、なんだよあれ?」
俺が聞くと、リカルドが歯ぎしりした。
「桃山さん達がやってくることは関係者以外に伝えてなかったんですよ。全員突撃してきたら、桃山さん達では適いませんからね。しかし、まさかカイエルに情報が漏れていたとは……」
ただならぬ様子に、嫌な予感しかない。
「えっと……要は俺たちが適わない強い相手ってこと?」
「そうですよ。日村さんが魔法がある異世界に行って連れてきた有能な魔術師です。その実力は折り紙付き! 正直、桃山さんたちでは絶対に適わない相手……」
リカルド・俺・小林が三人で話をしていると、カイエルという老人がこちらに目を向けた。
「リカルド、何をしている。まさか、我らの魔王様に刃向かう気か!? このような若者を差し向けるとは何事だ!」
「い、いや、違いますよ。とにかく誤解です! あ、危ない危ない!」
リカルドが素早く俺たちから離れると、カメラクルー達の方に紛れてしまった。
「お、おい、リカルド!?」
「ふん。小童どもが。おなごどもを倒していい気になっておるだが、こやつらは魔王軍の中でも二流どころじゃ。この程度で魔王様に戦いを挑むなどおこがましいにもほどがある。このわしがお前達に引導を渡してやる」
カイエルは俺と小林をにらみつけた。




