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中ボス戦(武闘派少女)

 団体に遅れて次の部屋に入ると、なんとすでに戦いが始まっていた。

 チャイナ服の美少女がむさいおっさん達に囲まれて、フルボッコになっている。


「な、なにこれ!? 勇者は!? どうなってんの!?」


 チャイナ服の美少女は悲鳴を上げていた。

 見たところ武闘派らしく、襲いかかっている男達とやりあっている。

 かなりの腕だと言うことは一見して分かるが、数で押されてかなり苦しそうだ。


「あのさぁ、なんか敵を応援したくなるな」


「ま、まぁ、いいたいことは分かる……」


「多勢に無勢とか卑怯だと思わないの!? ま、まだ登場のセリフも言っていないのに! ぶ、武器とか卑怯!!」


 見ると、少女は武器を持たずに拳で戦っているのに、団体さんは普通に剣や槍で襲いかかっている。

 少女は拳で剣や槍を弾いているので、武闘系の特殊能力はあるに違いない。

 しかし、ここまで数に差があると、完全に集団の暴力だ。


「うーん、一撃で岩を砕くみたいなパワー系のスキルはないんだな」


 たぶん、日村が本当に危険なボスは置かなかったんだろう。

 先ほどの魔法少女も召喚までにかなりの間があったので、俺が普通だったら駆け寄って呼吸困難にすることができただろう。

 この武闘系少女なんて、近接技メインだから攻撃するために近寄ってきた瞬間にアウトだ。

 だが、俺がまともに動けないため、実際は名も知らぬ団体さん達にフルボッコにされているという。


 しかし、最強クラスのボスではないと言え、基本的にチートキャラ達だ。

 日村は「八百長」だということをきちんと彼女たちに伝えておいてほしかった。

 団体さんがいなければ俺たち瞬殺されていた可能性が高い。


「卑怯! 本当に卑怯! やめて! 無理無理! 死んじゃう死んじゃう!」


 どんどん増していく剣と槍の密度に少女が悲鳴を上げている。


「うわ、かわいそう。小林、なんとかしてあげたほうがいいんじゃないか?」


「あ、あぁ、そうだな」


 小林がフルボッコにしている団体に走り寄る。


「おい、中止! 中止! 戦闘中止! 敵は負けを認めてるだろ!」


「はぁ!? 誰が負けを認め……負けました! 負けです! だから止めて! 止めて! いま、かすった!」


 小林が団体の中に割り込んでいって、男達を制止していく。

 だんだんと動きが沈静化していくが、3人ほどの男がまだ少女に剣と槍を振らせていた。


「お、おい、やめだっていってるだろ!」


「うるせぇ! 魔王の配下に情けなんぞかけるか! それに、なんか楽しいぞ」

「おお、楽しいな」

「へっへっへっ」


 薄笑いを浮かべながら少女に向かって攻撃している。

 本来ならゲス野郎と蔑むところだろう。

 でも、ちょっと気持ちが分かってしまう自分が恥ずかしい。

 なんかこう、気になる相手をいじめてしまう的な。

 ってか、あの娘、リアクションいいよなぁ。


「おい、マジでやめろって!」


 ついに小林が割って入って、その3人も攻撃を止めた。

 もうちょっと少女が悲鳴を上げるところを見たかったがしょうが無い。


「おい、何やってるんだ!」


「いや、すんません、つい熱が入っちまって」

「なんとなく」

「止め時がわかんなくて」


 小林に怒鳴られた3人が頭を下げる。

 よく考えると、小林の奴、高校生のくせにおっさん達を怒鳴れるって、なかなかすごい神経だ。

 なぜそれで戦いの前のセリフを言えないんだろうか。


「た、助けてくれてありがとう。命の恩人だ……」


 チャイナ服の少女がキラキラした目で小林を見つめる。

 あー、いいなー。

 近寄っていってぶち壊したくなるが、体がだるいから止めておこう。

 移動は最小限に。


「よ、よし、とにかく次の部屋に行くぞ! リカルド、次の部屋に!」


「はいはい」


 カメラクルーに指示をしていたリカルドが小林の方に近寄る。

 おお、なんか小林、主人公っぽいぞ。

 俺は眠らないように耐えているだけだが。


 小林が手で指さすと、団体がぞろぞろとリカルドの後ろをついていく。

 小林は先頭にいかないらしい。

 少女と男達を交互に見ているところからして、どうも誰か手癖の悪い奴が少女にちょっかい出さずに部屋を出るか確認してから部屋を出るつもりらしい。


「う、うぅ……た、助かったよぉ。ありがとう……」


 少女の方が小林の手を両手で握ってニギニギしている。

 小林の方は困った顔をしているが、まんざらでもなさそうだ。


「い、いや、俺は別に……」


 ちくしょう、うらやましい。

 しかし俺が近寄るとぶっ倒れるに違いない。


「お、おい、小林、俺たちも行くぞ!」


 すでにカメラクルーと女神も次の部屋に移動を開始している。


「あ、あぁ! え、えーと、俺たちは次の部屋に行くからここでおとなしくしていてくれ」


「え、駄目だよ! 次の部屋にいるのはレイアとヒミラのコンビだから、多分勝ち目がないよ! 引き返さないと!」


 と、チャイナ服の少女が言う。

 なんか親切な娘だな。

 それにしても、ボスが二名とか反則だろ。

 いくら勇者側の人数が多くても、ボスは1名で戦わないといけないのが常識だ。


「でも、俺たちは魔王を倒すために行かないと……!」


 小林が格好良く言う。

 すごく様になっている。

 頭の上に載せたミカンと、あちこちからぶら下がっているムンクの人形がなければ。


「ダメダメ! レイアの剣はとんでもないし、ヒミラは幻惑の笛を使うの! さっきの剣士達と槍使い達でも絶対に適わないって!」


「そ、そうなのか?」


 小林が焦る。


「本当はレイア一人のはずだったんだけど、人数がすごいからヒミラが助っ人に来たらしいの。本当に危ないから、帰ったほうがいいから!」


 少女が真剣な顔で言いながら、小林の手をニギニギする。

 ぐぞ、う゛ら゛ま゛ら゛し゛い゛!


「でも、先に連中が行っちゃったから、放っておく訳にもいかない。忠告ありがとう」


 小林が冷静に言って、少女の手を離す。


「な、なら、私もついていくよ。私なら説得して戦いを止められるかもしれないし」


 少女が必死な顔で小林に迫る。

 うらましい。

 しかし、これはボスが仲間になるフラグ!

 全方位から剣と槍とたたき込まれてもしのげるほどの実力者だ。

 かなり心強い助っ人だ。


「それはありがたいが……あいつが呪われていて、君が一緒についてくると多分呼吸困難になると思う」


 と、小林が離れたところにいる俺を指さす。

 あぁ、そうだった。

 鎮痛剤でぼんやりしてて気がつかなかった。


「だから、ここで待っているんだ」


「わ、分かった! でも、危なくなったら逃げるんだよ!」


「ああ」


 小林が身を翻して颯爽と俺の方に向かって歩いてくる。


「…………」


 俺が無言で見ていると、小林はうろたえた。


「な、なんだよ!?」


「いや、男の娘専門じゃなかったのかと」


「は、はぁ!? なにを言ってるんだ。お、おい、いくぞ!」


 小林が早歩きで次の部屋に向かっていくので、俺はゆっくりと追いかけた。



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