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中ボス戦(魔法使いの少女)

 リカルドが巨大な扉の鍵を開けると、扉がゆっくりと開いていった。


 広いだけでなく高さもあり、屋内とは思えない広大な体積の部屋だ。

 そして、入ってきた扉の向かい側には玉座のようなモノがある。

 みるからにボス戦を連想させる部屋だ。


「え、もうボス戦!?」


「いえいえ、中ボス戦です」


 そう言ってリカルドがすっと後ろに下がる。

 カメラに写らないためだろう。


「あ……おい……」


 そのままリカルドは早歩きでカメラクルーの方に移動してしまった。


「よくぞ参った」


 玉座の陰からとんがり帽子に杖を持った「いかにも魔法使い」な少女が現れた。

 しかも、なにか見覚えがある。


「あっ、日村が祭りの時に侍らせていた女の子じゃないか?」


「そうみたいだな……」


 小林も頷く。

 かなり部屋が広大なので少女までかなり距離があるが、それでも美少女だと言うことは分かる。


「ち、畜生! 日村め! あんなかわいい女の子を部下にしてハーレムライフ送っているのか! まじで許せん!」


 うなるが、しかし体は鎮痛剤のせいでめちゃくちゃだるい。


「ってことで、小林頼む」


「いや、お前が近づいてお前の呪いでノックアウトするんだろ!」


 そういえば、そんな話をしていた気がする。

 だけど、そんな素早く動けないぞ。


「ふっふっふっ。お前達が魔王様を狙う勇者か」


 魔法使いの少女が余裕たっぷりの口調でセリフを言う。

 演技だとしたら、めちゃくちゃ演技がうまい。

 ってか、勇者だって。

 俺たちって、ぶっちゃけ勇者扱いしていいのだろうか。

 自分で言うのも何だが、ただのモブA&Bな気がする。


「あ……えーと……いかん、鎮痛剤で気の利いたセリフを思いつかない。小林、代わりに頼む」


「え!? 俺が!? こ、こういうのは苦手なんだよなぁ……」


 小林が困った顔でぶつぶつつぶやく。


「え、えーと……そ、そうだ、俺たちが魔王を狙う勇者だ!」


 オウム返しだなぁ。


「ほお、ただの人間の分際で魔王様を狙うとはいい度胸だ……な、なんで竹なんか背負ってるんだ?」


 少女の言葉が疑問形になる。

 なんか俺たちの情報がきちんと伝わってない気がするが大丈夫だろうか。


「な、なぁ、なんて答えればいいんだ?」


「アドリブでいいじゃん。みかんも乗っけてるぞとか」


「お、お前が代わりに言ってくれよ。俺はこういうの苦手なんだよ」


「痛みはましになってきたけど、いますんごくだるくて眠いんだ。大声とかマジで無理だから」


「く、くそう! じゃ、じゃあ……俺は頭にみかんも乗せているぞ!」


 小林が大声で張り上げる。

 あ、本当に言いやがった。

 小林は本当にセリフが思いつかない奴なんだな。


「は、はぁ!? なにふざけてんの!? 馬鹿なの!? 死ぬの!?」


 魔法使いの少女の口調が荒くなる。

 この様子を見ていると、どうも向こうは本気で戦う気のようだ。

 もしかして、日村が「八百長」というを伝えてないのか?

 それ、けっこう本気で俺たちがピンチなんだけど。


「ば、はかじゃない! これには深いわけがあるんだ! 俺は馬鹿じゃない!」


 小林がむきになる。

 たぶん、かわいい女子に罵倒されるのが心に来ているのだろう。


「どこまでもふざけた野郎ね! 私の華麗な魔法で踊りなさい!」


 少女が杖を構える。

 え、ここでチート級の魔法とかぶっ放されたらやばいんじゃないか?

 どうみてもあれは八百長の態度じゃないぞ。

 そもそも日村以外にも魔法を使える転生者とかいたのか。


「やば……早く近寄って倒さないと……でも無理……ってか寝そう」


「お、おい、桃山なんとかしろ!」


 少女の杖に赤い光がともる。

 あ、まじでやばい。


「助太刀いたすぅぅ!!」


 突然、後ろからそんな声が響いた。

 そして、俺の横をすりぬけて槍を持った男が飛び出して行った。

 自分が寝ぼけているせいか、その速度は常人離れしたとんでもない速度に見える。

 男はあっという間に少女につめより、光が満ちようとしていた杖に槍を突き立てる。

 杖は吹き飛び、壁に当たって跳ね返った。


「くっ!? くそっ!」


 少女から余裕が消え、不思議な構えで指を交錯させて手と手の間にまた光をともす。


「ちくしょう! 杖がなくても魔法を使えるのか!?」


 小林がうなる。

 俺の方は鎮痛剤の効き目で現実感がなくなって、映画でも見ているかのような気分でその光景を眺めている。

 状況はけっこう冷静認識していてやばいのは分かるけど、それでもあまり現実感がない。


「させるか!」


 男が槍を少女に向かって突き出すが、少女は器用にのけぞってその槍をかわす。

 うわ、すげー体術。

 魔法使いなのに意外と肉体系なのだろうか。


「く、くそっ!」


 小林が舌打ちする。


「ふん。遅いよ。出でよ、我が|僕<<しもべ>>、地獄のケルベロス!」


 少女の手と手の間の光が強く輝き、少女の横に頭が三つある巨大な獣が現れる。


「げ、げぇ!? まじかよ」


 小林が目を見開く。

 しかし、俺は現実感がないので、あんまりとくに感じない。


「というか、魔法じゃなくて召喚なのかぁ……」


「そんなのんきなことを言ってる場合か! ど、どうする!?」


 小林が慌てるが、ケルベロスと対峙した槍使いは落ち着いて槍を構えている。

 ケルベロスもいきなり襲いかかることはせずに様子を見ている。


「いや、どうするって言われても……なんもできん。寝そうになるのを耐えてるだけで精一杯。立ってるからいいけど、座ったら絶対寝るわ、これ」


「お、おい、こんなときに!」


「この鎮痛剤強力すぎだわ……」


「お、おい、誰か!」


 小林が後ろを振り向くと、団体の中から剣をもった男が3人ほど駆けだした。


「手伝おう!」

「俺は勇者になる!」

「俺が相手だ!」


 駆けだした2人はケルベロスを挟撃する位置に回り、もう一人が少女の前に牽制にでる。


「た、ただの人間の分際で生意気な……」


 少女がまた魔法発動のために腕を交差させる。

 しかし、そこに矢が飛んできて、少女の腕をかすめた。


「な!? 飛び道具は聞いてない!」


 少女が矢を放った男が紛れている団体に目を向ける。

 その隙に、少女の前の男が剣を振る。

 少女はとっさによけるが、準備ができていなかったらしく、バランスが崩れる。

 そこへ男が剣のつかをみぞおちにたたき入れる。


「げぇっ……」


 かなりエグい声をあげて、少女はそのまま倒れ込んだ。


「うわ、いたそう」


「お前、本当に緊張感無いな!」


 小林が突っ込んでくるが、眠いんだから仕方が無い。


「い、いまじゃあ! 皆の衆いくぞぉ!」


 団体の誰かが叫ぶと、団体はそのままケルベロスに向かって突撃していく。

 またしても矢が飛ぶわ、槍が突き出るわ、剣を振る舞わすわ、とにかく大混戦になる。


「眠い……死人でないかな」


「うわっ……お、俺も前線に……いや、でも、俺の腕だと同士討ちするかも」


 俺と小林が見ているうちに、誰かがケルベロスの目に矢を当てている。

 さらにあっという間に誰かが剣がざくざく刺して、誰かが大槌でケルベロスの頭を殴り飛ばして昏倒させ、誰かが槍で脳天にとどめを刺す。

 俺が寝ぼけているうちに、知らない誰かが活躍していつのまにか戦いが終わっていた。


「なぁ……あいつら、強くない?」


「つ、強いな……」


 小林が剣を握ったままうなった。


「俺たちじゃなくて、あの団体さんが魔王を傷つけた場合、俺たちは目的達成になるのかな」


「さぁ……どうだろうな」


 ちなみに、女神は俺たちから距離をとって、部屋の隅でカメラクルー達と一緒にこちらの様子をうかがっている。


「あ、なんか次の部屋に向かうらしいぞ」


「あ、あぁ、ついてくか……」


 リカルドの案内で団体さんたちが勢いづいて次の部屋に突入していく。

 俺たちは後から追いかけていく形だ。


「なぁ、ボス戦ってこういうもんだっけ? 俺、眠いからよくわかんないんだけど」


「俺も分からなくなってきた」


 小林がつぶやいた。


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