魔王城突入
鎮痛剤が効いてくると、痛みは確かにかなりマシになった。
しかし、いかんせん体の感覚がすべて鈍くなった。
こんなんで戦うとか冗談のようだが、たしかにやるしかない。
「あー、俺たちはこれから魔王に挑む。だが、俺と桃山だけで向かうから、みんなはここで待っていてもらいたい」
「あるじさまぁ、そりゃあんまりだわさ。そもそも、なんの能力もないっていってたじゃねぇですかい。そんなんで大丈夫かいな」
「拙者、我が命に替えてもお守り申す! 是非とも同行させていただきたい」
「はんっ! 魔王を倒すのは俺だよ。おめえらには無理さ」
「バカを言え、魔王を倒すのはこの私だ。みよ、この名剣を」
「こんなとこで剣を抜くな! キチガイか!?」
「剣では無理だな。この俺の槍で首級をあげてやる」
小林がそんなことをいっても、団体様は全然話を聞かない。
絶対についてくるぞ、これは。
「しかたない……桃山、全員でつっこむぞ」
「だ、大丈夫か?」
「相手は魔王だ。なんとかしてくれるだろう」
「だといいが……」
「ちょっと二人とも何を話してるの? そもそも、そんな状態で魔王に挑むなんて無謀なんじゃないの?」
女神が俺を指さす。
いや、あんたが来たせいで勢い的に突入しないといけなくなったんだけど。
そんなことは当然言えない。
「い、いや、こういうのは勢いだ。不意打ちしか勝ち目はない。とにかく、俺たちが魔王を屈服させるところを見ていてくれよ。終わったらちゃんと元の世界に戻してもらうからな。っつー……」
「それは分かってるわよ。でも、本当にできるのかしら」
「よ、よし、いくぞー。畜生、こんなざまなら、治癒魔法とかかけないほうが良かった……」
ふらふらして現実感がないまま、俺と小林は魔王城の正門に向かう。
「ちょっと、なに正面から突っ込もうとしてるのよ!? 普通、裏から入らない?」
女神がもっともらしい突っ込みをする。
「そ、それは……」
「いや、他の入り口は厳重に鍵がかかっている。入り口はここしかない!」
小林がはったりを噛ます。
いいぞ、小林。
正門は堂々と開いている。
よし、向こうも準備がちゃんとできているようだな。
「い、行くぞ!」
正門を踏み越えて、魔王城の中に入る。
正門を入って城を見上げると、その巨大さに改めて驚く。
「こ、このなかに入るのかね? 大丈夫かい」
「ふん、臆病者は置いていくぞ」
「大げさな。ただの門ではないか」
「油断するな。どこから魔物が飛び出してくるか分からんぞ」
「馬鹿者、足下にも気をつけろ! 卑劣な罠があるに違いない!」
団体様も剣や防具をガチャガチャ音を立てながらついてくる。
やっぱりついてくるんだ。
正門から城の入り口までの道の左右には、不気味なガーゴイルの銅像が並んでいる。
RPGとかだと、実体化して襲ってきそうな配置だが、とりあえずそういうことはなさそうだ。
ま、そりゃそうだ。
そんなことされたら普通に勝ち目がない。
「だ、大丈夫? 本当にこれで魔王に挑むの?」
女神が不安そうにキョロキョロ辺りを見回している。
「や、やるんだよ!」
正門からの道が終わり、ついに城の入り口の前に立つ。
「よし、開けるぞ……あ、俺、右手が使えないから、小林頼む」
「ああ」
小林が用心しつつ、重厚な扉を押す。
ギギィ というすこし不気味な音を立てながら、扉がゆっくりと開く。
「誰かいる!」
小林が剣を構えて、後ろに飛び下がった。
「え?」
俺は感覚が鈍っているので、動けずにただ扉の中をぼーっと見つめていた。
慣性で扉が半分ほど開くと、白い手が暗闇から出てきて、扉の取っ手をつかむ。
そして、城の中から扉が開けられていく。
なんだ、このホラーな演出は。
「あ、どもどもー」
そして、扉の向こうにいたのはリカルドだった。
「え、リカルド……?」
「な、なに、知り合いなの!?」
女神がすかさず突っ込む。
しまった余計なことを言った。
「い、いや、そういうわけじゃなくて……ってか、リカルドが戦うのか!?」
「はぁ? いやいや、違いますよ。はい、これマイクね。袖口につけてください」
リカルドはニコニコ顔で、小さなワイヤレスマイクを渡してきた。
「へ?」
「は?」
「え?」
俺と小林と女神の声がハモった。
ちなみに、団体様は数歩離れたところで俺たちを見守っている。
「やっぱり音声は明瞭に撮りたいので、これは必要ですね。えーと、主要メンバーは桃山さんと小林さんと……あれ、あなたは?」
リカルドが女神を見る。
「わ、私は戦わないわよ!? 見届けに来ただけで……」
「じゃ、結構です。他に戦いそうな人はいますか?」
「いや、いきなり聞かれても……ってか、あの団体の一人一人は俺たちも把握してないんで」
「じゃ、とりあえず二人でいいですね。あとは部屋全体の音声を録音するから、それでなんとかなるでしょう。あと、カメラに攻撃を当てないでくださいよ。はい、どうぞ、先に進んでください」
リカルドが手を振って団体を案内する。
まるで遊園地のアトラクションに参加しているみたいだ。
振り向くと、カメラを持った男が3人、それから風防のついたマイクを持った男も二人、それからポータブル画面を見ながら歩いてくる男が一人、合計6人が俺たちと団体の周りをついてきていた。
思ったより本格的だな。
ってか、なんじゃこりゃ。
ちなみに、団体さんは突然現れた異様な団体に警戒している。
当たり前だ。
この世界の人間がカメラとかマイクを見たことがあるはずがない。
「いやぁ、いいですねぇ。実に盛りあがりますねぇ」
リカルドが一人で盛り上がって、俺と小林の前を歩いて行く。
「え、リカルドも参加するの?」
「あ、私は案内係ですよ。道を間違えてトイレや台所に入られても困りますからね。要所要所でカメラの死角に回りますから、気にしないでください」
そう言われても、めちゃくちゃ気になるんだが。
「ど、どうなってんの? ま、魔王は一体なにを……」
女神が混乱している。
団体様もカメラというよくわからない存在から距離をとりながら、不安そうについてきている。
「はいはい、みなさん最初はこちらの部屋ですよ。順番に入ってくださいね。それからカメラにぶつからないように気をつけて! 壊したら許しませんからね!」
リカルドに案内されて、俺たちと団体は巨大な扉の前に移動したのだった。




