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チート武器(工業用万能カッター)

 結局、リカルドの演技に付き合って防具を購入して、店を出た。


「あー疲れた」


「私は楽しかったですねぇ。あ、スマホ返してください。ちゃんと撮れてるかな……っと」


 リカルドがスマホで撮影した動画を確認しだした。


「おい、そんなことは後でいいからこの武器と防具の使い方を教えてくれよ」


「さぁ、それは私も分かりませんね。とりあえず、街の裏手に行けば魔物がうろついているから試し切りでもしたらどうですか?」


「バカを言え! 普通に返り討ちに遭うわ! いくら武器がすごくても俺たちはただの素人だからな!」


「そんなことを堂々と言われても。ただ、一応危険物なので、街の中で振り回さないでくださいよ。街を出て右手に行けばすぐに森になってますから、そこで木を相手に使ってみてはどうでしょうか」


「うーん、そうするか」


 ということで、リカルドを残して、俺と小林は街を出た。

 街を出たと一言で言えばどうと言うことはないが、街もでかいし、そこからすぐ近くの森までも結構あるので、普通に1時間ぐらいは歩いた。


「よし、この辺りなら人もいないな」


 俺は剣というか”工業用カッター”の持ち手にあるスイッチをONにしてみた。

 刃の部分が紫色に輝き、一目でスイッチが入ったことが分かる。


「おお……」


「桃山、それで木を切ってみろよ」


 小林が十分な距離をとりながら言った。

 お前、慎重だな。


「わかったよ……大丈夫か……?」


 その刃先を木に当てると、こつんと当たった感覚がある。

 しかし、そこに軽く力を入れてみると、簡単に刃先が木の中にズブズブと沈み込んでいく。


「うお!? おお!? こ、これすごいな!」


 でも本当に切れすぎて怖いので、早々に剣を木から引っこ抜いてスイッチを切った。


「なるほど……そういう感じか」


 今度は小林が剣のスイッチを入れて、地面に転がっている岩に刃先を突っ込む。

 岩が相手であっても面白いように簡単に切れていく。


「ん、これなんだ?」


 小林が脇のスイッチを押すと、刃先で光っていた紫の光の長さが3倍ほどに伸びた。


「うわ!?」


 小林が驚いて剣を左右に振ると、紫の光が当たった木がざっくり切れて、その木が倒れる。


「あ、危ねぇ。俺の方に向けるなよ!」


「わ、分かってるよ」


 小林が脇のスイッチにもう一度触れると、紫の光の長さが元に戻った。


「な、なるほど。なんか刃を長くすることができるのか。普通にチート武器だな。武器というか、カッターらしいけど」


 俺は改めて剣を見た。

 これ、本当に日村に切りつけて大丈夫か?


「それから、この防具はなんなんだろうな?」


 俺は腰につけたこぶし大の変な装置を見た。

 防具屋でリカルドが売っていたもの防具も、やっぱり盾とか普通の道具ではなく謎の装置だった。

 これも宇宙世紀時代の転生者が持ってきた物らしいが、どういう働きをするのかわからん。

 やっぱり工業製品っぽい見た目で、ひっくり返すと型番も書いてある。

 これもスイッチがあるので、電源を入れてみる。

 電源スイッチ横のLEDと思われるランプが光るが、特になんの反応もない。


「なんだこれ……?」


「わからないな」


 小林もスイッチを入れたようだが、特になんの反応もないようだ。


-ウガアァ


 そんな動物の声が聞こえて振り返ると、頭から角が生えた毛むくじゃらの……一言で言うと巨大な角が生えたイノシシがこちらを見ていた。


「え、ええええ!?」


「おい、逃げろ!」


 小林が叫んだが、とっさのことで体が動かない。

 イノシシの目はこちらを見据えており、戦う気満々だ。

 おそらくこれも日村が放った魔物の一匹だろう。


「あ……あ……」


 動けない俺に向かって、イノシシはその角を突き出したまま突進してきた。

 なんとか横にステップをふんだが、足場が悪くてほとんど移動できない。

 イノシシは俺がずれた分をちゃんと補正して、やはり俺の胴体めがけて突っ込んでくる。


「あ、やば………」


 衝撃を予想して無意識に体を丸めようとしたその瞬間、5メートルほど先でイノシシが何かに弾かれて倒れ込んだ。


「へ?」


 腰につけている装置が、ピロン♪ と軽い音を立てた。


「あ、なに、そういうこと!?」


 バリア装置なのか、と納得していると、小林が横からイノシシに近づいてカッターを振りかざした。

 イノシシはさっくり二つに切れて、血を吹き出しながら絶命する。


 俺はその光景をみたまま、しばらく固まっていた。


「だ、大丈夫か?」


 小林がカッターのスイッチを切ってから俺に近づいてきた。


「あ、あぁ……とりあえず怪我はない。あと、漏らさなかった。さっき小便しておいて良かった。膀胱が一杯だったらやばかった」


「そ、そうか。とりあえず無事でよかった」


「なんつーか……本当にチートだな。何でもサクサク切れる剣に自動のバリアとか、ほぼ無敵じゃん」


「あぁ、なんかすごいなぁ」


 と、改めて剣と防御装置を見ていると、小林が何かに気がついたらしく、顔を上げた。


「あっ、ちょっと思ったんだが……」


「どうした?」


「そういえば、お前の担当だった銀髪は命の危険が迫ったら助けに来るとか言っていたよな?」


「あぁ、そうだよ」


「それだ……。思ったんだけど、天界には転生者の状況を把握する装置があるんじゃないか?」


「あるんだろうな。でも、忙しいときは見てないと言っていたし、今もあの女神は全然見てないだろうよ」


「だけど、死にそうになった瞬間に助けに来ると確約したってことは、ピンチの時に警報上がる仕組みくらいはあるんじゃないか?」


「あー、なるほど」


 そう言われてみるとそんな気もする。


「ということで、一度ピンチなってみたらどうだ? もし助けに来なかったら俺が助けるから」


「ええ!?」


 それはつまり、俺が意図的に危険な目に遭うと言うことだ。


「い、いや、それは……逆じゃダメか? 小林が危険に突っ込んで、俺が万が一の時に助けるってことで」


「うーん……桃山がとっさに助けられるか……?」


 小林が怪訝な顔をする。

 そういわれると厳しい。

 さきほどの状況で、立場が逆だったとしたら俺はたぶん動けなかっただろう。


「わ、分かったよ。試しにやってみるか」


「あぁ。八百長とはいえ魔王戦をやるんだから、天界の奴に見てもらった方がいいだろう。そうすりゃ難癖もなく俺たちも元の世界に帰れるはずだ」


「ま、まぁ、そうだな。でも、あのイノシシはなしだ。もうちょっと弱そうな魔物にしてくれ」


「そうだな。なにか……お、アレなんてどうだ」


 おあつらえ向きに青いスライムがのんびり移動していた。


「スライム!? この世界にそんなものがいたのか!? いや……日村が用意したのかな」


「だろうな。おい、防具のスイッチを切って戦いを挑めよ。あと、その剣は強すぎる。そこらへんの棒で戦えよ」


「わかったよ」


 防具のスイッチを切って、剣を木に立てかける。

 落ちている適当な木の枝を握って、そろそろとスライムに近づいていく。

 スライムはうねうね移動しているだけで、こちらの様子を気にかけていない。

 というか目とかないから、周りの状況を分かっていなさそうだ。

 よくこんな状態で生きていられるもんだ。

 他の動物が襲わないほどまずいんだろうな。


「うーん……なんかこいつ相手に戦っても全然ピンチになれる気がしない」


「いいからやってみろって」


「はいはい」


 弱いモノいじめな気がしてならないが、とにかく棒をスライムに向かって振り下ろしてみた。

 しかし、スライムはペチャという音を立ててへこむモノの、とくにダメージもなくふにゃふにゃ動いている。


「なんか……効いてないな」


 さらに棒をなんどか振り下ろしてみるが、やはり全然効いている気がしない。


「もっと力を込めろよ」


「わかったよ」


 今度は思いっきり力を込めて棒を叩きつけてみる。

 すると、棒はそのままスライムの中にめり込んでしまう。

 変形したスライムは、棒を伝って俺の腕に上がってきた。


「う、うおおおおおお!? ちょ、やばい! おい、小林!」


 小林がカッターの電源を入れてスライムを切りつける。

 切り離された本体の方はそのままマイペースにどこかに移動していくが、腕についたスライムはそのままどんどん上に上がってくる。


「ちょ、小林! こっちのスライムなんとかしてくれ! い、いてぇ! なんか皮膚が痛い!」


 スライムが乗っている手の甲が焼けるような痛い。


「防具のスイッチを入れろ!」


 小林の声で空いてる方の手で、防具のスイッチを入れた。

 ランプはついたが、しかしスライムの様子に変化はない。


「お、おい駄目だ!」


「この防具、きっと向かってくる飛来物とかに反応するんだな……」


「冷静な分析いいから、なんとかしてくれ!」


 スライムは腕を伝って肩あたりに到達する。

 首筋にスライムが触れて、そこも焼けるような痛みを感じる。


「な、なんか、布を……」


 小林が俺の背中の荷物に腕を突っ込んで、唐草模様の緑色の布を引っ張り出した。

 あ、俺が転生の時に持っていた風呂敷か!?


「こ、こいつでなんとか……」


 小林が風呂敷でスライムをつかんで引き剥がす。


「いて……いてぇ!」


「がまんしろって! くそ!」


 肩のスライムの塊を風呂敷で包むようにして引き剥がすと、腕や首に伸びていたスライムも急速に縮んで風呂敷の中に移動していく。

 ちぎれずに固まろうとする性質らしい。


「よし……よし、いいぞ」


 スライムが風呂敷の中の塊に集まったのを確認して、小林は風呂敷ごとスライムを遠くに放り投げた。


「大丈夫か!?」


「と、とりあえず……でも、皮膚が痛い……」


 見ると、赤くなって所々ただれている。


「う、うげぇ! マジかよ!」


「手当てした方がいいな……。すまん、変なことをさせて」


「し、仕方ねぇ。いいよ、とにかく早く街に戻ろう。道具屋で回復薬を買っておけば良かったな」


「とにかく洗い流そう」


 小林が水筒を開けて、中の水を首と腕にかけた。


「いっっつぅ………!! いてぇ! くそ、いてぇ! ぬがあああ!!」


 しみる水に耐えていると、目の前にポンと突然人が現れた。


「いてぇ……って、女神か。そんなことより痛い! 痛い! しみる!」


「あ、腐れ女神! なにか手当てするモノをもってないか!?」


「はぁ!? えぇ!?」


 女神が驚いた顔をする。


「水でもいいから! とにかく粘液を洗い落とさないともっとただれる!」


「わ、わかったわ!」


 女神が姿を消して、またすぐに2Lペットボトルを持って戻ってきた。

 天界ってどんな世界なんだ。

 なんて突っ込みたいが、それより痛い!


「これ、水!」


 女神からペットボトルを受け取った小林が俺の腕に引っかける。


「い、いてぇ! し、しみる! くぅ………」


「とりあえず、だいたい落ちたかな」


 小林が俺の腕と首筋を見て頷く。


「い、いてぇ……めちゃくちゃいてぇ。ちょ……なんだよこれ」


 腕を見るとあちこちただれている。

 血が出てはいないが、真っ赤になって、さらに熱をもってはれてきている。


「こ、これまでなんだかんだ言って、かすり傷ぐらいしか負わなかったのに……くそぉ。いってぇぇぇ!!」


「わわわ、どうしたの!? 魔物に襲われた!?」


 女神は状況を把握していないようで、周りを不安そうに見渡している。


「ス、スライムに……」


「この世界のスライムはこちらから手を出さなければ襲わないはずなのに、なんで?」


 まさかピンチになろうとして襲ったとは言えない。

 というか、ピンチになって本当に女神がやってくるとは思わなかった。


「た、助けに来てくれたのか? ってか、いてーー!!」


「アラートが鳴ったから来てみたら、まさかスライムに襲われてたなんてね。まぁ、死ぬ前で良かったわ」


 平常心を取り戻した女神が、なんでもないかのように言った。


「よくない! 痛い!」


「あれ、ここは……?」


 女神は俺を無視して、周りを見た。


「ここは魔王城の目の前!?」


 女神は俺たちの現在位置すら知らずに転移してきたらしい。

 なんかいろいろずさんすぎる。


「はい、これから魔王に戦いを挑むところです」


 痛みで歯を食いしばっていると、小林が代わりに答えた。


「あんたたち、魔王城までたどり着いたの!? 絶対途中で野垂れ死ぬと思ってたのに」


「ひ、ひでぇ……い、痛い……」


「とにかく街に行こう。ここじゃ手当もできない」


「あぁ……」


 俺と小林と女神は街に向かって歩き出した。

 下手に腕を動かすと、ただれた皮膚と服がこすれて激痛が走る。

 手を横にふりながらなんとか遅れずについていく。


「なんか手伝おうか?」


 と、小林が言う。


「いや、いい。ってか、腕に触られるとめっちゃ痛いから、一人で歩いている方がましだ」


「そうか」


 その様子を見ていた女神が首をかしげた。


「長い間の二人旅で友情以上の感情が芽生えて……?」


「痛いときにくだらないことをいうな! あぁ、くそ、叫んでも痛い! なにをしても痛い!」


「うるさい、くそ女神」


 俺と小林がすかさずに突っ込む。


「だいたい、この組み合わせは美しくないとか失礼なことを言っていたじゃないか。あぁ、いてー! 痛いって言わないと声が出せない。いてぇ!」


「まぁ、見た目はね。でも、片方が怪我をしてそれを看護するうちに高まる友情、そしてその感情は友情以上に……なんて萌えるじゃない! あーいいわー」


 だめだ。本当に腐ってる。


「ちくしょう。街はまだか」


「まだ半分だぞ」


「遠いな……腕はれてる……」


「ちくしょう、連絡手段とか確保してから来るべきだったな。日村のチート連中が来れば一発だっただろうに」


「でも、シドウキだけはごめんだぜ。今、あいつに付き合ったら死ぬ。い、いてぇ……」


 腫れる腕に触りたくても触れないまま、腕を横に振りながらなんとか歩いて行く。

 ようやく、城塞都市の入り口が近づいてくる。


「あれ……なんか変な集団がいるな」


 と、小林がつぶやく。

 俺はいたくてそれどころじゃなかったが、小林が見ている方向に目を向けた。

 4、50名ほどの男達が剣や槍を持ってたむろしている。


「ま、魔王討伐の部隊か」


 俺がそう聞くと、小林は首をかしげた。


「兵士って感じじゃないな。なんか田舎者丸出しのやつもいるし……あ、走ってくる」


 田舎者っぽい服装の男を先頭に、こちらに向かって走ってくる。


「ん? なんだ……あれ、なんか見たことあるぞ」


「あるじさまぁ!! どえれえとこでお会いなすった!」


 田舎者が走り寄りながら声を上げた。


「ん、あれは……まさか?」


「あぁ、国境線の前で巻いてきた連中だな。しかも、数が増えてる」


 小林がつぶやいた。


「おー、あれが魔王を倒すために立ち上がった勇者であるか! わしもお近づきになろう! だが、あまりに若くないか」

「ああ見えて、とんでもねぇお方なんだよ。みなせぇ、背中に笹を背負っておられる」

「噂には聞いていたがなんと珍妙な! ところがもう一人は頭の上にみかんを載せているように見られるが……」

「その通りだ。常人には及ばない発想だ。まさにあれこそが勇者」

「いてぇ! まただれか足を踏みやがったな!?」

「おい、クマーはどうした? 昨日から見てないぞ」

「ああん? クマーの野郎は昨日帰ったぞ」

「なんだと、無責任な!?」

「なに、あれが勇者!? 馬鹿な、勇者は私だ。あのようなこわっぱに何ができる!」

「むむ、なにか怪我をしているようだぞ!? さては、魔王の放った魔物と一閃交えたな!?」


 わちゃわちゃ話しながら男達が近づいてくる。


「あるじさまぁ、こりゃこりゃおひさしぶりですな! おらたち、いきなりねむくなっちまって、はぐれちまっただけんども、あるじさまたちはお元気にやってなすったか」


 田舎者が飛び出してきて、俺の腕を握ろうとする。


「うおい! 止めろ! 怪我してるんだから触るな!」


「あれぇ、あるじさま、怪我だってよ。だれかなんかもっとらんかの」


「普段であれば拙者は軟膏を常備しておるのだが、不覚にも家に置いてきてしまった」

「けっ、そんなのつばでもかけときゃ直るぜ」

「む? 転生者であれば治癒の能力ぐらいあるのではないか?」

「そいつはきっと、そういう能力が使えない特別な攻撃を受けたんでしょうよ」

「なんと!? さすがは魔王の領地。転生者の能力も歯が立たないとは」

「いや、そいつは違うね。そもそもあの転生者に特別な能力はないって話だぜ。だからこそ、俺が助太刀に来てやったんだ」


 わちゃわちゃ話しあっているが、薬が出てくる様子はない。


「お、おい、とにかく早く街の中に……ちくしょう……まだ痛い……」


「そ、そうだな」


 4,50人のおっさん達を無視して俺たちは街の中に入る。


「な、なんなのあの連中?」


 女神が怪訝な顔で後ろのおっさんずを見る。


「知るか……い、いてぇ! どこに行けばいいんだ」


「俺が走ってくる。ここで待ってろ!」


 小林は俺と女神とおっさんずを街の入り口に待たせたまま、一人で魔王城に向かって走って行った。


「ちょ、ちょっと、小林少年が一人で魔王城に突っ込んでいったわよ!?」


「ち、違うって……とにかく日陰に」


 日差しが当たると皮膚が痛いので、門の裏の日陰に回り込んで座り込む。

 動かさなければ痛みはまだマシだ。


「ちくしょー……なぁ、女神、なんかこういう傷直せないの?」


「そういうのはできないの」


「ケチだな……。水を持ってきてくれるなら、ついでに医療道具ぐらい持ってきてくれよ……あーもー」


 日陰で座り込んでいると、女神は俺の相手に飽きたのかおっさんずの連中の方に近寄っていった。


「な、なんなのよ、あんたたち」


「ふむ。我々は魔王討伐のために立ち上がった勇士だ。桃山殿と小林殿の心意気に感銘を受け、我々も同行させていただく」


 そんな心意気をみせた覚えはないが、なんか勝手についてきたんだけどなぁ。


「ところで、桃山殿には老人以外の女性は近づけないということだったが、あなたは近づいているようですな。これは面妖な」

「そういやそうだな。どういうことだ」

「この女、人に見えて魔物ということでは」

「なるほど、さもありなん! さてはこの女が桃山殿を罠にはめたのだな!?」


「はぁ!? ち、違うって」


「俺の見たところ、そいつは違うな。こいつは魔物じゃない」

「ほお、それではなんだというんだ」

「こいつはこう見えて男なんだよ。みてみろ、厚化粧の後がくっきりと見えてやがる」


「はぁぁぁ!? だれが厚化粧だって!? だれが男だっての!」


「わしには男にはみえんのぉ。ということは実はかなりのばあさまということかの。それであれば厚化粧も説明がつく」


「だから誰が厚化粧よお!!」


 団体と女神が何かをやり合っている。

 でも、そんなことはどうでもいい。

 早く来てくれよ、小林。


「悪い、待たせた!」


 小林が大声を出しながら走ってくる。

 その後ろから若い男が走ってくる。


「ま、待ちくたびれたぜ。そいつは?」


「あぁ、癒やしの能力をもっている転生者だ」


 なるほど、魔王のところから転生者を借りてきたのか。


「た、頼む……」


「あぁ……これはなかなか痛そうですね」


 若い男は俺の腕をしげしげと見つめる。

 それからおもむろに手を広げ、なにか呪文を唱えた。

 ただれている皮膚が淡く輝く。


「おぉ、助かる……」


 輝きが収まる。

 あれ、治ってない気がする。


「ってか、痛い! さっきより痛い! ぐおおおぉぉぉ!!」


「あ、これ鎮痛薬です。あと、水ね」


 男が錠剤と水筒を取り出したので、受け取って飲み込む。


「の、飲んだぞ! ってか、痛いんだけど! おい、なにこれ!」


「僕の能力は回復速度を劇的に速めるんですけど、それが結構痛いんですよね。鎮痛薬が効けばかなりマシになるので、それまで我慢してください」


「おい、マジかよ! ってか、痛い! さっきの10倍痛い! これならさっきのほうがまだ良かった! うおおおおおおおお!!!」


「お、おいおい、大丈夫か?」


 小林が心配な顔をする。


「だ、大丈夫じゃない! 魔法で一瞬で傷が治るとかそういうんじゃないのか!? い、いてぇ!!」


「そういう能力者もいるにはいるんですが……」


 と、若い男が言う。


「ならなんでそっちをつれてこなかったんだ!」


「そちらは若い女性なので……」


 そりゃ確かに連れてこれない。

 でも、とにかく痛い。


「く、くそー……鎮痛剤、どれくらいで効くんだ!?」


「15分ほどでだんだん効いてくるかと」


「15分!? 長い……長いなぁ……」


 小林がその男に話しかけた。


「女神も来ちゃったし、魔王討伐の助太刀連中も来ちまった。タイミング的に今魔王討伐をやるしかなさそうだ。だけど、桃山は大丈夫か?」


「ええ、痛いですが傷は治っていくので、多少動いて大丈夫でしょう。それに、どうせ死んでも元の世界に帰れますし」


「ま、そりゃそうなんだが……。とにかく、そっちの準備を頼む」


「ええ、日村さんには話をして準備をしましょう。ただ、2時間ぐらいは引っ張ってくださいよ。いきなり押しかけられても困りますから」


「分かった」


 男は足早に魔王城に向かって走り去っていった。

 女神はまだ団体さんとやり合っているので、今のやりとりは聞かれていないだろう。


「ってことだ。桃山、最後の戦いだ」


「うげぇ! 嘘だろう! たしかに鎮痛剤は効いてきてるけど、まだめっちゃ痛いぞ。こんなんで戦えるか!」


「いいよ、俺がやるから」


「お、おい、最後の舞台だろ。せっかくだから俺も活躍したい! って、痛い……」


「仕方ないだろ。ここまで舞台整ってるんだ。これで女神が天界に戻っちゃったら八百長やる意味がなくなるだろ」


「それはそうだけどな……」


 振り返ると、団体様も女神もみなテンションが高い。

 一晩休んでから戦いましょう、なんていう様子ではない。

 というか、まだ日が高いので、とてもそんな雰囲気ではない。


「ってか、今日ハードワーク過ぎ……いててっ」

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