高まるモチベーション
次々と繰り出される日村の俺TUEEE転生者っぽいエピソードの数々。
怒りのボルテージががんがん上がってきた。
「許せん……こんなに許せない気持ちは初めてだ。」
「おお、いいですねぇ。戦いのモチベーションがどんどん上がってますねぇ! これはいい絵が撮れそうだ」
リカルドがニコニコ笑いながら、俺たちのカップに紅茶をつぎ足す。
「ちょっと、先輩方! ただの八百長という話でしょう。そんなに本気にならないでくださいよ!」
日村が後ろにのけぞりながら否定する。
「いや、俺は本気になったね。お前だけは絶対に許さない!」
「あぁ、俺も許さない」
小林も同意する。
「こうなったら、腕の一本か足の一本を切り落として激痛を味わせなければ気が済まん!」
「そんなむちゃくちゃな! 僕に何の恨みがあるんですか!?」
日村が非難の視線を向けてくるが、スルーする。
「ってか、恨みしかないわ! っていうか、ぶっちゃけうらやましい! なぁ、小林!?」
「あぁ、うらやましい……」
小林の声にものすごく実感がこもっている。
「だがな、日村、俺たちはチート要素一切なしだ! 村人Aだ! 俺たちにチート野郎の貴様を傷つけることなど無理だ!」
「ま、まぁ、そうですよね。もし今斬りかかられても、間違いなくノーダメージですし」
日村はそう言うが、態度がおろおろしているので、説得力はまるで無い。
「ということで、日村、お前自身を切り裂くことができる最強武器を用意しろ! それでお前をぎったぎたにしてやる!」
「は? い、いや、待ってください! なんで自分がやられるために最強武器を出さないといけないんですか!」
「そうしないと俺たちの気持ちが収まらないからだ! サンドバックになれ、日村!」
「それが後輩に対する態度ですか!」
「後輩に対する態度じゃない。俺TUEEEしてるいきってる転生者に対する、ノンチートの転生者の態度だ! 謹んで受け入れろや、くそぉ!」
「い、意味分からない! 八百長だから、そんな危ないのなくていいでしょう!」
「いや、駄目だ。普通の武器だとノーダメージなんだろ!? そんなことでは俺たちの気が収まらない。 一度傷がついたら二度と修復できなくて一生その痛みでのたうち回るような武器がいい!」
「ちょ、ちょっと、それは残酷すぎです! も、もっと穏当に行きましょう」
日村が手を下に向けて落ち着けというシグナルを送ってくるが、そんなものは無視する。
「いや、駄目だ! 必ずや、貴様を激痛で苦しみのどん底に突き落とし、その上頭を踏みつけながら勝利宣言してやる!」
「あー、そういうのも絵になりそうでいいですねぇ」
と、リカルドが横から支援してくれる。
「ばっ、馬鹿! リカルドも乗るんじゃない! どっちの味方だ!」
「桃山さんと小林さんの味方ですよ」
「おいっ!」
「というわけだ。最強武器防具を出せ!」
俺と小林とリカルドが三人で日村に迫る。
日村は顔を引きつらせながら後ろに下がる。
「い、命に関わるので、そういう武器はむ、無理です!」
「無理じゃねぇ! お前はチート持ちだろ、そんぐらいなんとかなるはずだ!」
「だから無理です! で、でも、おそらくこの世界の最強といっていい武器は、あることはあります」
「ん……なんだって!? そんな俺TUEEEっぽいものが存在するのか!?」
初めて異世界転生っぽい威勢のいい話が湧いてきた。
思わずテンションが上がる。
「ど、どこにある!?」
「こ、この街の武器屋で売ってます! そ、それなら買えますよ!」
日村が俺たちから距離をとろうと、椅子を少しずつ後ろに下げていく。
「え? 最強武器が店で売ってるの?」
「さ、最後の街ですから、最強武器が売っている方がいいと思って、用意しました」
「いや……この状況で俺がつっこむのもなんだけど、それもどうなんだ……?」
「だ、だって、そういうものを用意しないと、ラスボス戦をちゃんと演出できないでしょう。先輩達めちゃくちゃ弱そうだから……あ、ち、ちが……」
ついに小林が立ち上がって座っている日村に近づく。
「って、おい、小林やめろ! 怒りにまかせて攻撃するな! 自動迎撃スキルとか発動するぞ!」
「そ、そうですよ! 不意を突いて僕を攻撃すると、精神錯乱系の魔法が発動するんです!」
やっぱり自動迎撃スキル持ちだ。
このチート野郎め!
小林は鋭い目をしたまま、日村を見下ろしている。
まさに一触即発だ。
「そうだ。たしかに俺は弱い」
切れるかと思ったが、意外なことに小林の言葉は落ち着いていた。
「す、すいません、口が滑りました……」
「だが、俺はそんなことを怒っているわけじゃない」
「は? な、なんです?」
日村がぽかんとする。
なぁ、小林、この構図怖いんだけど。
まさか、そのまま日村の唇を奪ったりしないだろうな。
「俺たちは弱い……。そんなことは分かっている。だがな、俺が怒ったのはそんなことじゃない。日村、お前は最強武器を武器屋で買えと言ったな?」
「そ、そうです。先輩方以外には売らないようになってるので、大丈夫です」
「問題はそこじゃない」
小林はゆっくりと首を振った。
「”買え”だと? 俺たちがそんな金を持っているとでも? どうせ高いんだろっ!!!」
小林が吠える。
あ、そういえばそうだった。
「そ、そうだ! 買えないぞ! 小林だけじゃない、俺だって金がないんだ!」
「え、えぇ……? 先輩達、まだお金無いんですか……? もうあれから三ヶ月は経って……」
日村が目を丸くする。
「てめぇ、チートなし冒険者の苦労わかってんのか!? 日銭を稼いでも食費や雑費で消えていくんだよ!」
「わ、わかりましたわかりました! お金は差し上げます!」
ということで、俺たちは金を受け取って一度魔王城を出たのだった。
もちろん、日村にさんざん悪口を言っておいた。




