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3ヶ月女断ちの二人 vs 男の娘

「うーん……」


 貧乏揺すりをしながら待っていると、俺たちが入ってきたのとは違う扉が開いた。


「ぬお!?」


 入ってきたのは日村が入ってきた。

 その姿は魔王スタイルではなく、例の男の娘スタイルだ。

 ちなみに、前回は俺たちに会わせて粗末な服を着ていたが、今日はビシッと決まった上等な服を着ている。

 惚れ惚れするような格好良さだ。


 一見したところ、めちゃくちゃ格好いい男装少女。

 男だと言うことは分かっていても、三ヶ月間50才以下の女性を見ることすらなかった日々の後にはあまりに強烈。

 これは、視覚に対する暴力だ。


「桃山先輩、小林先輩、お久しぶりです」


 日村がぺこりと頭を下げる。

 あぁ、なんでそんなにかわいいっていうか完全に女の子の姿をしているんだよ!


「くっ! くおぅっ! し、刺激が……」


 俺は手のひらで顔を覆って、指と指の隙間から日村を見る。

 ちなみに、横の小林はガン見している。


「ど、どうしたんですか!? え、その変な人形は……それにみかん……また呪いが増えてるんですか?」


 日村は小林の様子を見て驚いているようだ。


「あ、あぁ、恥ずかしながらな」


 と、小林がぎこちなく答える。


「お、おい、日村、いい加減にしろ!」


 そんな小林を無視して、俺は日村に吠えた。


「な、なんですか先輩!?」


「なんですかじゃねぇ! 俺たちは50才以下の女に会ってないんだ。というか、ほとんど見てすらいないんだ! その俺たちの前にそんなかわいい姿で出てくるなぁぁぁぁ!! なんだ、その男装美少女にしか見えないぴちっとした服は!? 男だって分かっててもドキドキしちまうだろ! 俺にはそういう趣味はないんだぞちくしょおおおおお!!!」


「え、なら魔王姿に変身しましょうか……?」


「ノ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛オ゛!! そのままだぁ、そのままでいい!」


 日村が「変身」と言いかけたところで、小林がすごい声を出した。


「う、え、そ、そうですか?」


 日村が困った顔で頬をかく。

 しかし、その仕草までもが完全美少女に見える。

 おい、モーションぐらい男にしろや! 動きまで完全に美少女してるじゃねぇかこんちくしょう!

 完全に男装してる美少女しか見えねぇや。


「うぐ、うぐぐぐぐぐぐ……」


 男だと分かっているのに、胸が苦しくなる。


「だ、大丈夫ですか?」


「大丈夫じゃねぇ!」


 しかしもっと大丈夫じゃないのは小林の方だろう。

 小林を見ると、ずっと日村の顔を見つめている。

 いかん、すでにあっちの世界に行ってしまっている。

 戻ってこい、小林!


「ぐああああああ!! そ、そんな場合じゃない、俺までそちらの世界に行ってしまいそうだ! くああぁぁぁぁ! なんだこの吸引力はぁぁぁぁ!!」


「え、なにやってんですか、先輩?」


 日村があきれた顔をする。

 その顔ですらかわいいから、手に負えない。


「ぐ……ぐぐ……まぁ、いろいろきわどいところだが、俺は耐えた。俺はそちらの世界に行かなかった。小林はかなり前から手遅れだから、仕方が無い」


「あ、あぁ……この見た目、そんなにインパクトあるんですね」


 ようやく気がついたらしく、日村が自分の服と俺たちを交互に見た。


「お前、狙ってやってるだろ!」


「い、いやいや、そんなまさか」


 日村が否定するが、非常に怪しい。

 美少女を侍らしてハーレムしてうはうはするだけでは飽き足らず、自ら男の娘になってちやほらされる願望まで満たそうとしているのは明白だ。

 くそっ、チート野郎め。

 それでもかわいく見えるし、話すといい奴だからなおさらたちが悪い。


「え、えーい、とにかく話を始めるぞ! まず、あのシドウキだ! なんであんなくそをよこした! 謝罪と賠償を求める!」


「あぁ、あれですね……シドウキがご迷惑をおかけしたようですいません。移動に特化した転生者だったので、同行者にぴったりだと思ったんですが、まさか先輩方を置いて一人で帰ってくるとは思いませんでした。すいません」


 日村がぴょこりと頭を下げる。

 だからモーションが媚び媚びなんだよ。

 ちくしょおおおおおお


「ぶっちゃけ、シドウキとか二ヶ月も前だから遙か昔の記憶になっているが、あいつとんでもなかったぞ。森の木はなぎ払うし、途中の集落もぶっ飛ばすし、どう考えても悪役だ」


「それも……後で知りました。や、やばいですね、あいつ」


 日村が苦しい笑顔を浮かべる。

 苦笑いでは済まされんぞ、あれは。


「その上、二ヶ月間も俺たちを放って置きやがって! 紫髪のファンキー野郎……ジョコビッチから聞いたけど、なんか野暮用があって俺たちを呼べなかったにしても、それでもなんらかのフォローをしろよ! こっちは本当に心細かったんだぞ!」


「す、すいません。周辺国からちょっかいを出されて、ちょっとごたついてたんです。この世界から居なくなるにしてもきっちり片付けてから居なくなりたいので、先輩方が旅をしている間に片付けてたんです。逆に早く来られて倒されると困っちゃうところでした」


「よし、わかった。それについてはわかった。だけどな、メッセージぐらいよこせよ! ってか、まず第一に金もなかったんだぞ! シドウキのクソが金を持ったまま走り去っちまうから。この二ヶ月間、俺たちがどれだけ苦労したか……なぁ?」


 と、小林に話を振る。


「え? ま、まぁ、そうだな。大変だった。でもあれはシドウキのせいであって日村のせいじゃないだろ。俺は怒ってないぞ」


 あかん。

 日村への対応が甘いな。

 お前、こいつ性別設定上は男やで?

 まぁ、どうみても美少女な見た目だけどさ。


 とりあえず、言いたいことを言ったのでちょっと落ち着いてきた。


「ま、俺たちが言いたいのはこういうことだ。で、どうするよ、今から八百長を始めるか?」


「ちょっと待ってください。天界の人間はどうなりました?」


「天界? いや、あの後全然来てないけど……」


「ええ……」


 日村が困った顔をする。

 だから、困り顔もかわいいから気持ち悪いんだよ。

 やめろって、おい。

 ほら、小林なんか身もだえしてるじゃないか。

 おい、小林。ミカンが落ちるぞ。


「僕の見立てでは、この街に入る前には天界の人間がやってきて先輩達に同行するはずだったんです。この街自体には結界が張られていますし、とくにこの魔王城は更に強力な結界が張られています。天界の人間であっても、直接転移したり天界からのぞき見ることはできません」


「うん、日村、お前本当にチートだな。たしかに天界から手を出せないと大騒ぎになるわけだ……」


「そういうこと言わないでくださいよ。天界の人間が先輩達に同行して戦いの行方を見届けに来ると思ったんです。そこで、契約書で契約をしようと思ったんです」


 日村が虚空から紙を取り出した。

 うーん、チート。

 紙は契約書のようだ。


「この契約書には、僕と先輩達が戦って先輩達が僕に傷一つでもつけたら僕はこの世界から去るという内容になっています」


「でも、天界が約束を守るかどうか分からないってじいさんが言ってたじゃないか」


「その点で悩んでいたのですが、実は悩む必要がありませんでした。僕はファントムブレーカーで世界の理を書き換えできますから、僕の能力を奪えないようにしました」


「え? なにそれ……? つまり……?」


「つまり、戦いに負けた僕は元の世界に戻りますが、能力はそのままです。もし天界が約束を破ったら報復するという脅しが使えます」


「そりゃすげぇ……チート使いの鏡だ。だけど、この前、普通の人間に戻りたいとか言ってなかったか?」


「思ってたんですけど……思ってたんですけどね。この二ヶ月で起こったゴタゴタでも分かったんですが、いきなり僕がこの世界から居なくなって僕もこの世界も転生する前に戻ればいい、というほど簡単じゃないことが分かったんです。僕がこの世界の表舞台から消えても、裏で暗躍しないとこの土地はまた戦火に巻き込まれます。それに、天界の方もやはり信用はおけません。必要な力を手放してしまったら何もできなくなってしまいます。僕はこの能力を使ってこれからも頑張っていくことにしたんです」


 あれ、日村先輩、なんか二ヶ月でめっちゃ成長してません?

 それって普通主人公のやることでは?

 なるほど、日村も転生者だからその物語の中では主人公なのか。

 俺たちは……道化役で決定だな。


「俺のクラスにも異世界転生してハーレム作ってから戻ってきた奴はいるけど、さすがに日村ほどのチートじゃなかったぞ。そんだけの力を持って日本に戻って、まともに日常生活送れるか……?」


「それも試練だと思って受け入れました。がんばります」


 日村、めっちゃかわいい。

 じゃなかった、かっこいい。

 小林なんか、感動に打ち震えてぷるぷる震えてるぞ。


「そんなわけで、僕の方は大丈夫です。後は天界の人間に見守られながら先輩達が僕に傷をつければ計画通りだったのですが、まさか天界の人間が居ないとは」


「もうここまで来たら事後承認でいいんじゃね? 戦いましたー。俺たち勝ちましたー。魔王帰るって言ってますよ。って言えばいいんじゃないか?」


「ま、まぁ、それで通るならそれでもいいんですけど……でもなぁ」


 日村が机の上にある鈴をチーンと叩いた。


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