山麓の村 + 関連本3冊
日が暮れる直前に俺たちは麓の村に入ることができた。
シドウキが山の木を刈りまくったおかげで村を見つけられたと言ってもいい。
もしうっそうとした森のままだったら、おそらく村を見つけられずに夜まで山の中をさまよっていただろう。
「ひぃ……はぁ……つ、ついた……もうこんなのはごめんだぜ」
村に入って手近な切り株に腰を下ろすと、もう一歩も進めなくなった。
小林も無言で地面に腰を下ろす。
「しっかし、あんまり人気がないな」
数十軒ほどの小屋が並ぶ小さな村だが、人影がない。
それでもしばらくそこで休んでいると、すぐ近くの小屋の扉が開いて、小さな男の子が出てきた。
こういうとき、なぜかラノベではだいたいかわいい女の子が出てくるんだけどな。
まぁ、それを言っても仕方がない。
呪われてるし。
「き、切り裂き魔じゃないよね……?」
と男の子がすぐに家には入れるように扉をつかんだまま聞いてきた。
「あ? 切り裂き魔? なにそれ、違うよ。とにかく疲れてるんだ……宿屋と飯屋……」
そこまで言うと、男の子の後ろから父親と思われる男が出てきた。
やはり母親は出てこない。
「なんなんだ、お前ら」
と男が強い語気で言った。
ああ、そうか。
いろいろな人種が入ってくる街じゃないから、よそ者に対して警戒感が強いのかな。
「道に迷っちゃって、なんとかこの村にたどり着いたんですよ。どうか泊まれるところを教えてください」
と言ったのは小林だ。
「なんでそんなところから来たんだ。随分と迷った物だな。街道はあっちだぞ」
と男が村の反対側を指さす。
「あ、あぁ、そうでしたか。とにかく泊まれるところを……」
「しかし、お前達切り裂き魔に巻き込まれなくて良かったな。最近あちこちで村や森が切り裂かれたという噂が流れているようだが、まさか本当だったとはな」
と男がシドウキが通り過ぎていった方向を見る。
って、あいつ切り裂き魔って呼ばれているのか。
たしかにあんなのがあっちこっち走り回れば大惨事になる。
なんか途中で集落一つ吹っ飛ばしてなかったか?
いや、俺は何も見てない。知らない。
「魔王の手先がここまで来ているとは……」
と男がうめく。
おい、普通に魔王の一派だとばれてるやん!
ってか、魔王と関係なくてもあいつどう考えても超迷惑な悪役だよ!
「この村には泊まるところなどないよ。狭いところだが、うちに泊まっていくか?」
「おお、ありがとうございます!」
「ありがと……ヒュッポス! ヒュッポス! イエエエエエアアァァァァァァ!!!」
「な、なんだいきなり!?」
突然の小林の踊りに男がドン引きする。
さて、ここから先、魔王城までの道のりについては紙面の都合上、大幅に省略させていただく。
詳しくは
「この転生系クソラノベにはヒロインが居ません ~ヒョロテ村ともみの木の呪術師~」
「この転生系クソラノベにはヒロインが居ません ~おてんば姫(56)とへっぽこ騎士の珍奏曲~」
「この転生系クソラノベにはヒロインが居ません ~36人のむさい男達と恋するチョコレート~」
の3冊をご参照願いたい。
それぞれ手短に説明すると「~ヒョロテ村ともみの木の呪術師~」は上記で一晩お世話になった村を舞台とした物語である。
俺と小林が一晩滞在した後に村を立とうとすると、村中の女達が苦しんで倒れるという事件が発生し、村長に呼び止められる。
「これは山奥に住むもみの木の呪術師の仕業に違いない。お前達は転生者だというではないか。その力を持って呪術師を倒してくれ」と頼み込まれ、断り切れずに俺たちは呪術師の家まで行くことになる。
しかし、呪術師も47才の女性であったために、俺が行くとすぐにぶっ倒れ、ストーリーが展開しなくなってしまう。
結局、俺は修行と称して村の空き家のなかに引きこもり、小林がストーリーを進めてここに書き切れないほどの紆余曲折があって最後に呪術師が心を改め大団円となる。
もちろんすべての原因は呪術師ではなく俺の呪いなのだが、それは最後まで隠し通すことができた。
ただ、不幸なことに呪いにかかりやすくなっている小林は呪術師の呪いをまともに受け、ムンクの叫びのような人形を38個もぶら下げないと全身がかゆくなる呪いにかかってしまった。
ちなみに、我々の呪いのかかり具合は半端なくて、その呪術師自身もその呪いを解くことはできなかった。
「~おてんば姫(56)とへっぽこ騎士の珍奏曲~」は、その先の街で会った姫様が盗賊にさらわれ、お付きの騎士がそれを助ける物語である。
その姫様は56才ではあるが、嫁いだ先の王様が健在なため「姫」だ。
いかに年齢が高かろうとも姫であることに間違いはない。
実際の所、細かいことに頓着しない陽気なおばちゃんだったが、そのお付きの騎士は20代の若い男で逆に髪型が少しでも崩れていると外に出かけないとか所持している剣に少しでも曇りがあると綺麗にするまで外に出かけないとか服にシミがつくとそのシミが落ちるまで洗い続けてやっぱり外に出かけないとか、とにかく外に出かけない神経質な人だった。
一応姫のためお付きの騎士がいないと出かけられないのだが、毎回その騎士が出かけようとしないためめったに出かけられないらしい。
その姫が魔王の手先(と言い張るただの盗賊)にさらわれ、その騎士が崩れた髪型と白いシャツについたソースのシミに苦しみながらも盗賊のアジトに突っ込んでいき、最終的に姫を救い出す展開である。
俺と小林は「偶然」姫と騎士が街中で喧嘩しているところに出くわし、「偶然」姫がさらわれるところに遭遇し、「偶然」騎士が盗賊に突っ込んでいくところを目撃するが、いずれの場合も俺たちがその騎士に助太刀する理由もなければ力もなく、ただ物事の展開を見ているだけという面白みもクソもない内容となっている。
もちろん、騎士が姫を救った後も特に感動的な展開とかはない。
そういったわけでほぼ俺たちとは無関係に展開した物語だったが、不幸なことに小林が盗賊のアジト手前にあった土地神様の石像を蹴倒してしまって、寝ると誰かが熱いダンスを披露する夢を見てうなされる呪いにかかってしまった。
小林曰く、校長先生の裸踊りの夢が一番つらかったそうだ。
「~36人のむさい男達と恋するチョコレート~」は、仲間集めと小林の片思いに関する物語である。
前作のへっぽこ騎士の計らいにより小国の見習い剣士3名が仲間になったのを皮切りに、次から次へと魔王討伐の協力者が増えていき最終的には36人のおっさんたちが仲間になった。
転生者という噂が広まってしまい、何の能力もないと言っても信じず「転生者だからすごい能力があるはず。一緒について行けば俺も英雄だ」と名誉ほしさに集まってくる者があり、何の能力がないと聞いて「そんな気の毒な。私が助太刀しましょう」と義侠心を発揮して集まってくる者もあった。
どちらにしろ、女っ気の一切ない男ばかりの集団となり、つくづく早く日本に帰りたいと思ったものである。
そんな最中、宿屋で出会った貧乳の少女に小林が一目惚れして、雀の涙ほどの私財を叩いて小林がその少女にお菓子だの小物だのを貢ぎまくることになる。
その必死さは横で見ているだけでいたたまれなくなるほどだった。
最終的には、「笹を背負って変な人形をぶら下げて、時々変な踊りを始める人なんて嫌です。あと私、男ですけど」と貧乳少女改め男の娘にお断りをされた。
小林はつくづく男の娘と縁がある男である。
俺が近づいてもぶっ倒れないので最初から男だと感づいていたが、あまりに小林が必死で言い出せなかったのだ。
今思えば、最初に言っておけばよかったと後悔しきりである。
ちなみに、小林が男の娘に幻の青い花を取りに森の奥に踏み込んでいったところ、またしても石像を倒してしまって柑橘類を身につけていないと呪われる体になってしまった。
とまぁ、これが三冊分の顛末である。




