シドウキの圧倒的な走破力(意訳:エクストリーム迷惑行為)
「邪魔だ邪魔だ邪魔だ!!」
シドウキが街道を歩く人や馬を巧みによけながら、あり得ない速度で爆走している。
俺と小林は馬のような形をしたよく分からない物に乗って、そのシドウキの後を追いかけていた。
その馬は上に乗っている俺たちを激しくシェイクしながらシドウキと同じ速度で走って行く。
「ギエエエエエエェェェェェェェ!!! 死ぬ! 死ぬぅぅぅぅ!!!!」
俺は悲鳴を上げる。
この馬のような物はシドウキがチートなスキルで虚空から取り出した代物だ。
表側は毛があって造形の崩れた馬の頭がついているので遠目には出来損ないの馬だが、乗ってる方としては絶対馬じゃないと断言できる。
毛の下からギアがこすれる音がするし、足が地面に当たるとバネが跳ねるような感覚があるし、これ中身は機械で間違いない。
その機械の馬が出来損ないの馬の頭を左右にぶるんぶるん震わせながら爆走していく姿は、端から見ても相当に怖いだろう。
しかし、乗っている方はさらに怖い。
そして、横にくくりつけている笹もわさわさ揺れ続けている。
「死ぬぅぅ!!! ま、まだか!? まだなんか!?」
「まだだ! おい、遅れるなよ!」
ちなみにシドウキは普通にチートキャラなので、こっちが機械の馬に必死に掴まっているというのに、一人だけ自分の足で爆走している。
どこかの忍者アニメを実写化したらこうなるだろうという、あり得ない速度で動く足であり得ない速度で爆走して、あり得ない距離をジャンプしている。
「酔う……酔った……うえぇぇぇ……」
ちなみに、小林は馬に掴まったまま完全にダウンしていた。
景色も何も見る余裕はない。
「って、おいおい! 目の前、岩! 大岩! ぶつかる!」
街道のど真ん中に落石と思われる岩が積み重なっていた。
「あらよっと!」
シドウキは非現実的な動きで飛び跳ねてそれを超していく。
いや、あんたはいいよ。
問題はこっち……
「う、うげぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!! やっぱりこうかぁぁぁぁ!!」
機械の馬はシドウキの後を追いかけて走っているが、魔法じゃないので岩山を大ジャンプなんて真似ができない。
よって、岩の上の足場を巧みに捉えて走って行くのだが、その振動たるや半端ない。
前後左右に揺すられて、そのたびに吹っ飛ばされそうになる。
この機械の馬、絶対に人を運ぶための物じゃないぞ、絶対に荷物運搬用の機械だ。
「うほぉ!? へがぁ!? げっ! ぐふぉぉ! へあぁ!! おふっ! おふっ! お、終わった!? また!? へがぁ!」
なんとか岩を越えて平らな街道に降りる。
よし、やっとちょっと楽になる!
「お、おい、小林、大丈夫か!? 振り落とされてないか」
「な、なんとか……」
か細い声が聞こえてくる。
ちょっとマジで命の危機を感じるんだけど、いつか振り落とされて死ぬんじゃないか、これ?
「お、おい、シドウキ! ペースを落としてくれ! 落ちて死ぬから! 冗談じゃないぞ!」
「バカ言え! これからが本領よ!」
シドウキの速度がさらに上がる。
比較できる物がないからなんとも言えないが、絶対に時速60kmは軽く超えてる。
人間が出していい速度じゃない。
「待て、おい! やめろ! 冗談じゃない!」
機械の馬も律儀に速度を上げる。
ギアの音がさらに激しくなる。
「おい、止めろ! ついてくな! 俺たちは荷物じゃないぞ! お前の背中には人間が乗ってるんだ! おいぃぃぃぃ!!」
そんな突っ込みを言っても、誰も聞いていない。
「ほれ見ろ! 街だ! よーし、一気に駆け抜けるぞ!」
俺たちのことなんか無視して、シドウキが街道の先に見える街に向かって突っ走っていく。
だが、その街を右に逸れる道があるのがここからでも分かる。
「って、おい! 街を迂回する道があるって! そっち行かなくていいだろ!」
「うるせぇ! こっちが最短だ!」
シドウキは街の入り口でのろのろ歩いている旅人達の頭上を越えてジャンプし、建物の屋根伝いに跳躍を繰り返しながらすごい速度で進んでいく。
「おいふざけんな! こっちはそういうジャンプはできないんだぞ! おい! お、お前も律儀にあんなの追いかけるな! 迂回しろ! 頼むから!」
機械に向かって言っても乗っている人間の意見などなにも聞いていないようで、律儀に街に向かって突っ込んでいく。
やっぱこいつ運搬用だろ!
なんでこんなのに人を乗っけるんだよ!
「お、おいおいおいおいおいおい、冗談じゃない! ぶつかるって!」
街の入り口でたむろしている人たちは建物の上を飛び跳ねるシドウキを指さしたり、突っ込んでいく俺たちの馬を指さして騒いでいる。
そりゃ大騒ぎだろうが、こっちはそれどころじゃない。
-ウウウウウウウウ ホワンホワンホワン♪
馬はパトカーのようなサイレンを鳴らしながら人混みに突っ込んでいく。
おい、なんだよこのサイレンは!
馬に偽装するならもっとちゃんとやれよ!
「ぎゃああああああ!! 轢くぞ! おい、ぶつかる! うほぉ!?」
馬は人にぶつかりそうになりながらも、ぎりぎりすり抜ける。
そして、あっけにとられる門番を無視して、そのまま街の中に突っ込んだ。
シドウキの後を追いかけるのであれば建物の上に跳ぶことになるが、この馬にはそこまでのジャンプ力はない。
よって、街の大通りを爆走するという結果になる。
「うぎゃああああああ!!! バカ! バカ! 大馬鹿! やめろぉぉぉぉ!!!」
大通りの真ん中の「セール!」という看板を踏み倒し、リンゴの山のを飛び越え、小さな屋台を後ろ足でぶち壊し、人を右に左によけながら馬は爆走していく。
人をよけるときにぶつかった樽が民家に突っ込んでいき、いろんな物が壊れる音が聞こえてくる。
「馬鹿野郎ーーーーー!! なんだ、なんだこれは!!」
人々の悲鳴と何かが壊れる音を後にして、馬はどこまでも進んでいく。
「ギャアアアアアアアアアアア!!!」
もはや俺の悲鳴か街の人の悲鳴だかわからない状態で、わずか数分で街を抜ける。
「や、やっと……お、おい、小林生きているか!?」
「お、おぅ……」
か細い声が後ろから聞こえてくる。
また平坦な街道に出たので、これでしばらくは大丈夫だろう。
って、シドウキはその街道を逸れて山の方に突っ込んでいく!?
「お、おい、シドウキ!! どこに行くんだ!?」
「こっちが近道だ!」
もはや目視できないぐらいの足の動きで草むらの中を駆け抜けて、木が生い茂る山の方に突進していく。
「バカバカバカバカ!! 死ぬ! 死ぬって! おい! 後ろ見ろ! 馬に乗ってる俺たちが死ぬ!! 死ぬぅぅぅぅ!!!」
しかし、シドウキは後ろなんて振り向かない。
「邪魔だ邪魔だ邪魔だ! どけどけどけ!!」
シドウキは木が茂った山に突っ込んでいき、刀の一閃する。
すると、シドウキの前の数十本の木が途中で切れて、さらにその斬られた勢いで木があちらこちらに吹っ飛んでいく。
まさに、シドウキの前に道ができるという有様だ。
「はぁ!? 嘘おお!?」
そして、その要領で目の前の数十本・数百本の木を倒しながら、切り株の上を器用に駆け抜けていく。
「し、自然破壊だ! って、おい! おい! とまれこのバカ馬!」
そして馬は律儀にその後を追いかけて、切り株だらけの山に突入する。
「うわっ! 危ない! 危ない! 止まれ! 転ぶ! だから止まれって! おい、おいったらおい!」
ぐわんぐわん揺すられながら山の中に突入すると、進行方向の遙か遠くに毛むくじゃらの一つ目の巨大な獣が見えてきた。
RPGでいうなら中ボスクラスだ。
「この世界にもまともな魔物が居たのか!? ってか、シドウキ、おい、前に何か居る! 居るから! 止まれ! 止まれって!」
「うるせぇ!」
ところがシドウキはそのまま突っ込んでいき、その獣の横をすり抜けて先に進んでいく。
獣はシドウキを見送ってから、その視線をこちらに向けた。
「ええ!? おい、まさか俺たちもあそこに!?」
馬も岩や倒木に足を取られながらも、時速80km位で弾丸のように進んでいき獣の横をすり抜けていく。
獣が前足か後ろ足をこちらに振り下ろした気もするが、幸いそれには当たらずにすんだ。
「だから、止まれって! 頼むから止まれって!」
進行先に小さなテントやファンシーな小屋が寄り集まった集落が見えてくる。
村の民の集落とか、そういう感じだと思われる。
「おい、シドウキ! 道を変えろ! また突っ込む!」
「しゃらくせぇ!」
シドウキが刀を一閃すると、進行方向にある森の木と一緒に集落の小屋やテントも吹っ飛ぶ。
「ぎゃああああああ!! な、何やってんだ! おい!! なにやってんだぁぁぁぁ!!!」
俺たちが乗っている馬も、崩れた小屋やテントの残骸を踏みつけてさらに進んでいく。
「だから、止まれ! 止まれって! うおい!」
馬をどんどん叩いていると、馬が小さなアラーム音を鳴らした。
- ピロピロ♪
そして、馬が徐々に速度を落とす。
「お、お? と、止まった……?」
そのまま速度を徐々に落としていき、ついには倒木の上で足を止めた。
-緊急停止。負荷が過大です。サスペンション異常。バッテリー残量12%。
それだけ言って、うんともすんとも言わなくなった。
「よ、よかった……」
逆にもっと早く壊れてほしかったと思いながら、偽の毛皮から手を離した。
手がかじかんでいてうまく動かない。
なんとか命綱をほどいて、倒木だらけの地面の上に降りた。
後ろを見ると、小林は完全に魂を抜かれた顔をしていた。
「お、落ちなくてよかったな。念のために命綱をつけておいて正解だったな……」
「あ、あぁ……」
小林もふらふらしながら馬を下りた。
ちなみにシドウキは馬が止まったのに気がつかないらしく、そのまま爆走中だ。
遠くから木が倒れる音がずっと聞こえている。
「ど、どこが頼りになるんだよ……とんでもないスピード凶じゃないかよ……い、生きてて良かった」
地面にへたり込むと小林もとなりにへたり込んだ。
「死ぬかと思った……」
と小林が言う。
「俺も思ったよ。今まで一番命の危険を感じたぞ。こんなことなら直接魔王城に転移してもらって、後でごまかした方が良かっただろ。すでに説明に困る距離を移動してるぞ」
「だな。ほんとに、参った……生きてて良かった」
小林が汗を拭う。
ちなみに俺も冷や汗で全身がびしょ濡れだ。
「戻ってきそうもないな……。どこまで行ったんだ、あのシドウキは」
「お、俺は、戻ってきてももうあいつとは行かないぞ」
小林が唇を震わせながら答えた。
「同感だ。じいさんめ、頼りになりそうとか適当なことをいいやがって……」
ということで、俺たちは山を下って日が暮れる前に麓の村にまでたどり着いたのだった。
なんだこれは……?
(推敲するために読み直した作者本人の感想)




