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さっそく異世界

「ぬぁは!?」


 目が覚めると、俺は通りに立っていた。

 周りに見えるのは石造りの建物。

 歩いているのは現代とは異なる服装の人たち。


「お、テンプレ中世ヨーロッパっぽいなぁ……てか、あれ?」


 かなり広い通りなので人がどんどん通り過ぎていくが、全部男ばかりだ。


「いや、ほら、ここ冒険者の街みたいな雰囲気だし、まぁ、仕方ないってやつだよな。うん」


 遠くにちらりと町娘とみられる髪の長い人影が見えた。


「なんだ、いるじゃん! 脅かしやがって! ほら、女の子だってああやってこの世界には居るに決まってるわけで……」


 と思ったら、顔が分かるところまで近づく前に脇にそれて別の通りに入っていってしまった。


「いや……今のは、今のはただの偶然! そうだ、偶然だ! 間違いない!」


 自分の姿を見ると、薄汚れたシャツとズボンを着ている。

 腕や足を動かしてみても、全くもって日本に居たときと同じだ。

 マジで身体能力は一切変化がないようだ。


「いいや、俺はあきらめんぞ! 諦めてたまるか! 異世界転生して、チートなし・魔法なし・レベルアップなし・スキルなし・あらゆるポイントなし・wikipediaなし・奴隷なし・50才以下の女性は接近禁止とか、ありえんだろ! 抜け道はある! 絶対にある!」


 俺は息を吸い込んで、通りを歩く全員に聞こえるほどの大声で叫んだ。


「ステータス!」


 しかし何も起こらない。


「メニュー!」


 しかし何も起こらない。


「コンフィグ! プロパティ! アドミニストレーター!」


 しかし何も起こらない。


「いや、この程度は……この程度は見越していた! 俺をなめるな!」


 頭にWindows10の画面を思い浮かべる。


「コントロールパネル!」


 シーン


「システム! デバイスマネージャー!」


 シーン


「アプリ! 個人用設定! アカウント! 時刻と言語! ゲーム! 簡単操作! 検索! プライバシー! 更新とセキュリティ!」


 シーン


「拡大縮小とレイアウト! ディスプレイの解像度! マルチディスプレイ! Bluetoothとその他のデバイス! プリンターとスキャナー! マウス! タッチパッド! 自動再生! USB! ネットワークとインターネット! Wi-Fi! イーサネット! アダプターのオプションを変更する! ネットワークと共有センター! Windowsファイアウォール! ええい、これでもだめか!? アプリと機能! ユーザの情報! メールとアカウント! サインインオプション! 家族とその他のユーザー! そうだ、ヘルプを表示! ヘルプもダメなんかよ!? カーソルとポインター! 拡大鏡! カラーフィルター! ハイコントラスト! ナレーター! 字幕! 音声認識! 更新プログラムのチェック! Windows Update! Windowsセキュリティ! バックアップ! トラブルシューティング! 回復! ライセンス認証! わかった、これだな!? ユーザの切り替え! あれ? サインアウト! 無反応? スリープ! 再起動! シャットダウン! マルチタスク! 電源とスリープ! 電源プランの選択またはカスタマイズ! プラン設定の変更! 電源プランの作成! 背景! ロック画面! テーマ! フォント! スタート! タスクバー! 日本語入力!」


 ぜえぜえ言いながら息を整えるが、まだ何も起こらない。


「あきらめん! おれはまだあきらめんぞ! あきらめてたまるか、夢の異世界転生! 俺はあがく! あがいてあがいてあがいてやる!! ええい、こうなったら……」


 スマホの設定画面を思い出す。


「無線とネットワーク! モバイルネットワーク! テザリングとポータブルアクセス! デュアルSIM設定! データ通信量! Bluetooth! NFC! 印刷! ホーム画面設定! 画面の明るさ! 色温度! スリープ! テキストサイズと表示サイズ! 画面の解像度! ブルーライトカットモード! 青空がまぶしいぞ、こらぁ! サウンド! メディア! 着信音! アラーム! 通話! うおおおおおおおおおお!!!! マナーモード! マナーモード時のバイブ! SIM1の着信音! SIM2の着信音! 省電力モード! ストレージ! クリーンアップ! セキュリティとプライバシー! 指紋ID! 顔認証! 画面ロックとパスワード! 位置情報サービス! ユーザーとアカウント! 端末情報! ソフトウェア更新! システムナビゲーション! 言語と文字入力! 日付と時刻! ええい、Androidバージョン!!」


 肩で息をしながら辺りを見回したが、画面のような物はどこにもでていない。


「くっそおおおおおおおお!!!!」


 すると、向こうから鉄板を折り曲げただけのような粗末な鎧を着込んだ男が重厚感ある動きで走ってくる。

 え、やばい、衛兵とかですか。

 怪しすぎた!?


「あ、ああああ、すいません! 今のはただの私の世界に古くから伝わる祈りの言葉です! 私は怪しくありません! ただのアンチリンゴ教の信徒です!」


 すると、走ってきた男は息を切らしながら持っていた荷物を地面に放り出した。


「はぁ……はぁ……い、今の言葉、も、もう一度聞かせろ。Androidと言ったな!? あぁ、くそ、こんなものを持って走るんじゃなかった」


 みると、その顔立ちは日本人だった。


「あ、あれ? もしかして日本人!?」


「そ、そうだ。ようやく……ようやく俺以外の日本人に出くわした」


 男はそのまま地面にへたり込んだ。

 見たところ、俺と同じくらいの年齢でそこそこ精悍な顔をしている。

 息を整えるのを待って話しかけた。


「異世界転生って一つの世界に一人とかじゃないのか……」


「違うらしいぜ。というか、担当者によって方針がバラバラらしい。しかし、よかった、ようやく会えた。これで多少今後楽になるかもしれん……」


「ん? どういうこと?」


「わけのわからない世界で一人で旅するなんてきついことこの上ないんだよ。ったく、つらかったぜ」


「まぁ、そりゃそうだろうな……」


「ま、いい。とにかくここじゃ話もしにくいし、ついてきてくれ」


 男は立ち上がって荷物をつかんで歩き出した。

 俺も一緒に歩いて行く。


「よし、ちょっと距離があるがとりあえずヤドヤド亭に行こう。あそこなら落ち着いて話が出来る」


「ヤドヤド亭……まぁ、名前はどうでもいいか。で、あんたは?」


「俺? 俺か? 俺も日本人で異世界転生でこの世界に飛ばされたクチだ。名前は小林結城」


「あ、俺も同じ。桃山直樹」


「で、直樹の転生担当者は誰だ。あの腐った女神か?」


 小林と名乗る男が顔をしかめた。


「いや、銀髪の片眼鏡の男だ」


「よかった……よかったな、お前」


 小林は目を細めて空を見た。


「なんでだよ。俺はどうせなら女神の方がよかったよ。どうせチョロくていろいろおまけしてくれたりするんだろ?」


 すると小林は首を振った。


「いや、鬼畜だった。お前、あの担当じゃなくて良かったな……。あの女神、腐ってやがった……」


「なんだそれ?」


「腐女子だった」


「は?」


「なんでもへたれ男がいいらしくて、いきっている男はだめだってんで、一切の転生特典なし。その上、目的達成がBL展開だとさ」


「はぁ!?」


「BL展開でその女神が満足したら目的達成だと」


「お前……それ……」


 かわいそうな物を見る目で小林の顔を見ると、小林はがっくりと肩を落とした。


「ああ、ふざけんなってやつだ。俺はノンケなんだ……」


「それはひどいな……」


 俺より気の毒かもしれない。


「まぁ、いうても、俺も大分酷いんだが」


「なんだ? あの腐った女神より酷いやつがいるとも思えないが」


「いや、それが……ずいぶんと堅い奴で、銀髪片眼鏡のクソ野郎なんだ。まず、チートなし」


「それは俺も同じな」


「魔法なし」


「俺も同じ。ってか、この世界に魔法ないぞ」


「えぇ!? なにそういう世界設定なのか!? 異世界転生した醍醐味がなさすぎだろ!?」


「あぁ。ひどいもんだ。それで?」


「レベルアップなし・スキルなし・あらゆるポイントなし」


「それもこの世界設定だ。俺も同じ」


「Wikipediaなし」


「それも同じだよ」


「奴隷なし」


「なんだそりゃ?」


「奴隷を買ったり出来ないらしい」


「あぁ、なるほどね。俺の方はとくにその制限はないな」


「ちくしょう! ってことは、お前はカワイイ女奴隷を買ってやりたい放題ってことだな!?」


「その金があればな。それにあの女神がそんなことをやって許してもらえるとも思えないけどな」


「それから、これが問題なんだが……50才以下の女性は接近禁止だそうだ」


 すると小林は目をぱちくりさせた。


「な、なんじゃそりゃ? そんなの聞いたことないぞ」


「そりゃそうだ。なんでも、俺の担当者はチーレムがなによりも嫌いらしい。ハーレム封印のためにそんな無茶をしやがった。むちゃくちゃすぎるだろ!?」


「そりゃひどいな……。他に制限は?」


「いや、それだけだ。ってか、50才以下禁止が酷すぎてそれ以上に何もないだろ!?」


「まぁ、うん、そうだな。それでお前の目的は?」


「魔王討伐だってさ。ふざけんなっての。チートなしでどうやって倒せと」


 すると小林はうわっという顔をした。


「気の毒だな……」


「まぁ……。でもまさかBL展開を強要されている仲間がいるとは思わなかったよ。きっついけど、そういうきつさじゃないだけまし……」


 ん?


「ちょっとまて、お前、BL展開を展開させるために俺に近づいたのか!?」


 慌てて距離を取る。


「馬鹿野郎! 違う! そうじゃない、お前も日本人ならいろいろと相談できると思っただけだ! お、おい、まじで違うから、そういう反応止めろ! 俺はノンケなんだぞ!」


 小林がおもしろいほど慌てる。


「いやいや、本当か……?」


「当たり前だろ! っていうか、あからさまに距離を取るのを止めろ! 傷つくだろ! いいか、この際だからはっきり言ってやる。俺が求めているのは『男の娘』だ」


「え、男の子? ショタ好き?」


「やめろ! とにかく、多少でもダメージを少なくするために外見がどうみても美少女な男を捜しているんだ」


「ああ、男の娘な。それは文字で書かれないと判別つかないわ。ってか、そんなお前非現実的な……」


 歩きながら周りを見回すと、誰も俺たちの会話など気にせずにすれ違っていく。

 アジア人の顔立ちは少なく、どちらかというと白人が多く、いろんな民族が混じっているようだが、とにかく至って普通の容姿だ。

 美女や美青年ばかりが歩いているわけではない。

 というか、女が一切見当たらないんだがどうなってるんだ、この通りは。


「なぁ、まず美少女がいるのか、この世界」


「そりゃいるさ。何を隠そうこれからいくヤドヤド亭の給仕の子がめっちゃかわいいんだよ」


「え、まじ!?」


「まじまじ。結構仲がいいんだ。その子にも事情を説明して協力してもらおうぜ」


「お、おう!」


 ふふふ、あの銀髪野郎、うっかりしてやがったな。

 向こうから接近してくるのは防げるのかもしれないが、こっちから行けばどうすることも出来まい。

 どんな子なのか楽しみにしながら、ヤドヤド亭へ急ぐのだった。



書けてる分は気の向いたときに適当に投稿してきます。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 絶対にチーレムを阻止するという強い意志を感じる。 [気になる点] 下手すると伝染病でしにそう。 [一言] 2【さっそく異世界】までの感想。  なんでしょう、結局転生させるようなやつなんで…
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