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また旅立ち

 じいさんは昔話を言い終えて、満足げな表情を浮かべていた。

 だけど、一言言いたい。


「じいさん……全然参考にならなかった」


「なんだとっ! どうせお前達談合しているのだから、そっちの魔王が力の源っぽいものを持っていてそれを奪い取ればいいだろうが!」


 じいさんが怒るけど、そんなうまく行く気がしない。

 チート持ち相手から大事なアイテムを奪うという行為を、説得力を持って演技するとかめちゃくちゃハードルが高い。

 近づいた瞬間に自動迎撃とかで焼かれる気がする。


「うーん……」


 と、うなっていると、突然日村がビクッと体を震わせた。


「き、来ます!!」


 え、お通じが?


 と、突っ込む間もなく、突然腐れ女神が現れた。

 特にエフェクトなどはなかった。

 とにかく突然現れた。


「えーなになにこの子めっちゃかわいい!! もらっていっていい!?」


 そして、全員があっけにとられる中、日村に近づいた。


「あーもーなになに、なんで男なのにこんなにかわいいの!? ちょっと嫉妬しちゃう! ほら、そこの小林! なにやってんのよ、唇を奪いなさいよ!」


「うえ!? え!? ええ!?」


 小林が驚くが、すぐに真剣な顔になって、


「よし、仕方ない……」


 と、日村に顔を近づける。

 お前、やっぱり……


 日村は驚いて立ち上がると、例の角が生えた魔王姿に変身する。

 ゲルトじいさんが、また悲鳴を上げる。


「え……こ、これは一体……」


 と、女神もうろたえる。

 どうやら、これまでの経緯は見ていなかったようだな。


「ほほう、いいところに天界の者がやってきたものだな。姿を隠して街に来てみたら、なんと何の能力もない転生者が我を倒すと息巻いているとはな」


 とっさに日村が演技をする。

 そのふてぶてしさといい、その迫力といいとても演技には見えない。

 さすが場数を踏んでいる日村先輩!

 素敵! 抱いて!


「あ、あ、あんたは魔王!? 二人とも騙されてるわよ! こ、こいつはあんた達の仲間じゃないわよ!」


 女神が後ろに下がろうとして壁にぶつかる。

 この部屋、普通に狭いからなぁ。


 って、落ち着いてちゃいけないんだった!!


「な、なんだってーー!? くそ、俺たちを騙していたのか!?」


 立ち上がって、魔王を指さす。

 狭い空間なので、その指が魔王に当たりそうでちょっと怖い。

 この魔王、触ったら普通にこっちにダメージが入りそうだ。


「くっ、魔王め!! 姿を変えて近づくとは卑怯な!」


 と、小林もうろたえるふりをする。


「ふん! こんなやつらにこの我が倒せるものか。だが面白い。あり得ないことだが、万が一この我に傷一つでも負わせることができたら、この世界から手を引いてやろう」


「な、な、な、何ですって!? 二人とも今すぐ受けなさい! こんなチャンス二度とないかもしれないんだからね!」


 女神が俺と小林をみる。


「う……だけど俺たちにそんなことができるだろうか……」


 と、演技で少し弱音を吐くと、女神が視線を外した。


「そ、そうよね……」


 いや、腐れ女神は考え直すな!

 叱咤激励して戦いへの流れを作ってくれ!

 やばい、小林なんとかしてくれ!


 小林に視線を向けると意図を理解したらしく、小林は小さく頷いた。


「いや、これが最大のチャンスだ! 魔王、その誘いにのってやる! 後で後悔するなよ!」


 するとそれを聞いた魔王は


「ふははは! 面白い! 魔王城で待っているぞ! さらばだ!」


 というなり、光とともに消えてしまった。


 って、ええええ!?


 おい、まだ打ち合わせの途中じゃなかったか!?


「二人とも大丈夫!? 私が来ていなかったらどうなっていたことか……」


 いや、大事な打ち合わせをしていただけなのですが。


「も、もうわしはしらん! 勝手にやっててくれ!」


 さっきから悲鳴ばかり上げているゲルトじいさんは立ち上がって、どこか別の部屋に避難してしまった。

 部屋に残ったのは、俺と小林と茶屋のじいさんと女神の4人だ。


「ほーお、こうなったか。ひっひっひっ、なんともなぁ」


 と、じいさんが笑う。


「しっかし、来たのはあんただけか。あの、いけ好かない男はどうしたんだ?」


 じいさんの問いに、女神は椅子に座ってから答えた。


「っ! 何この椅子、ささくれ立っているじゃない。あの男? 第45部隊は今それどころじゃないのよ。なんだかしらないけど別件でごたごたしてるらしくて、引き継ぎらしい引き継ぎもないまま全部仕事がこっちの第87部隊に押しつけられゃったのよ! この不満、どこにぶつければいいのかしら!?」


「へへっ、もめてんだなぁ」


「ほんとよ! 冗談じゃないんだけど」


 女神がぷりぶり怒りつつ、俺と小林の顔を見る。


「ということで、二人とも私が担当になったから」


「ええっ!? マジで!?」


 あの融通が利かない銀髪野郎も困ったが、BL展開を押しつけてくるような腐れ女神もほんと勘弁してもらいたい。


「ちょっと何その顔?」


「だって……」


 俺はじいさんと小林の顔を見た。


「へへっ、なんとも忙しねぇな」


 と、じいさんが面白そうに言う。

 おいおい、人ごとみたいに!

 実際じいさんにとっては人ごとだろうけど。


「い、言っておくが、俺はBL展開とか絶対ごめんだからな! 俺とこいつをとっつけようとかするなよ!」


「私、そういう組み合わせは好みじゃないの。美しくない」


 と、腐れ女神がきっぱりと言った。


 いま、なにげに最大限の罵倒をされているんじゃないか?

 ま、まぁ、とりあえずそういう展開にならないのであれば、ひとまず安心だ。


「で、あんたは俺たちになんかチートとかくれるのか!? たしかあんたはあの銀髪と違って緩かったよな!?」


「そうしてあげたいところだけどね。うちの部も転生特典については厳しくすることになったから無理なのよね」


「はぁ!? この前、小林の目的をBL展開とか好き勝手やってたじゃないか!?」


「目的設定については割とうるさくないんだけれども、特典については厳しくなってるのよ」


「なんじゃそりゃ! それでどうやって魔王を倒せって言うんだよ。じゃあ、目的を変えてくれよ! もっと簡単なのにしてくれよ! タートルを100匹狩ったらおしまいとか!」


 すると腐れ女神はため息をはいた。


「あのねー、そう簡単にはいかないの。元の担当者じゃないと目的は変更できないの。あ、そっちの小林だけなら変えられるわよ。小林くん、目的をBLに戻してそこらへんで適当な相手といちゃついて、さっさと元の世界に帰るかね?」


「いえ、BLはいやです。それなら魔王に挑んで負けて帰る方がましです。それに、桃山を残していくのも気の毒ですし」


 小林がなかなか泣かせることを言う。

 しかし、BLを嫌といっていることには全然説得力がないぞ。


「なら、やっぱり二人そろって魔王退治をするしかないわね。どうするかなぁ……」


 と、女神が肩肘をついて考え込む。

 相変わらずデブっていて全然様になっていない女神だが、なんかこの前よりもやる気がありそうだ。

 この前の小林のお願いしますが効いたのか?


「とにかく魔王城の前まで俺たちを運んでくれよ。魔王城に行かなけりゃ話が始まらない」


 俺がそういうと、女神は顔をしかめた。


「あのね。そういうこともできないから。今回ここに来たのも担当が私に変わったことを伝えに来ただけだったんだから」


「ええ!? 様子をみてこっちに来たんじゃないのか!?」


「あのね~。たしかに機材でこっちの様子を見れないことはないけど、忙しいって言ってんでしょ。なんで私が14人も担当しないといけないのよ」


「え、14人!? そんなにやってんの!?」


「そうよ。だからさっさと魔王を倒してさっさと元の世界に帰ってよ。14人なんて、書類一式そろえるだけで大仕事なんだけど。はやく休暇が取りたいなぁ……」


 完全に役所だなぁ、おい。

 ってか、これじゃサポートも絶望的だな。

 俺たち、一体どうなるんだ!?


「ってあー、今すぐに総務に行かないといけなかったんだ! こんなところでまったりしてる場合じゃなーい!! とにかく、担当が変わったことは伝えたからね。とにかく、魔王城まで行きなさいよ! また時間ができたら、上司に見られないタイミングで顔をだすから! じゃ!」


 と、突然女神は立ち上がると、光も何もなくノーエフェクトで姿を消した。


 しばらくの間、その場は沈黙に包まれた。


「なんか、言いたいことだけ言って行っちまったな」


 と、小林がぽつりとつぶやいた。


「そ、そうだよ! な、なんなんだあいつ! 魔王城に行けって言われてもどれだけ距離があると思っているんだ!」


 俺もそうやって怒ると、


「ひ、ひえああああああああああああ!! な、な、な、なんじゃ!! なんなんじゃ!! い、いい加減にしろ!!」


 と、隣の部屋からゲルトじいさんの悲鳴が聞こえてきた。

 やや間があって、扉が開いて魔王が顔を出した。

 そりゃこの顔がいきなり目の前に現れたらゲルトじいさんでなくても驚くわ。


「どうも、おじいさんを驚かせてしまったようです。この部屋が狭いからわざわざ隣の部屋に転移したのですが」


 魔王が申し訳なさそうな顔で部屋に入ってくる。

 その姿でそういう顔をされると、それだけで大分シュールだ。


「おお、いいところに来た! なんか女神はいきなり帰ったところだ」


「ええ。居なくなったのを察知したから戻ってきたんですよ」


 そんなことまで分かるのか。

 やっばりどこまで行ってもチートキャラだ。


「話も遠隔で全部聞いていましたよ」


 えげつないチートだ。


「な、なんつー野郎だ……。でもそれなら話が早い。早速俺たちを魔王城まで運んでくれ!」


「いや、それは止めた方がいいです。俺が協力してるのがバレバレじゃないですか」


「あ、そっか」


「同行者をつけますから、その者と一緒に魔王城まで来てください。俺でなければ天界の人間にも怪しまれないと思います」


「ってことは、歩きとか馬車か……。気が重くなるな……」


 一体何日かかることやら。

 小林も渋い顔をしている。

 なお、じいさんは完全に他人事で気楽な顔をしている。


「なんだよじいさん。この前は俺たちのことをかばってくれたのに、今回はなんもなしかよ」


「へん。なんだか知らねぇが、なんとかなりそうだと思ってよ。いいじゃねぇか、魔王が後ろについてる旅なんてなかなか快適そうじゃねえか。俺があと20若かったら俺が行きたかったくらいだぜ」


「おいおい、他人事だと思って……」


 しかし、言われてみればその通りだ。

 魔王の仲間が同行するとなれば、こんなに頼りになる物はない。


「それから、これから俺が顔を出してあの女神と鉢合わせになるとやっかいです。これ以降は極力俺はこっちに来ないようにします。なにかある場合は同行者にお願いします」


「たしかにな。鉢合わせて出来レースってのがばれたら全部ぶち壊しだもんな。でも、俺たちはどうやってお前を倒せばいい? それに、契約書を結ぶという話はどうなった?」


「それはもちろんそうなのですが……先輩方が旅して魔王城に来ると言うことであれば一月や二月はかかると思うので、その間にこちらで策を練ります。とにかく魔王城まで来てください」


 魔王の姿で言うとものすごく説得力がある。

 まかせた、日村先輩。


「ということだな。小林はなにかあるか?」


「いや、俺の方は特にない。ただ、旅をするにも先立つものがな……」


「あ、十分な金を同行者に持たせますから、先輩方はお金についての心配はしなくて結構です」


「な、なんだって!?」


 小林が過去最高に驚いた顔をした。

 いっつも金が金が、って嘆いてたもんな……


「その同行者も転生者ですので、転生者と気があって魔王城を目指すことになったということにすれば、天界の人間も怪しまないでしょう」


「なるほどな。それはいいな」


「ということで、俺はさっさと消えます。万が一天界に見られるとやっかいですので」


「あぁ、わかった」


「魔王城で待ってます」


 魔王は親しげに俺と小林に手を振って、そして光とともに消えていった。

 その光を名残惜しそうに見送る。


 あー、あいつと次会うのはいつになるのだろうか。


「なんだかおもしれーな、お前らは。そんで、同行者ってのはいつくるんかね? 俺もそいつの顔ぐらいおがみたいもんだが」


 と、じいさんが言うと、またしても隣の部屋でゲルトじいさんの悲鳴が上がった。

 また、そっちに現れたらしい。


「ゲルトじいさんも気の毒だな……」


「いい年して、いちいち騒ぎすぎなんだ。ったく、もっと堂々としてみろってんだ」


 と茶屋のじいさんが一刀両断する。

 あんたが図太いだけだと思うけどなぁ。


 扉が開いて、また一人の男がやってきた。


「おお、あんたらが魔王に戦い挑むやつらか? 俺はシドウキ。ま、ハンドル名だけれどもね」


 その男は40前後のアジア人だった。

 何人かどうかは顔だけでは判別できない。


「お、もしかしてお前達もうちの魔王と同じ日本人か? めずらしいな」


 外国人がなまりも何もないものすごく綺麗な日本語をはなす不思議な違和感。

 いや、それを言ったら、この世界の住人全員が外国人の顔をして完璧な日本語を話しているんだけどね。

 ほんとは俺たちは何語を話しているのだろう。


「ほお、よかったじゃねぇか。その年ならそこそこ頼りになりそうじゃねえか」


 と、じいさんが言う。

 まぁたしかに俺たちと同じ年齢の人間よりは、年上の方が安心だ。


「あ、俺桃山です」

「小林です」


 簡単に挨拶をして、自己紹介を手早く済ませる。


「おい、いくぞ! ったく、農耕民族はのんびりしてていけねぇ」


 シドウキは気が短いらしく、さっさと出かける気になっている。

 あんたどこの国か知らないが、アジアなんてだいたいどこでも農耕してると思うけど。


「いやちょっと待てよ! それなりの準備ってものがあるだろう! 俺だって小林だって、全然出かける準備とかしてないんだからよ」


「へっ! そんなもの知ったことか! 魔王城は遠いんだぜ。さっさと行く行く!」


 シドウキが扉を半分開けてすでに旅立とうとしている。

 なんちゅー気の短さ。


「な、なんか出かけないといけないらしいな。たぶんこの街には戻ってくることはないと思うから、じいさん元気でな」


 俺が挨拶をすると、小林も


「俺からもお礼を言います。いろいろとありがとうございました」


 と礼を言う。


「へっ、俺は別に対したことはしてねぇよ。ま、達者で行ってこいや」


 とじいさんは特に感慨深さとか一切なく、気楽に手を振る。


「じゃ、これで!」


 俺と小林はシドウキにせかされて、ゲルト家を飛び出した。

 あ、そういえば、家の持ち主であるゲルトじいさんには挨拶をし忘れた。

 ま、いいか。




ぬわぁ、すでにここまでで10万文字を超えた!

クソラノベくん、ちゃんと妥当な文字数で終わってくれよ!

作者は20万文字とか書く気は全然ないからねっっ!

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― 新着の感想 ―
[一言] これはモンゴル人……!
[一言] めちゃくちゃ面白いです!テンプレ潰していくスタイル素敵です!こういう作品を心の底から求めていました!本当にありがとうございます! ここまで縛りプレイをしていたらめちゃくちゃシリアスになりそ…
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