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ミオールの街

 3日後俺たちはミオールの街に向かって出発した。

 祭りの一週間前には着くはずだったのに、到着したのは祭りの直前だった。

 なぜ一週間も旅路で時間をロスしたのかについては、紙面の都合上省略させていただく。


 詳しくは『この転生系クソラノベにはヒロインがいません~女詐欺師 vs 十字架と笹を背負う少年達~(民明書房刊)』を参照願いたい。


 簡単に説明すると、馬車の中であった女詐欺師に財布を取られた俺たちは女詐欺師を追って山の中に分け入り、土地神様をまつっている石を蹴倒して呪われたあげくに通りすがりの狐に妖術をかけられて、神聖なる笹と地元特産のブランド木材で作ったありがたい十字架を背負わないと動けなくなる呪いにかかり、高さ2.5mはある笹を背負って女詐欺師を追いかけて二つの村と山の中を行ったり来たりする物語である。

 最終的には味方になった狐と一緒に女詐欺師を追い詰めて、財布を取り返す。

 ちなみに、狐とは和解したので十字架は投げ捨ててきたが、土地神様は怒ったままなので高さ2.5mの笹を背負わないとまともに行動できない状態で話が終わった。


 よって、俺たちはミオールの街に入ったときには、荷物にくくりつけたものすごく目立つ笹をわさわさ揺らしていたわけで、当然ながら衆目から注目を受けたのであった。


「うわ。きっつ! 人が多いとなおさらきっつ! おい、やっぱり笹を短く切ろうぜ。もう少し短ければ目立たないだろう」


「よせ。この前それをやって動けなくなって、また新しい笹を探す羽目になっただろう。葉っぱを落とすのもだめだ。このまま我慢するしかない」


「くそ! 目立つ! 目立つ! 目立ちたくない! くそーーー!!」


 笹をわさわさ揺らしながら祭りで賑わう街中を抜けていく。

 もちろん、観光客も街の人も「なんだあれは」的な目で俺たちを見る。


「畜生。呪いを受けやすくなっていたのがこんな結果になるとは……。こんなに恥ずかしいなら、幻術をおとなしく受けて魔王に洗脳されてた方がましだったぜ」


「うるせぇ。お前の方がまだましだろ。俺なんか一日に五度あの踊りをしないといけないんだぞ」


 上で書き忘れていたが、小林は神聖な地で用を足してしまって別の土地神様にも呪いを受けてしまっている。

 そのため、『ヒュッポス! ヒュッポス!』と大きな声でかけ声を言いながら、腕や首を回しながらその場を旋回するという奇行を1日に5度もやらないといけない。

 そのタイミングは小林本人には直感的に分かるらしく、馬車の中でヒュッポスヒュッポスいい始めるし、女詐欺師を追い詰めるときにもヒュッポスヒュッポスいっていてうるさかった。

 あ、もちろん、上記の女詐欺師は51才以上であり、気のよさそうなおばちゃんにだまされた俺たちは人間不信になりそうになった。


 まぁ、そんなことは置いておいて、とにかく祭りだ祭りだ。

 荷物置きたいけど、この分だと宿屋は一杯だろう。

 いずれにしろいつでも笹を背負っていないと行けないので、荷物を置いて笹だけ持ってるとさらに変な人に見えてしまう。

 このまま荷物を持ったまま祭りに突っ込んでいくしかない。


「おい、なんかもう始まって居るみたいだぞ」


 と小林が人混みの向こうを指さす。


「ええい、ちくしょう! ギリギリ間に合ったんだ、ここで見逃すわけにはいかねぇ!」


 人が押し合いへし合いしている中へ笹を揺らしながら突っ込んでいく。


「おい、押すな押すな! そんなでかい荷物を持ってくるんじゃねぇ!」

「うわっぷ! 葉っぱが口に入ったぞ」


 そんな罵声を浴びながら闇雲に進んでいく。

 大分進むと人混みも抜けて、会場が見えるようになった来た。

 街の広場にかさ上げしたステージをつくって、その周りに簡易の木の柵で客がステージに登れないようになっている。

 木の柵につかまりながら周りを見回す。


 ステージの上には男装コンテストと思われる女性達が上がっている。

 ということはもちろんない。

 俺がやってくると言うことは女がいないわけで、客も男ばかりだし、ステージの上はちょうど準備中のようで係員たちが台や看板のようなものをもって右往左往しているだけだった。

 これだけの祭りだから女がいないわけがないので、おそらく自分から遠くに居るかどこかの建物の2階から見ているのだろう。


「おい、あれ、あやしくないか?」


 小林がステージを挟んだ反対側を指さした。


「ん? いや、見えないな」


「いくぞ!」


 小林が先に立って進んでいく。

 半信半疑ながらもそれについて歩いて行く。

 最前列に居る客達は嫌な顔をするものの、今はただの準備中なのでわりと素直に通してくれるようだ。

 ある程度歩くと、先ほど小林が指さした場所が見えてきた。


 む、たしかにあれはあやしい。


 周りの街の人の服装とはかけ離れた紺色のパリッとしたスーツのような服を着た長身の男が立っている。

 どうみてもただの布じゃないぞ、絶対合成繊維とかを使っていそうな服だ。

 顔はかなりのイケメンで23~5くらいではないだろうか。


「う……あれはたしかに例のチートやろうな気配が……んん!?」


 その男の存在感が大きくてうっかりしていたが、その男の周りには5人の女が居た。

 男と違ってこの世界にありそうな服装だが、巨乳金髪美女に貧乳ロリに勝ち気そうな赤髪の女など見事にバリエーションがそろっている。


「わかりやすいハーレムだな。取り巻きを連れて出歩くなんて本当にテンプレートチート野郎だな。まったくうらやましい」


 と言ったのは小林だ。

 最近分かってきたのだが、真面目なふりして小林は結構下心満載である。

 うっかり本音が出てるぞ。


「たしかになぁ、まさか本当に出くわすとは……じいさんに感謝だな。しっかし、決め手がないぞ。ただの女好きの貴族の可能性があるな。ま、あの衣装はかなり不自然だけど」


「そうだな、おいお前突撃して来いよ」


「はぁ!?」


「お前が近づけばあの取り巻きの女達はこの場に居られなくなるんだから、ぶつかったふりをして接触してみりゃいい」


「うーん、気が進まないけどなぁ……ま、そうだな。一か八か」


 その男まではまだ結構距離があるので、俺の呪いもそこまで強く作用していない。

 おそらく、わずかに違和感を感じる程度だろう。

 木の柵にそってそろそろと近づいていくと、まずロリが頭を抑えて男に何かを言っている。

 さらに近づいていくと、男が辺りを見回して手をロリの頭に乗せるとロリは突然消えた。


「おい、消えたぞ!?」


「あぁ! でも周りの人間は何も気づいてないぞ。俺たちの幻惑耐性が効いてるんじゃないか?」


「なるほど! 銀髪、ありがとう! 初めてお前が役に立ったぞ!」


 さらに近づいていくと他の女も男に何かを言い、男は次々と女に触って女が消えていく。

 あれは転移系の魔法で、幻惑で他人に魔法を使っている場面を認識させないようにしているんだろう。

 転移とかまじチート! 俺たちは人のよさそうなばばあに財布を盗まれながらも馬車に揺られてやっとこさここに着いたのに!


 男はついには一人になり、注意深く周りを見回している。


「おい、警戒し始めたぞ、やばいんじゃないか?」


「そうは言ってもこの機会を逃したら次はないだろ。早く、早くしろ! もうこれ以上時間がない!」


 いつも慎重な小林がせかす。

 それもそうだ。とにかくぶつかってみよう。

 まさか偶然ぶつかっただけで殺されたりはしないだろうし、もしそうなったらあの銀髪が助けに来てくれるはずだ。


「うーん、怖いなぁ……怖いなぁ……」


 ブツブツつぶやきながら男まで数メートルまで迫ったところで、後ろから小林に押された。


「ぬお!?」


 男に向かってつんのめっていき、最後に踏ん張りきれずに倒れ込む。

 が、俺はそのまま地面に倒れ込まずに45度の角度で踏みとどまった。

 顔を上げると、その男が片手で俺の荷物から突き出ている笹をつかんでいた。

 俺の頭の上に突き出ている2.5mの笹がちょうど男の脳天に振り下ろされる位置だったらしい。


「ぬ、ぬあぁ!? す、すいません! 決して悪気はなかったんです!」


「分かった。いいからさっさと行け」


 男は冷静に言った。

 声も低いながらも色気があり、声優が美青年を演じているような声だ。

 こいつ、まじでチートだな!?


「い、いや、その……おみそれ致しやした」


 思わずそう言ってしまったが、なんだよおみそれって!?

 俺普段そんな言葉つかわないんだけど。


「い、いや、ほら、あの……すいませんね」


「だから、わかったと。その背負っているモノが邪魔だ。迷惑にならないようにさっさと行け」


 いかん。どうやって絡めばいいのか分からない。


「お、おい、小林!」


 と小林を振り返ると、小林は拳を握りしめながら体をぷるぷる震わしていた。

 あ、これは……


「さっきからなんか焦ってると思ったら、またヒュッポスヒュッポスか!? おい、こんなときに」


「こ、これ以上は我慢できない。は、早く踊らないと耐えられない」


 小林は男と俺の間の空間に割り込んできて、


「エ、エエ~~~~~!! イエエエ~~~エエエエ~~~!! エイヤ~~~~~~!!」


 とよく通る声で叫んでから、


「ヒュッポスヒュッポス! エエイヤ~~~、ヒュッポス、エイヤ~~!!」


 と言いながら腕をくるくる回して、その場で回り始めた。

 さっき踊ったばっかなのに、また踊らないと行けない衝動がきたらしい。

 本当に迷惑この上ない。

 小林の背中の笹が俺を含めた周囲の人に当たりまくる。

 もちろん、例の男にもバシバシ当たる。


「うわっぷ! な、なんだ貴様らは!」


 男が腕で自分の顔を守りながら批難した。


「いや、すんません! こいつ、ミュラキシーの土地神様に呪われちゃって、こうやって踊っちゃうんですよ! こいつに悪気はないんです! 怒らないで!」


「うわっぷ! の、呪い!? この世界に呪いなどないはずだ! ただのキチガイだろう、くそ、うわっぷ!」


「ヒュッポスヒュッポス! ララララ~~~エイヤァ~~~~!!!」


「ち、違いますって。転生特典で呪いに弱くて、言い伝えレベルの実在しない呪いでも見事にかかっちゃうんですよ! うわっぷ! おい、小林! 今回は激しすぎるぞ!」


「エイヤ~~エイヤァァァァア!!!」


「うるせぇ!」


「うわっぷ! なんだと、転生特典!? お前達、転生者か!?」


 ぬわ、しまった!

 ちょっと様子を見る程度のつもりだったのに、うっかり素性をばらしてしまった。

 まぁ、いいや、いっちまえ!


「え、えぇ、まぁ。もしかして、そちらもそうかなぁ、とか思ってたんですが。そういえば、さっきはかわいい女の子がいた気がしますが」


 とわざとらしく辺りを見回すふりをする。


「あ、あぁ、ちょっと具合が悪くなって帰ったのだよ。うわっぷ!」


 あ、転移させたのをばれてないと思ってるな。

 やっぱり幻術系の魔法も使ってたんだな。


「うわっぷ! おい、小林まだなのか!?」


「ヒュッポスヒュッポスヒュッポスヒュッポス!! イヤァァァァァァァヒュッポスゥゥゥゥエイヤァァァァヒュウッポスゥゥゥゥ!! イヤッ!! ……ふう、終わった」


 小林がいい汗をかいたという風に額を拭う。

 そして初めて気がついたように男を見る。


「すいません。踊りに夢中だったモノで。今何を話していたんです?」


 男は奇妙な顔で俺と小林の顔を交互に見る。

 完全に小林は頭おかしいキャラとして認識されたな。


「ふ、ふん。なんとも奇妙な奴らだ。だが転生者と出会えるとは運がいい。どうだ、ゆっくり話でもしないか」


 うわ、めっちゃいい展開。


「え、えぇ、もちろんですよ! そうしましょう!」


 俺と小林は何度も頷いたのだった。


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