三十
「まさか場外……?」
爽は下を見て自分が場外の地面に足をついていることを確認した。
「チームサギフエ二勝でチームサギフエ二回戦突破!!」
「……我の勝ちだ爽」
「そうか」
爽は暗く穏やかな表情で潮の前まで歩いて近付いた。
「悔しいが……今回だけ勝ちを譲ってやるよ」
爽は潮にそう伝えてその場を去った。潮は舞台を降りてサギフエとライノまで歩いた。
「やったね潮」
「潮ならやってくれると思ったわ!」
「途中……なんとか不自然魔法決めて勝てたな……」
「あと三回勝ち残れば優勝だな!」
「えぇ! ここまでいったら優勝しちゃいましょう!」
*
数十分後、爽が椅子に座って下を向いている待機部屋に颯とムベンガが入って来た。
「いや〜……爽惜しかったな!」
「潮は凄い打たれ強かった様な気がしますが……魔法でしょうか?」
「ムベンガ! 励ましてやろう!」
「私は嫌です」
「……励ますか……男からの励ましはいらねぇよ」
「爽はよく頑張った!」
「だから要らねぇって……! ムベンガちゃんは!?」
「一生言いません」
「ガ〜ン……」
*
一時間程後、サードステージ三回戦が始まる時間になり、チームサギフエの三人は対戦相手と戦う舞台に来ていた。
「来たわね……チーム海!!」
潮・ライノ・サギフエの三人と海・凪バケダラの三人が合流した。
「三回戦で会えたね!」
バケダラはチームサギフエの三人に向けてそう言った。
「バケダラ覚えてる? 魔法学校上級の生徒の時、私と対戦したわよね」
「え?」
「リベンジしてやるわ!」
「リベンジ……?」
(バケダラはくノ一……ここは隠れる場所は全くないけど、かなり素速いはず。倒すとしたらのんびり屋じゃない私しかいないのよ……!)
「分かった! じゃあ勝負しよう!」
バケダラは舞台の上に立った。
「三回戦はマジで行くわよ……」
サギフエは本物の細身の剣を持った状態で舞台に立った。
「サギフエは今回、剣を持って行くんだね」
「バトル大会では金払えば武器は貰えるらしいからな」
サギフエとバケダラは向かい合った。
「それでは!! チームサギフエ対チーム海の一回戦を始めます!!」
審判の人はそう言うと、バケダラは速攻で装備している刀を抜いてサギフエを斬ろうと襲い掛かった。
「くっ……!!」
サギフエは買った剣の刃でバケダラが持つ刀を受け止めた。
「サギフエ……!」
バケダラは驚きの表情に変わった。
(速い……! けど私の不自然魔法で位置はなんとか捉えられそうね……!)
(やっぱり……バトル大会のサードステージはやり辛い……だって見えっ見えだから……!!)
バケダラは周りの目線を気にする素振をしながら思うと、バケダラは魔法の光で全身を光らせた。
(眩しい……! でも……目が眩んでもバケダラの位置は分かるのよ……!)
サギフエは目を瞑りながら回り込んで攻撃しようとするバケダラの刀を剣で受け止めた。
(サギフエは目を瞑っているのに……!! サギフエはただのお嬢様じゃなくて……剣聖の娘なの忘れないように頭に入れて置こう……!!)
サギフエとバケダラは何度も激しく武器同士がぶつかり合った。
(サギフエ……侮れないお嬢様だ……)
海はサギフエの動きを見ながらそう思った。
(ヤバいかも……!)
「……今よ!」
サギフエはバケダラの隙を突こうとして、剣を振るい、バケダラのお腹当たりに切り傷を追わせた。
「サギフエやるな!」
「……ヤバいー!!」
バケダラは刀を持っていない左手で腹の部分を抑えた瞬間、サギフエは剣の刃の部分を再びバケダラの腹の部分にぶつけた。攻撃を受けたバケダラは場外に落ちた。
「よし! バケダラが場外に落ちたぞ!」
「チームサギフエの一勝!!」
「あちゃー……落ちちゃった……」
「らしくないなバケダラ」
バケダラに近付いた海がそう言った。
「油断しちゃって……ごめんね!」
「あぁ……」
「じゃあ……次僕行っていい?」
「凪、必ず勝て」
「必ず……うん……」
凪は少し戸惑った様子で大鎌を持って舞台の上に立った。サギフエは舞台を降りて潮とライノに近付いた、
「それじゃあまた頼むわよ……潮、ライノ」
「そっちは凪か……」
(今まで海とバケダラの二人で勝ち進んでで来たようなものだったから……僕が勝てるかどうか……だからさっきの海はプレッシャーでしかない……)
(凪……見た感じプレッシャーを感じているわね……でも闇属性にそれを与えたら魔力が増えることを分かってて海は凪にそう言ったのかしら。海は無言脳筋だと思ったけど意外と考えられるのね)
「次は僕? それとも潮?」
(凪の対戦相手は……全然厳しくないのほほんライノが良いかもしれないわ……ライノが負けた後、海には最近ノっている潮に任せた方が良いのかも知れない……)
「早く決めないと凪が緊張で倒れそうだぞ」
「よし! 行くのよライノ!!」
「分かった〜!」
ライノは舞台の上に立った。
「それでは!! チームサギフエ対チーム海の二回目のバトルを始めます!!」
大声で審判はそうった瞬間、ライノは顔に魔法でツノを出して凪に向かって突進したがよけられた。
「危な……!!」
「凪……意外とやるのか……!?」
(凪は一回ライノと共にタラバガニを倒し行ったから……凪はライノの攻撃タイミングを知っているのよね……)
(武器ミラーの大鎌持ってるけど……もう正攻法以外でやるしかない……)
ライノは凪に向かって突進して、凪の腹にツノをぶつけた。
「いた……!! だが触れられれば……!!」
凪は魔力を込めた左手をライノの体に触れた。
「……ライノ動くな」
凪はライノにそう命令すると、ライノの動きは止まった。
「ちょっとライノ……!?」
「どうしたライノ!?」
「う……動かない〜」
「まさか……ライノの体が動かなくなったのか!?」
(これは……凪の不自然魔法ね……恐らく……)
「ライノ……僕の不自然魔法が発動したんだ……」
「そうか……催眠術か……」
「場外に向かって歩け」
凪はライノに向かってそう命令すると、ライノは歩き始めた。
「ライノが場外に向かって歩いているぞ!」
「えっうそ……」
ライノは場外に足を付けた。
「チーム海一勝!!」
大声で審判はそう言った。
「ブーーー!! ブーーー!!」
凪とライノの戦いを観ている観客の人達はブーイングを発していた。
「ブーーー!! ブーーー!!」
「あ〜……うるさっ……」
「いや〜やるね凪」
ライノは凪に褒め言葉を贈った。
「ライノは……気にしてないの?」
「ぜんぜん」
「……あぁそう」
凪はそう言って舞台を降りると、海が凪に近付いて来た。
「勝ったな凪」
「一応……変な勝ち方だったけど」
海は凪にそう言って舞台の上に立った。そしてライノは潮とサギフエの元に歩いた。
「ごめんね〜」
「全く……簡単に操られちゃってライノったら……二連敗よ」
「サギフエ、次我が勝てば良い。今の我は絶好調なのだからな」
「そうね、二回戦の爽みたいに油断するんじゃないわよ潮!」
「あぁ! 海に勝ってやる!」
潮は勇ましく舞台の上に立った。
「それでは!! チームサギフエ対チーム海の三回戦を始めます!!」
大きな声で審判はそう言うと、潮と海は互いに向かって走り出した。その時に海は石の魔法で剣を作り、右手で握った。
「行くぞ!」
潮はそう叫んで海に向かってパンチしてきたが、海は横にかわした。その一瞬で海は潮を攻撃しようと石の剣を振るった。
(攻撃が来る!!)
潮は不自然魔法の『頑丈』を発動させて海の石の剣を受けた。その時に海の石の剣は折れた。
「……それが潮の不自然魔法の頑丈か」
「知ってたのか!?」
「爽とのバトルを見ていた」
「なに!? いつだ!?」
「……? 二回戦が終わった後だが」
(そうか……! 早めにバトルを終わらせられれば、観客に行って次の対戦相手の様子を見れるのか……!)
潮は地面から土の魔法で作った拳を海に向かって放った。海は新たに2メートル超の石の剣を作って握り、潮が放った大きな土の拳を真っ二つに切った。その直後、海の石の剣は再び折れた。
「やはり……魔法は苦手だ」
(なら自然魔法+不自然魔法の拳でどうだ!!)
潮は地面から出した頑丈の魔法をかけた土の魔法で作った大きな拳を海に向かって一直線に振るったが、海は土の拳の上に跳び乗って殴られるのを防いだ。
(くそっ! まさか不自然魔法を込めていたのがバレていたのか……?)
海は土の拳から降りた。
「これならどうだ!」
潮は連続で頑丈の魔法を込め土の拳を海に向かって放ったが、海は横にかわしたりジャンプしてかわしたりしていった。
「全然当らん……!!」
「潮……魔力使い過ぎじゃないかしら!! 早々に決めないとだめよ!!」
「……全部かわすなら全体攻撃だ!!」
潮は高く跳んで、潮全身から舞台全体を覆う程の薄い土を出した。
(逃げ場は……一箇所だけあるな……)
海は降ってくる巨大な土にある一箇所だけの穴を見てその中に入った。
「今だ!!」
潮は海が着地した瞬間に海を囲むように頑丈の不自然魔法を込めた土の壁を四つ作った。
「これで倒す……!!」
潮は土の階段を作って上り、自身に頑丈の魔法を込めた状態で土の壁に囲まれている海の所へ降り立った。
「逃げ場はないぞ海!」
海は一つの土の壁に向かって跳び、三回壁を蹴って大きな壁の上に立った。
「かっ……! 海!! そんなこと出来るのか……!!」
海は壁の外に降りた。
(どうする……! せっかく作ったこの壁を拳に変えて……」
「……潮から魔力が感じられない」
サギフエは潮を見ながらそう言ったその時、潮が設置した土の壁四つが消えた。
(我の魔力が……! 無くなってしまった……!)
「潮……張り切りすぎたわね……」
「くそ……! 魔力が無くなった……!! やはり……自然魔法と不自然魔法同時連発は……魔力消費が激しすぎたな……」
潮は自分の負けが確定したと感じている様な絶望の顔に変わり、床に両膝を付いた。
「我の負けだ……」
「潮、何故諦める?」
「何故って……我の魔力が切れたからだが……」
「そうか、なら武器を作ってやる」
「え……敵に塩を送るつもりか……!!」
「いらないのか?」
「……いるぞ! 武器なら斧だ!」
海は石の魔法で斧を作って潮の前に置いた。
「これを使え。罠は無い」
潮は海が作った斧の握り部分に右手で触れた。
(我は……なんとしてもサギフエに誕生日プレゼントの優勝を届けなければならないんだ……!!)
「……持てるか?」
「持てる! 後で武器を渡したことを後悔するなよ海!」
潮は海が作った石の斧を持ち上げて立ち上がり、海に向かって突撃して行った。
その後数分間、潮と海の武器が何度もぶつかり合った。海の攻撃に徐々に押された潮が場外に落ちた。
「潮……!!」
サギフエの悲痛な叫びが海が立つ舞台に響いた。
「チーム海二勝で、チーム海三回戦突破!!」
大きな声で審判はそう言った。
「あぁ……海に圧勝されたな……」
海は無言で舞台を降りた。
「ここを出るわよ。潮立ちなさい」
「ごめんサギフエ……優勝させることが出来なかった」
「まぁ……別にいいわよ」
サギフエは微笑みながら潮を立ち上がらせる為に右手を差し出した。
「すまん……」
潮はサギフエの手を握ってサギフエに引っ張られながら立ち上がった。
「潮は頑張ったんだから謝るのはもう無しよ!」
「……分かった」
チームサギフエの三人はその場を去った。
*
爽・颯・ムベンガの三人はバトル大会の会場内にあるモニターを観ていた。
「海が勝ったか……」
「さすが海だな! 潮も頑張った!」
「……いつになったら爽はいなくなるのですか」
ムスッとした表情のムベンガが爽を睨みながらそう言った。
「え!? 確かに俺邪魔かー! そうだわ!」
「もう邪魔です。果てしなく」
「ムベンガ! 爽はチームメイトだぞ!」
「……もう終わりました。バトル大会に敗者復活とかありませんので」
「それはそうだが……」
「俺……辛いなぁ……」
「……えっっ!? マジか大事件だぞ!!」
突破、そう叫ぶおじさんの声がその場に響いた。
「大事件!?」
「なんだぁ……痴漢かぁ〜……?」
「どうした!!」
颯は大事件と叫ぶ町民の男に向かって行った。爽とムベンガも一人の町民の男の元に駆け寄った。その町民は新聞を手にしていた。
「今臨時ニュースで……ピラニア町長が……何者かに剣で斬られて殺されたって……!! ヤバいよな……!!」
「ピラニア町長……!?」
「サギフエちゃんのお父さんが斬られて殺されたってことか!?」
「サギフエ……ピラニア町長の娘の名前だよな……かわいそうに……」
「……すぐサギフエちゃんに知らせに行くぞ!」
爽はそう言うと颯とムベンガは頷いて走り始めた。