8話 休息と尋問
出店で腹ごしらえをすませたアルは宿へと帰っていた。
アルはデリックからろくな分け前も貰えてなかったので泊まっている宿のランクもデリック達より低い。
それでも宿《月の一時》は人もよくご飯も美味しい所なのでアルもとても気に入っていた。
そんな宿に一日ぶりに顔を出したアルは案の定女将のマリアに引き留められる。
「あんた、大丈夫かい? 昨夜は帰ってこなかったから心配したよ」
「ええ。ちょっとパーティ内でいざこざがあったもので」
アルは正直に答える。
この街の情報は回るのが早い。隠していてもいつかはバレるのでそれならばと思い打ち明ける。
マリアはアルに起きた事を知ると酷く怒った。
そしてアルを力いっぱい抱きしめる。
「よく帰ってきたね」
その一言にアルは心を打たれる。
迷宮から戻ってきてディアナ然り、ギルドにいた冒険者然り、マリア然り、人の暖かさを改めて感じて嬉しくなる。
そして自身が泊まっている部屋に戻り着替えてベッドに倒れ込む。
考えたいことは色々あったが思考はぼんやりとしている。
ついには強烈な眠気に襲われアルは眠りについた。
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アルが眠りについた頃、冒険者ギルドナビルス支部ギルドマスターのカイはデリック一行が捕えられている牢にやって来ていた。
「おうお前ら、よくもやってくれたな」
冒険者規約として一般人への力の行使は正当な理由がない限り禁止されている。
だがデリックは一般人の男に癇癪を起こし、暴れて、商品を駄目にした。
冒険者が起こした事だ。
その責任の問い合わせはギルドに来る。
「……………」
デリック達は声をあげない。
責任の押し付け合いで散々騒いだあとなので、疲弊していたためである。
デリック達は以前から素行が悪く、多くの住民から苦情を寄せられていた。
カイも度々警告をしていたのだが、それも虚しくデリック達はついにやらかしたのだ。
「とりあえず商品ダメにした弁償で金貨20枚」
デリックは未だに納得がいってないもののその良心的な罰に安堵する。
金で解決出来るのならそれくらい支払うのもデリックは吝かではない。
「これに関してはデリックのみの責任だ。他のパーティメンバーは関与しない」
ガイルやセリア、ミーナはデリックと共に行動をしていただけであってこの件とはあまり関係がない。
「だがアル殺害を企てたのは別だ。この罪はお前ら全員が関与している」
一瞬デリックの目が泳ぐ。
だがすかさず反論をする。
「言いがかりだっ! その件に関してはきちんとギルドに報告したはずだ!」
「そうよ! あいつは魔物に殺されたのよ!」
デリックとセリアが吠える。
カイもこうなるとは思っていたためあらかじめ用意していた罠を投下する。
「じゃあアルは何の魔物に殺されたんだ?」
デリック達が嘘をついているのはアルの証言とアル自身が生きていることから分かっている。
デリック達がアルを殺そうとした事を明確にする証拠は取り出せなくとも、ギルドに対して虚偽の報告をした証拠にはなる。
「ブラックウルフだ」
アルが生きていることを知らないデリックは自信満々に答える。
「そうか」
それを聞いたカイはデリックを見限った。
それと同時に心底アルに同情する。
カイはアルがデリック達のためにしてきたことを知っている。
彼らが酒場で酔って暴れたらアルが頭を下げ壊したものを弁償した。
売り物をダメにしてもアルが土下座して買い取っていた。
新人が絡まれてもアフターケアは欠かさなかった。
苦情は多かったものの「アルに免じて許す」というものばかりだった。
カイはそんなアルの人柄を評価していたし尊敬すらしていた。
だからこそアルが不憫で仕方なかった。
彼がこんな不誠実なパーティのために身を粉にしてきたかと思うとやるせない気持ちになる。
カイは敢えて何も言わず立ち去る。
それを見送ったデリックは、見当違いにも上手くやり過ごせたと安堵した。