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64話 救援要請

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「おい、急に立ち上がってどうした?」


 座っていた椅子が大きく揺れるほどの勢いで立ち上がったアル。

 その対面に座っていたカイは、アルの慌てた様子に何があったのかを問う。


「フィデリアとレイチェルに何かあったのかもしれないです」


「あ? そりゃいったいどういうことだ?」


 アルは自分の右手に視線を落として、先程まであったはずの刻印が無いことを確認して息を飲んだ。

 いきなりのことで慌てていたため、平静を取り戻すために一度大きく息を吐くとカイに説明をする。


「さっき壊れたのは僕がフィデリアとレイチェルに付けていた緊急時を知らせるためのアラームです。彼女達には僕と離れている時に危険があればそれに魔力を流して壊してと言ってあります。そうすれば対になる僕に付けてある印も破壊される……それが二つ同時に破壊されたということは何かの間違いではなくて、二人が僕に呼びかけている証拠です」


「なるほど、確かにそりゃそうだ」


 アルの右手に刻まれていた印。

 それはフィデリアとレイチェル、それぞれとつながっている。


 彼女達に付けた印は魔力を流すことで破壊され、その破壊は対になるアルに刻まれた印にも及ぶ。

 これはあらかじめ危険が及ぶ、もしくは及びそうな時に壊してとアルは彼女達に伝えてある。


 そしてこの二つのそちらかが消えたということであれば、ついうっかり間違えてといった可能性も考えられるが、二つ同時となれば話は別だ。

 この日はアルと別行動で依頼を二人で受けて出かけて行ったフィデリアとレイチェル。

 その両名からの救援要請ということで間違いないだろう。


「場所は分かるのか?」


「はい、壊された場所は僕にも伝わります」


 アルの索敵魔術反響の応用で印が破壊された場所とアルを繋ぐ波が生まれる仕組みが仕込んである。

 それはいわば発信と受信。

 二人の居場所を既に掴んでいるアルはすぐにでも飛び出しそうだ。


 しかし、何かを考えてやむを得ないと言ったように声を絞り出した。


「……カイさん、ギルドマスターであるあなたにこんなことを頼むのは非常に心苦しいのですが……僕に着いてきてくれませんか?」


「おう、任せろ。周りを頼れって言ったのは俺だしな! それに事故か事件か分からんがあいつに任された手前同伴する理由には十分だろ」


「カイさん……!」


 アルはこの知らせを受けてすぐに飛び出すのではなく、カイに説明することで落ち着きを取り戻せたことで思考に余裕を得た。


 そして考えた。

 何が理由でこれが破壊されるに至ったのかを。


 二人は魔術師。

 前衛をこなす者がいなくてもそれなりに戦えるほどに実力はあり、アルもそれをよく分かっている。

 今回二人が受けた依頼の概要までは知らないが、普段三人で受けるような難易度のものではなく、幾分か落としたものを選んでいるはず。


 仮に討伐依頼だったとしたら、その途中で何かイレギュラーな魔物と出会い交戦するも、倒すに至らず逃げ出すこともできない状況になってしまったか。


 それとも――――。


「カイさん行きましょう!」


「分かった、急ぐぞ」


 そう言ってアルとカイの二人は立ち上がり部屋を出て走る。

 その途中で仕事中であろうカトレアとすれ違う。


「おう、いいところに。ちょっと留守にするから色々と任せたぞ」


「…………まったく。まだ、返事もしていないのに」


 すれ違いざまに言葉だけを投げかけ、返答を聞くこともなく足早に駆け抜けていく二人。

 そんな二人の見えなくなった背中に、カトレアは呆れたように呟いた。


 しかし、それもカイからカトレアへの信頼の証。

 そうでなければ彼女に留守を任せるなんてことはできない。


 そして、カイの隣を行く、アルの顔で緊急ということは容易に想像できる。


「これから忙しくなるかもしれないわね」


 ギルドマスターを支えるのも受付嬢の努め。

 任されたからにはその期待に応えよう。

 すたすたとその場から移動を再開したカトレアはどこか柔らかく微笑んでいた。


 ◇


「んで、場所はどこだ?」


「座標で言うなら……! 多少のずれはあるかもしれないですが、前に僕達が三人で行ったアンデッドモンスターが多く生息する迷宮っぽいですね」


「ああ、あの骨とか女の霊やらがうざってえ場所か。遠くはないが近くもないな。どうする?」


「こうします」


 走りながら会話をするアルとカイ。

 目的地の大体の場所は把握できたものの、少し距離がある。

 このまま走るのは得策ではないと判断したアルは魔術を発動する。


月蝕の翼(イクリプス・ウイング)月蝕の手(イクリプス・ハンド)隠密(ステルス)。カイさん、ちょっと我慢してくださいよ」


 アルは輝きと深い闇を混在させた翼を背中に一対、手を二本創り出し、さらには隠密の魔術で空気に溶けるように姿をくらました。

 そして、走っていた勢いのまま飛び上がり、その直前に二本の手でカイを抱え込んだ。


「うお、いきなりは勘弁してくれよ」


 急に感じた浮遊感と先程まで踏みしめていた地面が遠くなる感覚。

 二本の手で固定されるように支えられているも、ほぼ宙吊り状態にカイは驚いてアルに文句を垂れた。


 だが、速い。

 都市内は建物もあり、それこそ建物の屋根を伝って常軌を逸した動きで進まなければいけないが、空にはそんな障害となり得るものもなく、真っすぐに進める。

 アルはかなりの速度で宙を駆けるが、カイにかかる負担も月蝕の力でしっかり軽減しながら突き進む。


 フィデリア達からの反応を示した場所はすぐ。

 その見覚えのある迷宮の入り口、その周辺に散らばる人影を遠目にアルは静かに怒りを燃やした。


「……ふぅ。どうやらこれは事故ではなく事件みたいですね」

「ああ、間違いない」


 アルは音もなく地に降り立ち隠密を解いた。

 そして目の前で辺りの警戒をしているごろつき達を睨みつける。


 彼らからしてみればアルとカイは突然目の前に現れたように見えただろう。


 だが、そんなことは関係ない。

 アルを見るなり、敵意を剥き出しにして襲い掛からんとす。


 カイはため息をつきながら剣を抜き、アルは背中に二対翼を追加し、威嚇するように肥大化させた。


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