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63話 白紙の本

11月25日にユニークメイカー2巻が発売されました。

 迷宮内で見つけた謎の隠れ家。

 一時は行きで迷子になりかけたが、帰りはそんなこともなく無事迷宮の外へ出ることができた。

 ソフィアの言う通り直通で出られたようで、行きはあの迷路を介さないと辿り着けないようだが、帰りはショートカットできるらしい。


「同じ入口出口に複数の場所に繋がる仕掛けは相当複雑なはずだけど、どういう術式を仕込んだらこうなるのかな」


(まあ、隠れ家ということもあって、他の人に踏み入られるのは嫌だったんでしょうね)


「偶然とは言え悪いことしちゃったかな?」


 アルは持ち出した書物などのことを考えて頬を掻き乾いた笑みを浮かべた。

 あの隠れ家はしばらく使われていない形跡があったとはいえ、やっていることは空き巣と変わらない。


 とはいえあれだけの困難を乗り越えて初めて到達できた隠れ家に次にいつ行けるか分からない。もう一度訪れることができるという保証もない。

 そんな場所に宝の山を置いてくる訳にもいかない。


 ちゃんと全部を読み終えて、念の為必要だと思ったものの写しも作って、その上でもう一度あの隠れ家に行くことができたら全てのものを返そう。

 そう決めたアルだった。


 ◇


 その後ギルドにて報告をした。

 迷宮内に未確認の場所が見つかったともなれば捜査をしなければならない。

 アルは今回見つけた隠れ家とそこで回収した書物のことを、別室に案内された後ギルドマスターのカイに掻い摘んで話した。


「ほぉ、あの迷宮にまだ見ぬ場所があったか。しかもある条件を満たさないと開かれない通路とは……。さすが迷宮なだけあるな」


「そうですね」


「だけどな、そんな場所見つけたからって一人で突っ込むことねーだろ。確かにお前の実力はよく分かっちゃいるが、何が起こるか分からねえところに単独で挑むのは馬鹿のやることだ」


「……はい。すみません」


「つっても無事に戻ってくるどころか収穫もきっちりあるようだし文句なし百点だがな」


 未知の領域に踏み入れるには入念に準備を重ねるのがセオリー。

 これまでもそうやって装備を整えて、人数を揃えて、捜査を行ってきたのだが、アルはそれを行き当たりばったり、しかもたった一人で行ってきたのだ。

 結果的に無事に帰れたからよかったものの、何かトラップなどがあってアル一人でどうにも打開できないような状況に陥ってしまった際に、アルの行方を知るものが一人もいないのでは探しようもない。


 ギルドマスターの立場としては手放しで褒められることではないが、結果が伴っている分は褒めなければいけない。


「お前は冷静沈着に見えても、感情で動くこともしばしばある。せっかく仲間もいる事だし周りを頼ることを覚えろ」


 カイの言葉にアルは是を示して頷いた。

 普段はちゃらんぽらんでやることなすことテキトーかに思われるギルドマスターだが、元冒険者として、そして現ギルドマスターとしての言葉は中々に重く響く。


「ひとまず後日精鋭を集めて捜査、ってもお前の話を聞く限りだと危険は無さそうだが……念には念を入れてだ。もしかしたらお前が見逃した危険があるかもしれないからな」


「そうですね。これでも結構調べたつもりですが、まだまだ見てないところはあるかもしれないです」


「まあ、これは後日決める。あとはこっちに任せな」


 発見までは冒険者の仕事。

 それを報告してからはギルドの仕事だ。

 カイはアルに報告のことを労わってから堅苦しい雰囲気を崩した。


「そういや何かの本をたくさん回収したんだろ? どんな本があったんだ?」


「えっと、ちょっと待ってくださいね。…………こういうのです」


「おう……迷宮内で見つけたっつうから結構ボロいもんかと思ったが、中々に綺麗じゃねーか」


 アルは持ち出した本の一部をカイに手渡した。

 確かに古くはあるかもしれないが、綺麗に保管されていたためそれほど傷や汚れは目立たない。

 きっと元の所有者も大切に扱ってきたのだろう。


 そしてカイは中を見るためにページを開いた。

 そこで驚いたように言った。


「なんだこりゃ? なんも書いてねえじゃねえか」


「えっ、どういうことですか?」


「どうもこうもねーよ。白紙も白紙、まっさらだ。こりゃダメだな」


 パラパラとページをめくったカイは呆れたように本を置いた。

 しかし、アルは首を傾げた。

 開かれたままのページ。

 自分の目に映るもの。

 カイが何を言っているのか分からなかった。


 アルはカイが置いた本を引き寄せて、()()


「これは水の魔術における応用やその術式が書かれていますね」


 不思議だった。

 アルにはその本の内容がきちんと見えている。

 決して白紙なんかではない。


 それを証明するようにアルはページを捲り、内容を読み上げる。

 それはカイからしてみれば、真っ白なページを見て不可視の文字を読み上げるアルがいるという、不思議な光景だった。


「お前には……見えているのか?」


「はい、カイさんは見えていないんですね」


(ソフィアは見えてる?)

(はい、バッチリと)


 辿り着いた結論、と言うにはまだ早すぎるかもしれないが、現時点ではこう推測できる。

 これは自分達にしか読めない書物だ。


 アルは他の書物もカイに見せ、カイは首を横に振る。

 しかし、その全てがアルとソフィアには読めた。


 カイはその推測を裏付けるために、手の空いていた受付嬢を二人連れてきて事情は何も言わずに本を見せたが、二人とも白紙と答えた。

 これによって答えは出たと言っても良いだろう。


「訳がわかんねえ。俺達は読めずにお前が読めるか……使用者を選ぶ武器があるくらいだから読む者を選ぶ本があったって不思議ではないが、なんだってこんなものを……。だがお前が読めるってことだけは不幸中の幸いか」


「そうですね。確かこの本のどれかに僕が見つけた隠し通路の道を開くための鍵となる行動が書かれたメモがあったはずなので、他にもないか探して書き出したものを後でお渡ししますね」


 どういう訳かアルしか読めない書物。

 もしかしたら他に読める者がいるのかもしれないが、それらを探すのも手間だ。


 きちんと読むことのできるアルが持っているのが一番だろう。


「よし、読むのはお前に任せた。聞いてた感じだと魔術に関する本が多そうだったが、あの迷宮の事や他にも役に立ちそうなことがあったら教えてくれよ」


「分かりました」


「おう、頼んだぜ……っと、そういやリーシャんとこの嬢ちゃん達とは今日は別行動だってな」


「はい、今日は僕一人です」


 カイは偶然だが知っていた。

 フィデリアとレイチェルが二人で依頼を受けて行く所を見かけたからだ。


「前に来たあの迷惑なやつとかもいるだろうしな。嬢ちゃん達をしっかり守ってやれよ」


「分かっています」


 そう言ってアルは自分の右手に刻まれた二つのマークを見た。

 すると次の瞬間。

 パキンと甲高い音が響いて、そのマークにヒビが入る。


 右手に刻まれた二つのマークがサラサラと崩れ落ちる砂のように中に舞い、光の粒子になって消えたのを見て、アルは何が起きたのかを瞬時に理解してガタリと音を立てて立ち上がった。


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