61話 回廊
4月25日に書籍版ユニークメイカーが無事に発売しました〜^^*
厳しいご時世ですが何とかデビューすることが出来ました。
これも皆様の温かい応援のおかげでございます。
ありがとうございますm(*_ _)m
翼を広げてゆっくりと降下し、地面を足をつけると入ってきた亀裂が閉じていく。
時間経過によるものか、誰かが足を踏み入れたことによるものかは定かではないが、そうなること自体は想定内。
アルは白の翼を一閃。
壁や天井を切り払おうとしたが、傷一つつかない。
「内側から破壊はできなさそうだね」
(きっとどこかに出口がありますよ)
入口が厳重に隠されていたことを考慮すると、内側から出口をこじ開けることができないのも不思議なことではない。
ひとまず退路が絶たれた今、進む道は一つ。
「行こうか。罠には警戒していこう」
(はいっ! もしかしたらお宝が眠っているかもしれないですね)
アルは二本の悪魔の手を使い壁や天井、床などを隈無く調べながら慎重に進んだ。
◇
アルの警戒とは裏腹に、今のところ罠などは見当たらない。
それどころか魔物すらいない。
何事もなさすぎて拍子抜けしてしまうアルだが、警戒は緩めずに進んでいく。
(さっきからずっと一本道ですけどこの先には何かあるのでしょうか?)
「さあね。でも余計な戦闘がないのは楽でいいね」
(でも気のせいだといいのですが、ご主人さっきから同じところをグルグル回ったりしていませんか?)
ソフィアは先程から変わらない景色に既視感を覚えていた。
道なりに進むのはいいが、そこには目印になるようなものもなく、ただひたすらに歩くだけ。
「そんなこと……ありそうだね」
アルは通路の目の届く範囲いっぱいに反響の効果範囲を広げた。
前に前に、目一杯広げて、惜しみなく魔力を使っていくと、ついに反応を捉えた。
それは自身と同じくらいの身長、体型の人。
そしてアルが一歩踏み出すと、反応の位置も動く。
それによって気付いた。
ソフィアが言ったことは間違ってなく、自身はこの出口のない一本道を何度も回っていたことに。
「困ったな……。何も無さすぎるとは思ったけどそういう仕掛けか」
(この通路がおかしなことになっているのに気付けたのはいいのですが……ここからどうしましょう)
この空間がねじ曲がっている通路を天井も床も、左右の壁も何度も調べてながら通ってきた。
それでも手掛かりひとつ掴めていない。
(ただの迷宮とは思えなくなってきましたね。しかし……どうやって進めばいいやら)
「一応無限収納に食料や水はたくさんあるし、何ならテントとか寝袋とかもあるからしばらく生活する分には問題ないけど、そんなに長くはもたないよ」
さらに言えばここは元々アンデッドの巣窟。
今いる位置は魔物すらいないが、仮に魔物がいたとしてと食せる魔物と遭遇できないことは容易に想像できる。
「手詰まりだけどこうしている訳にもいかないか」
(どうするんです?)
「やれることをやっていくしかない」
背中には純白の翼を携え、両の腕は禍々しい漆黒の手へと変わる。
「とりあえずどこか壊せるところがないか探していこう」
迷宮の隠し通路。
出口を失った一人の冒険者、アルは静かに笑う。
今ここに、語られることの無い破壊の権化が誕生した。
◇
◇
轟音が響く。
ドカドカと壁を叩く音がひっきりなしに聞こえる。
刃を弾くような甲高い音と共に通路を動いていく。
アルは高速で飛び回りながら壁を殴り、床や天井に翼を打ち付け、この一本道を何十、何百と通り抜けた。
本来ならば迷宮内での破壊活動は自身が生き埋めになる可能性も高いので控えるのだが、この通路はビクともしない。
徐々に火力を上げていき道を切り開こうとするも、きっかけは見つからない。
だが、どこかに必ず存在する。
この無限に続く回廊を攻略する方法は。
それがたとえ針の穴を通すような難しいものだとしても、諦めなければいつかできる。
そう信じてアルは拳と翼を振るった。
「……参ったね。ここまでビクともしないなんて」
(やはり壊せませんか)
一度休憩を挟み、もう一度考え直す。
強硬策が意味をなさないなら、何が適切な行動なのかを改めて模索する。
「ソフィアは何か気付いたこととかある?」
(うーん。ここまでやって何も起きないとなると、ここに来る道を開いた時のように、何かしら条件があるのではないでしょうか?)
「……僕はそのトリガーを満たしてないわけだ」
(何をしなければいけないのかは分からないですが……)
とはいえ前後の概念が意味をなさないこの空間でできることはそれほど多くない。
アルは少し考えると、ふぅと息を吐いた。
立ち止まったまま魔力を充満させていく。
パンにジャムを塗るかのように、この通路満遍なく引き伸ばしていく。
「日輪っ!」
アルの一言を起点にあちこちで大火球が発生する。。
展開させた魔力に引火するかのように目の前は赤白い炎で埋まっていく。
轟音が響き渡る中、アルはまだ手をとめない。
有り余る魔力を惜しみなく使用して手元からも日輪をどんどん放つ。
そうしていると背後から日輪が近づいてくる。
アルはそれを確認すると、自身の背中を守るように何重にも盾を置いた。
「月蝕」
着弾と同時に、盾は割れる。
割れると同時に何枚を重ねて生成。
あとは炎が無くなるまで、それを繰り返すだけだ。
最後のひとつを消して、静寂が辺りを包んだ時それは聞こえた。
――ガチャン――
それは鍵が外れたかのような音。
「ソフィア、今の聞こえた?」
(はい! この感じ、どこかに変化がありそうですね)
八方塞がりだったこの回廊にて、ようやく聞こえた希望の音色。
アルはその音の意味を確かめるべく、再び歩き出した。




