59話 反省会
アンデッド系の魔物が多く生息していた迷宮。
初めての迷宮ながらも仲間と協力して、自分の力をフルに発揮できたのはいい経験だった。
だが、課題も残る。
個人での反省点。パーティとしての反省点。
出来ないこと、苦手な事があるのは悪いことではない。
それを放ったらかしにせず、克服する意志があれば彼らはもっと強くなれる。
長所は伸ばし、短所は減らしていく。
そうやってみんなで成長していく事ができるパーティは今後もっと強くなれる。
そういう訳で、アル達は反省会を開催していた。
◇
円卓を中心に向かい合って座る三人。
話し合いの内容は迷宮攻略について。
自他問わず良かった点、良くなかった点、どのような改善策があげられるかなど、内容はいくらでもあげられる。
こういった反省会を設けるのもパーティの総意。
疲れなどももちろん残っているが、こういうものは記憶が新鮮なうちにやっておくに越したことはない。
まず、口を開いたのはアルだ。
「まず一つ確実に言えるのは、今回の迷宮は僕達にとって相性が良かった。今日は比較的多くの魔物と遭遇するルートを選んだから二人の消耗も早かったけど、魔物との相性とかを抜きにしても今日の攻略の仕方は良かったと思うよ」
今回中心になって戦ったのはフィデリアとレイチェル。
レイチェルは相性的に、フィデリアはアルのサポートの有効活用で魔力消費を抑えられていた。
仮にアンデッド以外の魔物が多い迷宮だとしても、二人の役割――けん制と火力――を入れかえれば十分通用する。
同程度の難易度の迷宮ならば、問題なく対処できるだろうという自信。
それを得られたのは大きな収穫だった。
「そうですわね。今回はアル君のおかげで無駄なく戦えたので、とても気持ち良かったですわ。なんだか自分が強くなったような気さえしましたわ」
「うん。良い指示に従ってうまくいくのは気持ちよかった」
フィデリアはアルの采配について満足した旨を語り、レイチェルもそれに同意する。
アルの索敵から攻撃タイミングや詠唱開始の指示。そのおかげで、それほど強くない魔物であれば、まったく寄せつけることなく倒すことができていた。
アルは二人が気持ちよく戦えるように戦闘状況をコントロールしていた。
「あはは、そう言ってくれると嬉しいけど、今回僕がサポートに徹しすぎたせいで二人には無理させちゃったね。索敵とかはある程度二人に任せて、僕も積極的に戦闘に介入してもいいかもしれないね」
アルは二人の目の役割をこなしていた。
薄暗い迷宮内部を魔術で把握して、魔物とエンカウントする前に位置情報を伝え、一方的に攻撃する。
そのおかげで二人は気持ちよく戦えたとアルにお礼を言ったが、その分負担も増えていた。
完全に役割を分けるというのは悪くないが、これが最善だと決めつけるのはまだ早い。
パーティの冒険方針はこれから試行錯誤していけばいい。
「それにしてもレイチェルの魔術は強力だったね。今回は使う機会がなかったけどこれなら回復の方も頼らせてもらうよ」
レイチェルはアンデッドキラーとしてアタッカーをこなしたが、ヒーラーとしても優秀だ。
ヒーラーがいればパーティの生存率は圧倒的に跳ね上がる。
褒められて頼りにされたレイチェルは嬉しそうにガッツポーズをとる。
「でも私達、アルくんに頼りすぎですわよね。アルくんに言われたことをやってるだけじゃいけませんわ」
「そうだね。私ももう少し考えて行動しないと」
指示に従うことで良い結果につながることも多々ある。
今回のように上手に立ち回れるかもしれない。
だが、思考を放棄して言われることをただこなすのと、考えたうえでその指示に従うのでは全然別物だ。
要求された行動にどんな意図があるか。
それを考えて、理解しようと努めなければ二人は操り人形と同じだ。
それに、アルだって完璧な人間ではない。
焦りもすれば、間違いもおかす。
間違った指示でパーティを危険にさらすことだってあるかもしれない。
そんな時言われるがままになるようではいけない。
助け合い、支え合う。
パーティならば、誰か一人にすべての責任を背負わせるのはダメだ。
発言、行動。どれをとっても独りよがりはいけないし、他人任せもいけない。
信頼していることは良いことだが、それを疑わない理由にするのはどこか違う。
それを分かっている故の反省点だ。
「そうだね。僕も変なこと言ってみんなを困らせるかもしれない。僕の言うことは絶対じゃないし、二人も何かあったら遠慮なく言ってほしい」
二人は一度たりともアルの指示に異議を唱えなかった。
それは今回のアルの采配がうまく機能していたからであって、いつもそううまくいくとは限らない。
できる限り安全な冒険を心がけているが、何が起こるか分からないのも冒険の醍醐味だ。
一人の指令が機能しないだけでつぶれてしまうような軟弱なパーティではいけないのだ。
「戦闘の方はどうでしたか? 私は魔術の制御も魔力配分もうまくいってたと思いますが……」
その割には自信なさげに、言葉がしりすぼみになっていくフィデリア。
調子が良かったにもかかわらす。行きの道だけで魔力が尽きかけていたことが、その最大の理由だろう。
「二人とも安定してたよ。ただ、しいて言うなら三体以上の魔物と同時に戦うときの手数がちょっと多かったかもしれないから、無駄なく倒せるようにするのが次の課題だね」
だが、それはさほど問題ではない。
アルの索敵で複数の魔物との遭遇を避ける手もあれば、アルが戦闘の中心になり二人の負担を減らすというのもある。
戦闘面に関しては言うことなしだ。
「そうですか……よかったですわ」
「二人とも一緒にやってきただけあって連携もすごかったし、むしろ僕が入った時に邪魔しちゃわないかちょっと心配だよ」
三人の連携ができれば戦い方の幅が広がる。
こればっかりは実際にやって、体で覚えるしかない。
「アルくんなら大丈夫ですわ。ねえ、レイチェルもそう思うでしょう?」
フィデリアはレイチェルに話を振る。
しかし、返事は返ってこない。
「レイチェル?」
「……はっ。ね、寝てないよ」
「二人は疲れてるから仕方ないか。反省会はこのくらいにして宿に帰ろう」
レイチェルは夢の世界に片足を踏み込んでいた。
フィデリアの呼びかけで何とか戻ってきたものの、すでに再び舟をこぎ始めている。
これでは反省会も続けられないため、かえって休むことにした。
「ほら、しっかり立ってください。帰りますよ」
「んー。おんぶしてー」
だらしなくフィデリアに寄りかかりながらおぼつかない足で歩くレイチェル。
そんな彼女をなんだかんだ言いながらも支えながら歩くフィデリアだった。




