58話 達成感
迸る光が切れる。
跡形もなく消し飛ばしたのか、骨の欠片一つすら残っていない。
「やった。勝った」
力を使い果たしたレイチェルはだらしなく転がった。
服や髪が汚れるのもお構い無しに、地面をベッドにする。
「つ、疲れましたわ」
安心して気が抜けたのか、フィデリアもペタリと座り込んだ。
気力、体力、魔力。全てが限界を迎えていたのだ。
「二人とも、お疲れ様」
まだ余力を十分残しているアルは二人に向けて微笑んだ。
改めて強敵を倒した実感が湧いて嬉しくなった二人はつられて笑った。
「はあ、もう魔力も尽きそう……」
「私もですわ」
この迷宮において、半分以上の戦いは彼女達が行った。
アルのサポートで無駄なく、効率よく進めていたが、二人だけで戦ったため魔力消費も大きい。
そして今倒したスケルトンに残る全てをぶつけた。
もはや帰り道を戦い抜く力は残っていない。
「少し休んだら帰ろうか。帰りは僕に任せてよ」
マッピングも済んでいるため、最短ルートを選んで進める。
戦闘においてもアルが前に出て全ての敵を引き受けるため何の問題もない。
とはいえ現時点でほぼ無力に近い二人に危害が及ばないようにするため、新しい魔術の実験などはせずに使い慣れた魔術を解禁する必要はあるが、一人で戦う分にはさほど支障は出ない。
「分かった。何か飲み物ちょーだい」
「すみません。私も頂けますか?」
しばらく起き上がる気もないのか、レイチェルは転がったまま飲み物を要求する。
いつもだったらそんなことを言わないフィデリアも動く気がないのが見て取れる。
アルは鞄からシートを取り出して地面に布く。そしてカップにお茶を注ぎ、二人に手渡した。
「ぷはぁ、生き返る。あ、おかわり」
レイチェルは一気に飲み干すと空になったカップをアルに差し出し即座におかわりを要求した。
初めはこの迷宮の雰囲気に苦言を漏らしていたレイチェルだが、今はさほど気にしておらずくつろいでいる。
彼女の神聖属性魔術による浄化。
それがなければこの部屋もおどろおどろしい空気が未だに漂っていたはずだ。
もしそうであるならいくら疲れていたとしてもここで長居をしようとは思わない。
魔術の残光。あるいは余波。
それがこの部屋に満ちているうちに十分な休息を取り、帰りに備える。
何より戦場だったこの場所で、勝利の余韻に浸るのも悪くない。
シートに座る彼女達の隣に腰を下ろしたアルは心の中でそう思った。
◇
帰り道は宣言通りアルが主体となって行動した。
二人の安全を考慮して複数体の敵反応がある通路は避け、安全に戻る。
特に迷宮の奥――休憩を取ったあの部屋から戻り始めた時は、一層警戒した。
わざわざ強力な魔物とエンカウントして戦ってやる必要は無い。
無駄な戦いを避けるというのも、冒険者には必要な技術だ。
出現する魔物が弱くなり始めた頃からは、最短ルートを取り、撃破しながら進んでいく。
二人を守りながらでも充分戦えた。
そして、何事もなく迷宮入口へと戻ってきた。
「お疲れ様」
アルは改めて二人を労う。
本日の功労者といっても過言ではない。
「楽しかったね。今度は何か依頼も受けて、また迷宮攻略したいね」
「うん。ここの迷宮だとほとんど稼げなかったから、他の迷宮でがっぽり」
「そうですわね。また行きましょう」
ここは出てくる魔物がアンデッド、倒す際に使用した魔術が光、神聖属性ということで獲得した素材などはほとんどない。
通常の魔物と違ってその素材に需要がない事も相まって、今回の迷宮攻略における稼ぎはほぼゼロだ。
それでも来た価値はあった。
力の誇示、実力だめし、魔術の実験。
それぞれ抱えていた目的とともに、迷宮制覇も達成した。
仲間と協力しての迷宮攻略。
その達成感は存外病みつきになるもので、二人もハマったのか既に次の迷宮へと思いを馳せていた。




