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6話 魔術作成

「それで、一体お前はなんなんだ?」


 アルは当面の疑問をぶつける。

 先程まではまともな精神状態ではなかったからすんなりと受け入れることが出来た謎の声も落ち着きを取り戻すとまた怪しげなものに感じる。


(私はご主人が作り発動した魔術です。ご主人の願いを無意識に叶えた知能ある魔術です)


 自覚がないがアルをご主人と呼ぶこれはアルによって作られた魔術である。


(本当ならご主人の自分の魔術を使えない理由が知りたいっていう願いを叶える魔術になるはずだったんですが、ご主人が一人は寂しい、誰かと話がしたいと無意識に願ってしまったのが混ざりあってこんな形の魔術として完成しちゃったんですー)


 そう。

 本来ならばただ単に事実を知るだけの魔術になるはずだった。

 しかし、そこに心をすり減らしたアルの願いが混ざり込んでしまった。

 彼を助けるきっかけとなったこの魔術は偶然の産物であった。


(そういう事なので今の私はご主人が魔術を使えない理由を教えてくれる話相手って所ですかね。まぁ、もうじきただの話し相手になっちゃいますが)


「どういうことだ?」


(ご主人に魔術を使えない理由を教えちゃって役目を果たしたから機能が半分になるってことです)


 確かにアルの疑問はもう既に解決しつつある。役割は充分果たしたと言えるだろう。


(だからご主人はこのまま私を相手に独り言を呟くも良し、用済みだーって魔術も解除するも良し、魔術を作り替えて他の機能を持たせるのも良しの選り取りみどりですね)


 それを聞いたアルは深く考え込む。

 確かに話し相手を望んだのはアル自身だが用もなく常に話しかけられるのも鬱陶しい。

 しかし、聞きたいことだけ聞いてはいさよならと言うには親しみを持ちすぎてしまった。


 答えは決まっていたが問題はどう作り替えるかだ。

 これがアルにとって最大の難所だった。


 そもそもアルは今日初めて魔術を使ったのだ。

 それも自分ですら理解が及ばない物をだ。

 ブラックウルフすら簡単に殺せる力を持ってしまったからにはこの力を正しく扱わないととんでもないことになる。


 それを踏まえてアルは魔術を作り替えてアドバイザーとして運用することにした。

 この魔術を正しく扱えるように。


 アルは魔術を作り替える。

 話し相手というのはそのままでそこに相談役と先生の役割を追加する。


 アルは過程こそ理解出来なかったが結果として魔術の改造に成功したことは感じ取れた。

 今までやってきた魔術の勉強はその過程こそを大切にしてきたからどこかもどかしさを感じる。


「お前にはこれからも話し相手になってもらう。特に新しい魔術を作る時なんかは世話になるだろう。人ですら簡単に殺せる力だ、使い道を誤る訳にはいかない」


 アルは魔術を使えるようになってはしゃいでいた自分を今一度戒める。


「早速で悪いが僕の力をもっと詳しく教えてくれ」


(はいはーい。任せてくださーい)


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 アルは魔術について教えて貰い、アドバイスに従いいくつか魔術を作っていた。

 アルの魔術は術式も形成文句を必要とせず発動文句としての名前をつけるだけでよかった。


 そのため作ろうと思えばポンポン魔術を作れるのだがアルはそれを良しとしなかった。

 いきなり沢山の魔術を作っても管理しきれないとのことで初めは控えめにして必要だと思った時に必要なものを増やしていく方針となった。


 そして現在アルが作り上げた魔術は以下の3つである。


 叡智の女神(ソフィア)

 謎の声が可愛い名前が欲しいと駄々をこねたことで渋々付けたものだ。

 アルの願いで知能を持ってしまったその魔術は言わずもがな強力で、アルの第2の頭脳と言っても過言ではない。


 不死鳥の灯火(フェニックス・ヒール)

 不死鳥の如く身体を炎で焼くことで傷を癒し、再生する魔術である。


 悪魔の手(イーヴィル・ハンド)

 ブラックウルフを握りつぶす際に作った悪魔の手。

 その禍々しい手で攻撃と防御を担う。


 ◇


「とりあえずこれでこの迷宮からは出られるだろ」


(そうですね。それにしてもご主人、意外と順応するのが早かったですね。)


 何に、というのは聞くまでもない。

 もちろん魔術作成の事だ。


「やらなきゃ死ぬならやるしかないでしょ。それに魔術を使えて悪い気はしない」


 アルにとってこれは念願の魔術だ。

 長年欲していたそれをどうして悪く思うだろうか。


 それにアルは感謝していた。

 自分の本当の力を教えてくれたソフィアに心から。


「なあ、ソフィア。魔術を使えなかった僕がこうして魔術を使えて、今五体満足に立っていられるのは間違いなく君のおかげだ。だから君に何か恩返しがしたい」


(な、なんですか急に。まあ、強いて言うなら色々なものを見たいですね)


「色々……ね」


(魔術である私に生という概念があるかは分かりませんが、せっかく自我が芽生えたのです。人間みたいに過ごしてみたいですね)


「…………」


 頭に響く彼女の声はどこか羨ましそうだった。

 随分と人間らしい願いに、ソフィアは実は人間なのではと疑ってしまうほどだ。


 しかし、その声色は叶わない夢を儚げに笑う少女の姿が容易に想像出来るものだった。


「そうだ! 僕のこの力で体を作ることは出来ないのか?」


(……おすすめはしませんね。当たり前ですが魔術を扱うには魔力がいります。ですが私の体を魔力で形成しようとしても留めるものがないので恐らく魔力の無駄遣いになるかと思います。栓の開いた浴槽に水を注いでも一向に溜まらないのと同じことですね)


「……そう簡単にはいかないか」


 だがアルは自らに誓う。

 命の恩人、いや、恩声であるソフィアの願いをできる限り叶えてみせると。


「いつか必ず僕がソフィアの体を用意する。それが出来たら一緒に冒険をしよう」


(ふ、ふふふ。それはいいですね。楽しみにしておきます)


 体のないソフィアだが、声色から笑顔が想像できるほど、その返事は嬉しそうだった。


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