55話 浄化の光
アルのサポートを元に迷宮攻略を進めていく一行。
アルは戦闘を二人に任せ、索敵とマッピングを行っている。
マッピングに関しては必要という訳では無いが、やっておくに越したことはない。
「フィデリア、レイチェル。数秒後そこの角から前方にゾンビが現れるよ。攻撃準備、三、二、一、今っ!」
アルがタイミングを指示する。
それに合わせて二人は攻撃をする。
「ウインドアロー」
「シャインアロー」
それらはちょうどよく角から現れたゾンビにどかどかと吸い込まれる。
ゾンビは何が起こったのか認識する事もできず、力なく倒れた。
「アル、ナイス」
ピシッとグッドポーズをするレイチェルにアルも頷く。
アルのサポートによって戦闘にも余裕がある。
まだ苦戦といった苦戦もなく、順調に進めている。
「ねえ、レイチェルは範囲攻撃魔術って使えるの?」
「……使えるけど、どうして?」
アルは歩きながら通路の奥を指を指した。
「この通路の奥の大部屋に大勢待ってるみたいだ。ここは僕が水没させて全滅させようかと思ったけど、レイチェルに任せるよ」
神聖属性魔術の使い手であるレイチェル。
アンデッドにはめっぽう強く、これまでの活躍も目を見張るものがある。
だがそれは今まで遭遇する数が少なかったこともあり、単体攻撃でも倒せていたというのもある。
「分かった。任せて」
大部屋に大量ということもあり、気合いが入るレイチェル。
ふぅ、と一つ息を吐くと口を開いた。
「二人にお願いがある」
ぶっきらぼうな口調だが真剣な眼差しでアルとフィデリアを射抜く。
「僕にできることならなんでもするよ」
「私もですわ」
二人が断るはずもない。
快い承諾と共に、お願いの内容を待つ。
「大きいのでまとめて倒す。魔術が完成するまで私を守ってほしい」
魔術師の魔術行使には詠唱が要求される。
それは魔術が強力で複雑なものになればなるほど長く難しいものになる。
魔術行使に術式も詠唱も必要としないアルには理解できないかもしれないが、魔術師は普通そうなのだ。
だから後衛職と呼ばれ、前衛職に守ってもらいながら支援攻撃などをするのだが、このパーティではそうもいかない。
危なくなったらアルが動くという安心感はあるが、それは危険をホイホイおかしていい理由にはならない。
フィデリアとレイチェルは余裕を持って動くためにこれまでそれほど難しい魔術は使ってこなかった。
だがレイチェルにようやく許可が出た。
大きな魔術を使用する許可が。
厳密には禁止されていた訳では無いが、たかが二、三体程度の数の魔物に使うにはもったいない。
こんな大多数を相手にした時でないと割に合わないのだ。
「分かった。僕とフィデリアで守る。だから焦らずに魔術を完成させてくれ」
「任せましたわよ」
三人は一切の不安なく、魔物の巣窟に足を踏み入れた。
単体でそれほど強くなくても、数を揃えられれば対処も難しくなる。
だが踏み入れた。
知らずに入ったのではなく、分かった上で入った。
そこにあるのは仲間への信頼。
そして期待に応える意志。
「うわあ、聞いていたとはいえこれだけの数……」
「でも僕達なら凌げるでしょ?」
――だからしっかり倒してよね――
アルの目はそう語っていた。
レイチェルは深呼吸して詠唱を開始した。
「天から降り注ぐ魔を滅する浄化の光よ。白く、白く塗り潰し、闇を払おう――」
「ファイアウォール!」
「氷結の手」
アルとフィデリアは波のように押し寄せるアンデッド達を塞き止める壁となる。
その間レイチェルの綺麗な声で紡がれる詠唱に耳を傾けながら完成を待つ。
そして――
「祝福の賛歌で天国への扉を開かんとす。そしてそこへ至る道を作る。迸れ神の奇跡!」
長々とした詠唱を終え、発動を待機させた状態でレイチェルは手を挙げた。
それが合図という訳ではなかったが、何かを察したアルはフィデリアを抱えて飛び立ち、レイチェルの斜め背後に着地した。
「ホーリーロード!」
放たれる光が部屋を塗り潰し、視界を白く変える。
その光は正しく浄化の光。
肉体は既に死んでいるアンデッドの魂を、開いた天の扉へと誘う。
ふっと眩い光が収束すると、そこにはアンデッドの身体は一欠片たりとも残っていなかった。
詠唱とかって行った体で書いているのですが、今回はちょっとだけ詠唱描写を入れてみました。
ちょっとだけですけどね……。




