番外編 バレンタインif
バレンタインifです。
「ご主人っ! 今日はバレンタインデーということでチョコを作ってきました! それで、あのー……受け取ってください!」
もじもじと恥ずかしそうに可愛らしい小包を差し出すソフィア。
そんな彼女の頬は恥じらいからかうっすらと紅く染まっている。
「ありがとう。頂くよ」
もちろんアルが断るはずもない。
アルはソフィアからチョコレートの入った包みを受け取ると、丁寧に開けて一つ口に放り込んだ。
「ど、どうですか?」
ゆっくりと口の中で転がすようにして味わうアルに、ソフィアは味の程を尋ねる。
やはり手作りともなれば相手の好みに合っているかなど不安は付きまとう。
ましてや普段からご主人と慕う、もとい好意を寄せているアルに渡したものだ。
反応が気になってしまうのも無理はない。
「うん。すごく美味しいよ」
「ほ、ほんとうですかっ?」
「うん。口の中に広がるなめらかさとほどよい甘さ。それにほんのりと感じる苦味。飲み込んでしまうのが勿体ないくらいだよ」
「そ、そう言って頂けて何よりです」
ソフィアはほっと胸を撫で下ろす。
もしかしたら本当は美味しくないのに気を遣って……なんて考えたりもしたが、アルの満面の笑みでチョコを頬張る姿を見てそんな不安も吹き飛んでしまった。
「もう少し早く準備を始めていればもっと凝ったものを作れたのに……。このソフィア、一生の不覚です」
「これでも十分凝ってるじゃないか」
「私としてはもっと試行錯誤を繰り返して、色々やってみたかったのですが……まあ、来年はもっと頑張るので期待してください!!」
「はは、それは楽しみだね」
むくれたり、奮起したりと表情がコロコロ変わるソフィアを見てアルは微笑んだ。
「ご主人のお返しも期待してますね」
「そうだね。僕も腕によりをかけて作らないとね」
「でもご主人は製菓も手馴れているので羨ましいです」
「趣味の範囲だけど、意外と楽しいんだよね。今度一緒に何か作ってみる?」
「っ! ぜひお願いします!」
ソフィアはアルの提案に食い気味に返事をする。
アルはソフィアの顔が急に迫ってきて、互いの吐息がかかりそうな程に距離が縮まったことにドキッとして、目を逸らしてしまう。
「あれー? ご主人、もしかして照れてます? 心なしかお顔も赤いような気がしますよー? あ、そうだ! お望みならこのままキスもしてあげましょうか?」
「……調子に乗らない」
「あいたっ」
ソフィアの額にアルのチョップが吸い込まれる。
それほど強いわけではなかったが、ソフィアは額を抑えながら涙目でアルを見上げる。
「もー、ご主人の鬼。悪魔。キスの一つや二つや三つや四つくらいいいじゃないですかっ」
「……いや多いし、ダメでしょ」
「もうっ、ご主人のケチっ」
プンスカと駄々をこねるソフィアにアルは苦笑いを浮かべた。
「これはお返しは三倍にしてもらうしかないですね〜。ご主人、期待してますよっ」
「はいはい、分かったよ」
小悪魔的な笑みを浮かべるソフィアに振り回されるアルは満更でも無さそうだ。
やったーと言ってはしゃぎながらぴょんぴょんはね回るソフィアを眺めながら、アルは彼女から貰ったチョコを口に運んでは笑みを浮かべるのだった。




