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49話 炎は揺れる

「おい、いい加減起きろ」


 カイはマルコから手を離して、適当に床に放り投げると、自分は椅子に座って机に肘をついた。

 そして苦しそうに声を上げていたマルコに覚醒を促す。

 するとノロノロと起き上がりカイに尋ねた。


「う……ここは?」


「ここは俺の部屋だ。お前はアルに負けて気を失ってたんだよ」


「あのひょろっちいガキに俺が負けた……だと? そんな、これは何かの間違いだっ!」


 現実を突きつけられたマルコは素直に負けを認めずに喚く。

 カイはそれを見て、溜息をひとつついた。


「あのなー、お前もこれ以上子供みたいに騒ぐのはやめとけ。みっともねえぞ」


「俺はただ、あのガキから少女達を救ってあげようとしただけだ!」


 見下していた相手に負けた。

 しかも回復を受けるという屈辱のおまけ付きだ。

 求めていたフィデリア達も手に入らず、マルコのプライドはズタズタだった。

 しかし、事実は変わらない。

 決闘の結果だけが全てを物語っている。


「お前もあれだけ手加減して貰えたんだ。今五体満足でいられるだけありがたいと思え」


「何……? それはどういう意味だ?」


「そのまんまの意味だ。一応勝利条件も付けたみたいだがアルはお前に合わせて戦っていた。それともお前が手の届かない空中から一方的に狙い撃ちされる方が良かったか?」


 マルコは勝利条件を設けたことをアルがハンデを埋めるためだと勘違いしているが、実は逆だ。

 ただでさえ平等なものでない決闘を、一方的にアルに有利な条件になるように、勝負が始まる前から認めてしまっていたのだ。


 だがアルは終始飛んでいた訳では無い。

 たとえマルコの剣が届く距離だったとしても、その剣はアルの身体に届くことがないのは誰が見ても明らかだった。


 ギリと歯を鳴らすマルコは悔しそうに顔を歪める。

 そんな彼に、カイは机の書類を片付けながら釘を刺した。


「別にパーティの勧誘をするなとは言わねえ。だが嫌がる奴を無理やり入れようとするのはやめろ。これ以上やるなら冒険者カードを剥奪する」


「…………」


 マルコは黙ったままだ。

 しかし、これ以上迷惑行為を続け本当にカードを剥奪されてしまったら、冒険者として生きていけなくなる。

 それはマルコも分かっている。


「あとは……万が一にもありえないと思うが、もうあの嬢ちゃんたちに手を出そうとするなよ。次にちょっかいかけてみろ。アルが黙っちゃいない」


 アルは今回の決闘で徹底的に心を折るように立ち回った。

 それがトラウマとなり、アルに対しての苦手意識や恐怖として刻まれている。


 しかし、言ってしまえばそれまでだ。

 アルが恐いならアルを避ければいい。

 それはマルコがフィデリア達を諦める理由になるとは限らないのだ。


「俺は忠告したぞ。今日はあくまでも決闘で済んでたからよかったものの、あいつの本気はあんなもんじゃない。まだまだ実力を隠している。痛い目を見たくなければあいつと、あいつの親しい仲の奴には絶対に手を出すな」


 先程も言っている、五体満足でいられることをありがたく思えという言葉はカイの本心だ。

 それをマルコがどう受けとっているかは分からないが、今後マルコがどうなろうとカイの知ったことではない。

 ただ、アルがしばらくナビルスで活動するということは、顔を合わせる機会は自ずと増える。

 その度にマルコがアルに突っかかって問題事を起こすのだけは勘弁願いたいと切実に思っている故の忠告だ。


「分かったらもういいぞ。俺も仕事があるからさっさと出ていけ」


 カイは後ろにある扉を指さして面倒臭そうに言う。

 マルコは何も言わず出ていった。


(くそ、くそっ! 絶対に許さない。アルとか言ったな。この借りは必ず返してやる)


 心は一度折れた。

 だが募る怒りと憎悪が継ぎ接ぎのように無理やり繋ぎ止める。


 今はまだ小さな炎。

 それでもマルコはアルへの憎悪の炎をそのグチャグチャな心で静かに揺らしていた。


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