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47話 無慈悲

 ギルド内にある闘技場。

 そこを舞台にフィデリア達の争奪戦なるものが始まろうとしている。


「ちっ。めんどくせーことになった。おい。やるからにはボコボコにして心へし折ってこいよ」


 ギルドマスターとしては面倒事は御免なのだがこれで解決するなら策としてはありだ。

 あまりにも話が通じないマルコには実力でガツンと分からせるしかない。


「分かってますよ。彼女達をモノ扱いする彼には負けません」


 アルはその瞳に怒りの炎を燃やす。

 仲間をぞんざいに扱われて黙っていられる訳が無い。

 カイが言った通りマルコの心をへし折り、追い返さなければならないのだ。


「アルくん、信じてます」


「ボコしてきて」


「君達楽しんでるよね?」


 フィデリアとレイチェルはアルが負けて自身がマルコのパーティに入る未来など微塵も想定していない。

 それはアルに対する絶対的な信頼。

 たとえ相手が剣士でこちらが魔術師であろうと覆ることのない圧倒的な差。

 それが存在すると信じて疑わない。


「まあ、任せてよ。勝つしかないなら勝つだけだよ」


 アルはそう呟き、マルコの方を見た。

 その視線に気付いたマルコは鼻で笑う。


「おいおい、そんなに睨んでも何も変わらないよ」


 意図的か、無意識か、挑発とも受け取れるそれは女性陣の怒りの火に油を注ぐ。


「なんですのあの自信? 勝つのはアルくんに決まってますのに」


「ムカつく。殴ってやりたい」


「アルさん! 絶対負けてはいけませんよ!」


 もはやマルコは四面楚歌と言っても過言ではない。

 そんな状況でもその自信を崩すことなく、見据えるのはアルが負けて這い蹲る未来。


「早くやろう。もう別れの挨拶は済ませたのだろう?」


「……ええ。やりましょうか」


 挑発には乗らない。

 だがその一言はアルに残っていた僅かな慈悲をも消し飛ばした。


 ◇


 ◇


 向かい合う二人の間に流れるピリピリとした空気。

 普段のアルからは想像できない冷たく鋭い目つきがそれを助長していた。


「ではただいまより決闘を開始します。勝利条件は相手を無力化させること、相手に負けを認めさせることのどちらかです。本来はあくまでも決闘とのことなので過度に相手を痛めつける行為は禁止なのですが条件が条件なのでそうもいきません。なので今回の決闘で最低限守っていただきたいことは相手を殺さないことです」


 カトレアがルールを説明する。

 今回の決闘は特別ルールだ。

 勝利条件は相手の無効化。

 二人の戦闘法が異なる以上このようなルールでなければ決闘が成り立たないのだ。


 幸いにもアルは再生魔術を使えるし、レイチェルという聖属性魔術の使い手もいる。

 カイもそのことを知っているからこそ認めた特別ルールだ。

 とはいえアルが進んでいたぶるような行為をするとは思えない。

 ただただ実力差をはっきりさせてマルコを諦めさせることを目的としているため、それにあった戦闘法を選ぶだろう。

 唯一の心配事といえば、アルの魔術による闘技場への損害だろうか。


「それでは、準備はよろしいですか?」


 カトレアの問いかけにマルコは剣を抜き、アルは肩から背中にかけて魔力を集中させる。


「では、開始!」


 その掛け声とともに飛び出したのはマルコだ。

 素早くアルの懐に入り込み、剣を振り上げる。

 しかしそれは振り切られることは無く、ガキンと甲高い音とともに止まった。


「何っ!?」


 アルが展開した翼が剣を受け止めた音だ。

 魔力を注ぐことで硬化させたそれは、剣とも渡り合える。


「それで終わりですか? では今度はこちらからいきますね」


 ヒュッという風切り音が二つ聞こえた後に刃がぶつかる音が二回響き、マルコの剣は弾かれる。

 アルはそのままガラ空きになったマルコの胴に反対側の翼を叩き込んだ。

 その翼は容赦なくマルコの身体を吹き飛ばし、闘技場の床を転がす。


(手加減甚だしいですね。わざとですか?)


(まあね)


 ソフィアがふと声をかける。

 その指摘通りアルはマルコへの翼の硬化を解いていた。


 マルコもその違和感に気付いただろう。

 剣のぶつかる音が本物ならば、今頃自分がどうなっているか。


(やってしまえばいいじゃないですか? ルール的にはありなんでしょう?)


「いや、その必要はないよ」


 ソフィアの悪魔のような囁きにアルは小さく声に出して答えた。


「心を折る。それで十分だ」


 純白の翼が消え、新たに炎の翼と氷の翼が展開される。

 そのまま飛び上がり、宙に浮いたままマルコを見下ろす。

 そこからは一方的な虐殺だった。


 ◇


紅蓮の手(ボルケイノ・ハンド)氷結の手(アイシクル・ハンド)


 アルの翼から飛び出す異なる手がマルコを襲う。

 迫り来る手から逃れるためにマルコが取れる行動は逃げの一手だった。


 当然マルコに空を飛ぶ手段なんてあるはずもなく、防戦一方だ。

 手を避け、身を翻し、時には剣で弾く。

 それ以外に取れる行動がないのだ。


「おい! 卑怯だぞ! こんなの決闘じゃない!」


「卑怯じゃないですよ。僕はルールを守っています。それともなんですか? 魔術師の僕と剣で打ち合いでもしたかったんですか? 僕はわざわざあなたに合わせて地上で戦う理由なんてこれっぽっちもないんですよ」


 自分の思い通りにことが進まず、やりたいこともさせて貰えないマルコは作ったような喋り方を忘れ声を荒らげた。

 しかしアルはルールに則って戦っている。

 冷めた目でマルコを見下ろしていたアルはため息を吐きながらゆっくりと降下し地面に足をつけた。


「いいですよ。あなたに合わせて戦いましょう。なんなら僕はここから動きません。あなたが負けを認めるまでね」


(そこまでハンデを背負って差上げるなんて、ご主人はお優しいですね)


 アルはソフィアの茶々にふっと笑った。

 背中で揺らめいていた六枚の翼が赤と青それぞれ一枚ずつを残して掻き消える。

 そして次の瞬間、白と黒の翼が背中に追加された。


「僕はあなたが諦めるまで全てを防ぎます。仲間をモノ扱いするあなたに絶対彼女達は渡さない!」


「調子に乗るな!」


 この時点でマルコのプライドはズタボロだった。

 楽に勝てると思っていた弱そうな魔術師に見下され、あまつさえハンデを貰ったのだ。

 それでも完全に怒り狂わないのは勝機が生まれたから。

 剣が届くところに標的がいる。

 自分の土俵なら負けるはずがないという自信がまだマルコには残っていたのだ。


 マルコはなりふり構わずアルに斬りかかった。

 剣術の腕前ならそれなりにあるのだろう。

 だがその剣はアルに届かない。

 四枚の翼がアルに肉薄する剣をことごとく弾く。

 アルは宣言通りその場から一歩も動いていないことがよりマルコを苛立たせる。


「まだやりますか? 早く負けを認めて欲しいのですが……」


「うるさい! まだだ!」


 マルコは明らかに息が上がっている。

 それでもフィデリア達を手に入れるという目的が彼を突き動かす。

 戦意はいまだ失われず、むしろ燃え上がっている。


「でもあなたの剣は僕には届きませんし、あなたももうへとへとじゃないですか」


 気合だけではどうにもならないこともある。

 マルコは疲労で動きが鈍っているが、それとは対照的にアルに体力的な疲労はない。

 そこも剣士と魔術師の戦い方の差が顕著になった部分だろう。


「気が済むまでやってもいいと思ってましたが、時間がかかりすぎましたね」


 マルコを諦めさせる要因はもう十分揃っただろう。

 初めの翼による一撃で手加減しているという事実を刷り込ませた。

 アルが空中戦を選んでしまえば手も足も出ないということをマルコは知ってしまった。

 そして何より、自らハンデを背負ったアルに一撃を与えることすらできなかった。


 目は死んでないが一向にアルに仕掛けてこないのがいい証拠だ。

 マルコ自身アルに勝てないと無意識に感じてしまっているのだ。


「じゃあ終わりにしましょう」


 この決闘を終わらせるのにアルが選択した魔術は迷宮攻略用に編み出した水の天獄(ブルー・ヘブン)だった。

 アルの手から作り出される金色に輝く水がゆったりと揺蕩いマルコを足元から覆いつくしていく。


 マルコは膝、腰、胸と徐々に上がる水嵩に自分のほんの少し未来を想像し恐怖すると同時に安心感のようなものも感じていた。


(回復して差し上げるなんて、ご主人は本当にお優しいですね)


(せっかくだし試してみようかなって思ってね)


 その理由は水の天獄がアンデッド特攻として聖属性の力を有しているせいだろう。

 マルコはこのあと自分の頭までこの水に覆われて息を止められる事を分かっている。

 この魔術はその確定された事象への恐怖、焦り、不安でさえも優しく洗い流してしまうのだ。

 そのついでにアルの攻撃の余波で負った怪我も癒してく。


 人間に対しては癒しの監獄となるその光の水の中でマルコは意識を失い、母親に抱かれる赤ん坊のように静かに眠りについた。

 これによりアルは相手を無力化するという条件を満たした。


「勝負あり! マルコ様が戦闘を続行できない状態になりましたので、この決闘はアル様の勝ちです。


 カトレアが終わりを宣言する。

 きっと決闘が終わったことを認識できていないこともマルコに屈辱を与える要因となるだろう。


(でもそれなら普通の水の檻で良かったんじゃないですか?)


(そうでもないよ。彼みたいなプライドの高そうな人は、下だと思ってる者からの施しは絶対に屈辱なはずだ)


 恐らくマルコもうすれゆく意識の中で、自分が癒されてることに気付いていた。

 すべてが計算通りというわけではないが、その事実さえマルコを苛むだろう。

 はたから見ればアルは最後の最後で慈悲を与えてしまったようにも思えるが、その実アルはマルコの心を折る方向で無慈悲を徹底していたのだった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] お見事! アルに勝てるなどとその気になっていたお前(マルコ)の姿はお笑いだったぜ。 [一言] アル、念のため追跡魔法と映像記録魔法と自白魔法を作ってこの似非伊達男にマーキングをつけておけ。…
[良い点] ウム! プライドも人望も見事に粉々に打ち砕かれた様で、マルコざまぁですね(笑) [一言] しっかし、あの温厚なあるがここまで徹底的にやるとは。 しかも回復までして慈悲を掛けつつ心を完膚なき…
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