44話 偽りの仮面
お知らせです!
この度異端のユニークメイカーの書籍化が決定しました!
詳しくは活動報告に書き込みましたので、よろしければそちらの方も確認してくださいm(*_ _)m
ギルマス会議も何事もなく終わり、カイ達がナビルスに戻る。
それはアル達の出発を意味する。
アル達とリーシャ達は向き合う。
乗り合いの馬車に乗り込む前の挨拶の時間だ。
一時的とはいえ、家のような存在である研究所を離れるのだ。
当然リーシャ、エレン、リディアも見送りに来る。
「カイ! この子達を頼んだよ!」
「おう! つっても俺が気にかけなくても心配要らんだろ」
リーシャは自身の弟子達のことも含め気にかけるように頼むが、カイはどうにも楽観的だ。
「まあ、適当に見とくわ。んじゃな」
「お世話になりました」
軽い感じで別れを告げると、カイは一足先に馬車に乗り込んだ。
ディアナも一言お礼を言ってお辞儀をすると、カイについていくように馬車へと入っていった。
「それでは行ってきますわ」
「行ってくる」
フィデリアとレイチェルも特に別れを惜しむような様子はない。
まるで近所に出かけてくるかのように一言挨拶をし、二人ともリーシャ達に背を向けた。
「アルくん、みんなをよろしくね」
「帰ってきたらまたお話を聞かせてくださいね」
エレンとリディアも笑顔で見送ってくれる。
アルはここに家族の温かさのようなものを再確認して、力強く頷いた。
「寂しくなったらいつでも帰ってきな。みんな待ってるからね」
リーシャの言葉にアルは笑顔を浮かべる。
過ごした時間は短くてもリーシャやエレン、リディアはアルにとって家族たりうる人物だった。
帰る場所があることにありがたみを感じつつ、馬車に乗り込む。
全員が乗り込んだことで馬車はゆっくりと動き出した。
アルはだんだんと小さくなる彼女達が見えなくなるまで窓から身を乗り出し手を振っていた。
◇
「こっからナビルスまでは三日くらいか。まあ、高い金出していい馬を選んだからまずまずだな」
王都とナビルスではそこそこ距離がある。
その距離を三日で到達できるこの馬は優秀なのだろう。
しかし、馬も三日三晩走り続けられる訳では無いし、御者の人も睡眠が必要だ。
その間野営を行うのだが、その点は抜かりない。
「王都に行く際の野営は一人だったので心細かったのですが、今回は安心ですね」
ディアナは嬉しそうだ。
行きはカイと二人だったため、男女でテントを分けて夜を明かしたが、今回女性陣にはフィデリアとレイチェルもいる。
やはり数の安心は確かなものなのだろう。
「お前は行きは歩きだったんだろ? どうだった?」
カイはアルに尋ねる。
「そうですね……やはり歩きだと大変でしたね」
こうやって馬車に乗っているとそのありがたみが分かる。
「そうか。そりゃそうだ」
聞くまでもなかったとカイは笑う。
「でもこの辺りって盗賊とか出るんじゃないんですか? 歩きだと余計に遭遇しそうですよね」
ディアナの核心をついた発言。
アルはタラタラと冷や汗を流す。
「アルくんを襲う盗賊なんているはずがありませんわ」
「そう。そんなことするのはよっぽどのバカ」
アルの化け物級の強さを知っているフィデリアとレイチェルはディアナの発言を真っ向から否定する。
「んー、確かにそうですよね。アルさんを襲うなんてよっぽどの命知らずですよね」
ディアナも納得したおかげで追求を免れたアルはホッと胸を撫で下ろす。
その命知らずの命はとっくに空へと還っていったなんて口が裂けても言えない。
すると突然ズキリとアルの胸が痛んだ。
(なんで?)
人を殺した。
でもそれは仕方なかった。
ああしなければならなかった。
アルはその選択が正しかったと自信を持って言える。
しかし、それをディアナに、フィデリアに、レイチェルに打ち明けたくはなかった。
自身の中で完結させていたいと思った。
そう思った理由を求めるが、答えは返って来るはずもない。
「アルさん? 大丈夫ですか? 少し顔色が悪いですよ?」
「え? ああ、ごめんね。少し酔ったのかもしれない」
心配そうにアルの顔を覗き込むディアナをアルはとっさに誤魔化した。
胸にもう痛みはない。
彼女にいらぬ心配を与えないために、出ない答えを求めるのをやめたアルは、とっさに作り出した笑顔の仮面でこの場をやり過ごした。




