42話 水の癒し
まずギルドにやってきたアル。
その目的は回復魔術の試験だ。
レイチェルがアルに怪我を求めたように治療は怪我人がいてこそ成り立つ。
なのでアルはギルドの一角を借りて、回復魔術の試し打ちをしたい旨をアイラに相談した。
ギルドとしても冒険者に治療を施してもらえるのは有難いようで快く協力してくれた。
そのためアルは借りたテーブルにギルドから貸し出してもらった簡易看板を設け座っていた。
ギルド職員が積極的にアルのことを広めてくれるそうなので、何人かは来てくれるだろう、と気長に待っていると早速一人目の客がやってきたようだ。
「あんたが治療してくれるのか?」
「はい。痛むところはどこですか?」
アルが聞くとその男は腕を出し、袖を捲りあげた。
すると肘に近いところが痛々しく腫れ上がっていた。
「仲間の流れ弾に当たっちまった。気を遣わせるのも悪いと思ったから強がっちまったけど、結構痛いな。治せるか?」
「やってみましょう。アクアヒール」
アルの手から溢れ出した水が男の患部を包み込む。
オーソドックスな回復魔術は光や神聖が多いため、予想を外された男は少し驚いていた。
「うおっ? 冷てえ。でもひんやりして気持ちいいな」
「痛みの方はどうですか?」
「ん? ああ、だいぶ引いてきたな」
時間の経過ともに患部の腫れがみるみる小さくなり、やがて元通りになる。
男は綺麗になった腕を曲げたり伸ばしたりし、状態を確認する。
一連の動作に対する痛みがないことを確認するとアルに礼を言った。
「痛くねえ! ありがとな、助かったぜ!」
「それは良かったです」
「それでいくら払えばいい?」
男はアルに値段の確認をする。
本来なら回復をかけてもらう前に確認すべきことだが、痛みでそんな余裕もなかったのだろう。
「え、無料です」
そして幸いなことにアルはお金を取るつもりは一切ないため、法外な料金を吹っかけられて払えませんという展開には決してならない。
「こんな完璧に治してくれたのに金も取らねえのか?」
「僕はお金が欲しくて治療をしている訳ではないので」
アルは魔術の具合を確認できるし、訪れた人は治療がしてもらえるウィンウィンの関係なのだ。
「そういうことなら仕方ねえ。とにかく助かったぜ」
アルがどうしてもお金を受け取らないので、男も諦めたのか再三にわたってお礼を言って去っていった。
(使ってみてどうですか?)
「悪くないね。あとは怪我の程度によって出力を変えるだけで済みそうだ」
使い勝手は中々良かった。
特に扱いに困ることもなく、行使できたためアルの気分も上々である。
そしてお客は次々にやってきた。
ギルドによる宣伝の効果が現れたのか、興味本位で立ち寄る人もおり、治療を受けた冒険者が口コミで広めるということもあったためかなりの人数が押し寄せた。
ひどい火傷を負った人、捻挫をし担ぎ込まれた者、どうしてそうなったと問い詰めたくなるほど出血している剣士、腰を痛めた鍛冶屋の人などたくさんの人が訪れアルの治療を受けて行った。
中には難癖を付け馬鹿にする者もいたが、治療を受けたらその言葉を撤回せざるを得なかった。
大変ではあったが感謝され、目的も果たせていたためアルは満足だった。
「お疲れ様。はい、これお茶」
列を作る程にまで押し寄せた人を捌ききり、ひと段落したところでアイラがアルにお茶を出す。
「ありがとうございます」
「どういたしまして。それにしても沢山来たわね」
「僕もびっくりしてますよ。まさか列が出来るとは思いませんでした」
宣伝効果もあり並びに並んだ怪我人を捌いたアルはお茶を喉に通す。
ゴクリ、ゴクリと喉をならし冷たいお茶が体に染み渡らせる。
「冒険者の方から一般の方も多く来たけどほんとに助かったわ。小さな怪我でも油断してると命取りだからね」
パーティにヒーラーがいなければ回復はポーション等に頼らざるを得ない。
しかし、それらは消耗品だ。
金欠などの理由で物資を整えられない冒険者も少なくはない。
「僕も成果はあったので良かったです。また機会があればやってもいいですかね?」
「もちろん大歓迎よ。またよろしくね」
ギルドとしては無償で治療をして貰えるのは大助かりだ。
怪我で引退していく冒険者が少しでも減ることに期待して、アイラはアルを見送った。




