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40話 負けず嫌い

「んっ、んん」


 アルと激闘の末、魔力枯渇により倒れ伏したフィデリアは自室のベッドで目を覚ました。

 魔力が回復してきているとはいえ、まだ体に怠さを覚えている。

 だがそんな怠さとは裏腹に、頭はスッキリとしていた。


「はあ、また完敗でしたわね」


 ふふ、と笑みを漏らすフィデリア。

 アルに一泡吹かせるまではいかなかったものの、手応えを感じる一撃を叩き込めたり、試してみたかった火の魔術も使えたため大凡は満足だった。


 ふと脳裏に蘇るのはあの凛と煌めく太陽。

 自身が憧れ、手を伸ばしたものだ。


「相変わらずの美しさでしたわ」


 初めて目にした時に、フィデリアはそれにどうしようもなく魅了された。

 今回は2度目だったが未だ慣れることの無い感動に一瞬戦意を失いかけたほどだ。

 どの道決着はついたため、フィデリアの戦意の有無はあまり関係ないのだが、魅惑の炎に心を完全に奪われなかったのは上出来だろう。


「まだまだ鍛錬が必要ですわね」


 目指すべき姿を再確認したフィデリアは打倒アルに心を燃やす。

 やはりフィデリアにとってアルというライバルの存在は、確実に成長の起爆剤になっている。


 そこにコンコンとノックの音が聞こえる。

 返事をするとレイチェルが入ってきた。


「あれ、もしかして寝てた? そうだったら起こしてごめん」


 ベッドから起き上がる姿勢のフィデリア。

 寝起きなのも事実であるがゆえ、返答に困ってしまう。


「いえ、ちょうど起きたところですわ」


「珍しい。こんな時間に寝てるなんて」


 フィデリアは普段から規則正しい生活を心掛けている。

 そのため昼寝なども滅多にしない。


「アルくんと戦って倒れてしまったようですわ」


 フィデリアの最後の記憶は振り返り優しく褒めてくれたアルの姿だ。

 決して自室のベッドではない。


「またやったんだ。負けた?」


「分かっているなら聞かないでくださいな」


 レイチェルの意地悪な一言にフィデリアはむうと頬を膨らませる。

 レイチェルとしてもアルが負ける姿は想像出来なかったようだ。


「ごめん。でも負けた割には悔しくなさそう」


 フィデリアは負けず嫌いな性格である。

 それこそ感情的になるほどには。

 だがフィデリアは落ち着いている。


「そうですわね。不思議と清々しい気分ですわ。それに悔しいという気持ちよりもアルくんに褒めてもらえて嬉しいという気持ちの方が強いですわ」


 意識を失う前に聞いた言葉。

 それを思い返すだけでフィデリアの心はぽかぽかとした温かいものになる。


「いいな。私もアルに褒めてもらいたい」


 レイチェルは羨ましそうにフィデリアを見つめる。

 レイチェルは以前の依頼でも見せ場という見せ場はなかったため、アルに力を示すに至っていない。


「フィデリアばっかずるい」


「ずるくないですわ」


 その嫉妬の矛先はフィデリアに向いた。

 もちろんフィデリアは異議を唱える。


「私だってアルくんに認めて貰えるように頑張ってますわ。レイチェルも何か行動を起こしてみてはいかが?」


 そう言われてしまってはぐうの音も出ないレイチェル。

 だがフィデリアらしい返答に微笑むと、力強く頷いた。


「私達は力の性質のせいで競い合うことは出来ませんでしたが、今はアルくんがいますわ。でもアルくんはとても強い。少しでも努力を怠ると同じステージに居られなくなりますわ」


 2人の目を前に突如現れたアルという存在。

 その光は大きく、その背中は遠い。

 気を緩めるとその姿を見失ってしまうだろう。


「私はアルくんに置いていかれたくありません。アルくんに追いつくために、今まで以上に頑張らなくてはなりませんわ」


「それは同感」


 フィデリアの決意にレイチェルも同意を示す。

 せっかく出来た競いあえるライバルとも呼べる存在。

 それをそう易々と失う訳にはいかないのだ。


「分かってる。負けず嫌いなのは私も一緒」


 そう言ってレイチェルはフィデリアの部屋を後にした。

 レイチェルとてやる時はやる女だ。

 レイチェルもフィデリアが稽古という形で行動を起こしたように、彼女なりに何かアプローチを仕掛けることを決意した。



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