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4話 広がる歪み

 デリックはイライラしていた。

 アルが抜けた穴を埋めるために新しくパーティメンバーで募集しているのだが一向に人がやってくる気配がない。


 噂というのはどこから広がるか分からない。

 特に冒険者は情報が命だ。

 今までアルがいたおかげで抑えられていたデリック達の不評も徐々にこの迷宮都市ナビルスに広がりつつあった。


 当然そんなパーティに入ろうとする人がいる訳もない。ましてや彼らが望むような高ランクの実力者なんかが寄り付く訳もない。

 今や冒険者界隈のみならず一般市民にも伝わりつつある悪評によりデリック達は街の人々からまともに相手をされなくなっていった。


「拠点を移そう」


 デリック達にとって今の状況は非常に居心地が悪い。

 ここは迷宮で大稼ぎを狙える点もあり冒険者としてやっていくには申し分ない環境ではあったが、人付き合いを疎かにした彼らにとってはその限りではない。


 この街の人間は皆アルのことを気に入っていた。

 礼儀正しく誰にでも優しい。

 困った人を見捨てない。

 そんなアルを人々が受け入れるのにそれほど時間はかからなかった。


 故に彼らに非難が殺到する。

 他所からやって来てでかい顔をする。なまじ実力もあるからタチが悪い。

 人付き合いなども一切せずに稼いだお金で豪遊し尽くす。

 傲慢の限りを尽くす彼らと積極的に関わろうとする者は少なかった。


 しかし、アルのおかげで保たれていた天秤はアルを失うことで大きく傾いた。

 大きく負に傾いたパーティはより一層周囲からの不満を寄せ集めた。

 そんな中にはわざと迷宮に置き去りにしただのお前らが殺しただの核心をついたものもあった。

 そこで彼らは自身が置かれている状況に気付いた。

 辛うじてナビルスで活動出来ていたのはアルのおかげであると。


 しかしアルはもうここにはいない。

 迷宮に放置して既に一日が経過していた。

 もはや生きているかも分からないし助けに行くなど彼らのプライドが許さなかった。


 そういう訳でもはやナビルスで活動出来ない彼らは拠点を移すことにした。


「賛成だ。さっさと物資を買い足してここを出よう」

「そうね」

「それしかないですね」


 当然異論はなかった。

 むしろこの居心地の悪い所から逃げられることに喜びを感じるほどだった。



 デリック達は必要な物を買うために商店街に訪れていた。


「これで買えるだけの回復薬をくれ」


「は? あんたこれっぽっちじゃ回復薬ひとつだって買えやしないよ。最低でも銀貨2枚はないと」


 デリックが訪れた薬屋で店番をしていたおばちゃんは渡された貨幣を突っぱねる。


「なんだと? あいつはいつもこれで揃えていたぞ!」


「言いがかりはやめてほしいね。これが相場だよ」


 デリックはいつもアルに買い出しをさせる時に持たせていた額を出していた。

 それなのに買えるものはないという。


 文句を言うも商品の値段は変わらない。

 痺れを切らしたデリックはその薬屋を出る。

 他のところなら買えるはず、そう思い込むことにした。


 だが現実はそう甘くない。

 どこに行っても門前払いで何一つ買えない。


「おいおい、なんの冗談だ?」

「冷やかしなら帰って」

「商売舐めるんじゃないよ」


 どこに行っても同じ反応だった。


「くそ、アルの奴はこれで買えていたはずなのに……」


 デリックも本当は相場は分かっている。しかし、彼らは嫌がらせでアルにわざと少ない額を持たせておつかいをさせていたのだ。

 しかし、アルは毎回きちんと必要なものを揃えていた。

 だからこそこれ以上のお金を払うのを嫌がるのだ。


 ふと口から出た呟きは近くの店にいた店番の男の耳に入る。


「なんだあんた。答え分かってんじゃねーか」


「何?」


 後ろから聞こえた声に振り返り、その男を睨む。


「だからそのアルくんなら買えていたって話。アルくんだから買えていたんだよ。まあ、ギブアンドテイクって奴だ。お金が足りないならお金以外のことで価値を作り出す。例えば労働とかな」


 男は続ける。


「言ってたぜ。お使いを頼まれるけどお金はくれない。足りないと言ったら怒られるって。だから働く代わりに安く売って貰えませんかって、いろんな店に土下座して頼み込んでたよ」


 デリックはアルがそんなことをしていたなんて知らない。

 興味もなかった。


「その熱意に負けた人はアルくんになにかしてもらう代わりに安く商品を売っていたんだ。あんたらがやってるのはただの値切りだ。それじゃあいかんだろ」


「ふざけるな! あの無能に安く売れて、俺に売れないだと!?  そんなことがあっていいはずがない」


 男の言葉に納得がいかなかったデリックは我を忘れて暴れ出す。

 店先に並んでいる商品をなぎ倒し、踏み潰していく。


「おい、お前! やめろ! お前らも止めるの手伝え」


 男はセリア達に止めるように言う。

 彼女達も慌てて止めにかかるも、商品はもう売り物にはならずボロボロだった。


 その騒ぎを聞きつけた人々がゾロゾロと集まり出す。

 その野次馬の1人が衛兵を呼びに走り出していた。



「これは酷いな」


 やってきた衛兵たちはまず店の男に何があったのかを尋ねる。

 そして周りにいる野次馬にもそれがあっているか確認すると抑えられているデリックを見て呆れた顔をする。


「君たちパーティメンバー? だったら一緒に来てもらうよ」


 パーティメンバーであるセリア、ガイル、ミーナも一緒に連れていかれた。


 おせっかいで教えたつもりだった店の男はとんだとばっちりだった。


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 ◇


 デリック達はとりあえず一日牢で過ごして頭を冷やすことになった。 

 パーティメンバーも連帯責任だ。


 衛兵達に連れられ牢に入れられたデリック一行は、またしても言い合いを始めていた。


「デリック! 何故あんなことをした!」


「すまない。イライラしてついやってしまった」


「ふざけないでよ。なんで私達まで捕まらなきゃならないのよ」


 デリックの巻き添えを食らったガイルやセリアも怒りの矛をデリックへと向ける。


「あの無能に安く売れて、俺に安く売れないなんてあってはならない」


 デリックは自分の非を認めない。

 それにガイルやセリアもデリックに怒ってはいるが、その点に関しては意見が一致していた。


 事態を正しく認識できていたのはミーナだけであった。


(皆さんが言ってることは間違ってる。どの店も同じようなことを言っていたからきっとあのお兄さんが言っていたことは本当です)


 デリックは未だに騒いでいるが非がどちらにあったかは明らかである。

 それに店の男から聞いた話がぐるぐると頭の中を回る。


(アルさんがそんなことをしていたなんて知らなかった)


 当然行き着く先はそれだ。

 今までアルに渡していたお金では足りない。

 足りなかったからアルはする必要のない事までやっていたのだ。


 今まで彼らは面倒な事は全てアルに押し付けていた。

 自分達の装備や装飾品などにお金を費やすことはあっても、今回のような物資の買い出しはこのナビルスに来てから一度たりともしたことがなかったのだ。

 そんな無関心が今まで隠し続けてきた事実を突きつけられ、ミーナは呆然とする。


 デリックはそんなことお構い無しだ。

 ただ、安く買えていたというところだけを取り出して、ひたすら文句を言っていた。

 そんな彼らの関係が壊れるのもそう遠くない未来であった。


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