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35話 ディアナ来訪

「えっ、カイさんが来るんですか?」


「近々ギルドマスターが集まる会議があるんだ」


 リーシャから近々カイが訪れる事を知らされたアルは驚いていた。


 しばらく会えないと思っていたカイに思ったより早く会えることとなったからである。


(まあ、飛べばすぐナビルスに帰れるけどね)


 という無粋な考えはさておき、アルはリーシャに渡されたカイからの手紙を読む。


「あ、カイさんここに来るんですね。ちゃんとエレンさんに言ってますか? また追い返しちゃうかもしれませんよ」


 アルは冗談のつもりで言う。


「それは有り得るな」


 だがリーシャは至って真面目にその言葉を受け止め、エレンに伝えることを決めた。


「じゃあ僕が言っておきますよ」


「お願いしよう」


 リーシャは何かと忙しく、食事以外では自室と実験場を行ったり来たりの生活だ。

 机に向かって術式案を書き出したり、詰めたい要素を纏めたりとしていて、紙の山が今にも崩れそうになっている。


 そんなリーシャの代わりにアルはエレンに伝言をする。

 エレンは玄関からすぐにある受付のような場所で何やら書類をまとめていた。


「エレンさん、今いいですか?」


「あらアルくん、どうしたの?」


 以前はアルを様付けで呼んでいたエレンも何度か顔を合わせ話をする様付けをやめて欲しい旨を伝えるとフレンドリーに話してくれるようになった。


「もうじきギルマス会議をやるらしいんですけど、それでここにリーシャさんとパーティを組んでいたことがあるカイさんと言う方がここを尋ねてくるそうです。僕の時みたいに帰しちゃ駄目ですよ」


「分かったわ。ギルマス会議、カイ様っと」


 エレンは忘れないようにすかさずメモをとる。


「知らなかったー。リーシャ様も凄いけど、まさかギルドマスターと知り合いなんて」


 どうやらリーシャとカイがパーティを組んでいたことは知らなかったようだ。


「リーシャさん、まだまだ現役でもいけると思うんですけどね」


「やっぱりそう思う? 私もそう思って現役復帰しないのか聞いてみたんだけど、今は研究で忙しいから無理って」


「あはは、リーシャさんらしいです。でもそれじゃあ研究が終わったら復帰するんですかね?」


「いやー、しないと思うよ。次の研究に取り掛かると思う」


「ですね」


 カイもリーシャもまだまだ現役でも活躍出来る。

 だが引退をしてそれぞれが違う道を歩むこととなったのは何が原因なのか。

 少なくとも不仲が原因ではないのは分かっている。


(気になるけど……)


 恐らく話したくないのだろう。

 誰にだって秘密にしたいことはある。


 アルは好奇心を心の中に押しとどめる。


「じゃあ確かに伝えましたよ」


「うん、ありがとう」


 エレンに伝言をし終えたアルはリーシャから与えられた自室に篭もり、読書を始める。

 リーシャに似て、魔術が好きなのはアルも同じだった。


 ◇


 ◇


「おう、久しぶりだな」

「アルさん、お久しぶりです」


「カイさん、それにディアナまで」


 しっかりと伝えた甲斐があり、追い返されることもなく応接室に通されたカイとディアナはアルと顔を合わせていた。


「わざわざナビルスからご苦労様です。それでディアナは何故ここに?」


「あー、あれだ」


 ディアナが余計なことを言うなと懇願する目でカイを見つめていた。

 それに気を使ったカイは言葉を濁してそれらしい理由をでっち上げる。


「補佐として受付嬢を連れてくのは珍しくはない。本来ならカトレアを連れてくる予定だったがそのカトレアからこいつを勉強させてやれと本人からの推薦があったから連れてきた」


「なるほど、そういうことですか」


 即席の割には中々現実味のある理由だ。

 後輩の育成にも力を入れているカトレアなら言いかねない。


「会議ではどんなことを話すんですか?」


「とりあえずランク制度の見直しについて話してみる」


 これはアルがカイに頼んだことでもある。

 ギルドのランク昇格基準は依頼をこなした数だ。

 それでは薬草採取だけでB級に上がろうと思えば不可能ではないし、決まった依頼のみを受け続けてCランクまで上げたターニャ達のような者も出てくる。


 実力や実績のみならず、採取、索敵、野営など冒険者に最低限必要とされている知識や技術の有無も判断基準に取り入れるべきである。


 カイもその意見には納得した。


「あとは……一応デリックの件だな」


「デリック……ですか?」


「奴がした事と同じようなことが起きないように注意喚起だけしとかないとな。警戒はしておいた方がいいだろう」


 こういうことがあったからそっちでも気を付けろと呼びかけるだけでも効果はある。


「まあ、ざっとこんなもんか。何か他に話しておいたことが良さそうなことあるか?」


「いえ、十分だと思いますよ」


「そうか。じゃあ俺はちょっくら出てくるからディアナと遊んどいてくれ」


 そう言ってカイは出て行ってしまった。


「あの……」


 残されたディアナは何か言いたそうにモジモジしている。


「どうした?」


「前みたいに一緒に飛んで、空から王都の景色を見てみたいです!」


 ディアナがアルとしたかった事だ。

 ディアナは以前の空の旅で虜になっていた。


 せっかくアルに会いに来たのだ。

 それくらいのご褒美があってもいいだろう。


「いいよ、行こうか」


 特に断る理由もない。

 アルは快く承諾する。


 外に出て以前と同じようにディアナをお姫様抱っこし、隠密(ステルス)を発動し、空に飛び上がる。


 二人は王都を見下ろし、その景色を堪能した。


「あれが王様が住んでいるお城ですか。綺麗ですね」


 大きくそびえ立つ豪華絢爛な城。

 このカルディア王国を象徴する建築物である。


 その周辺には貴族街が広がり、大きな屋敷が沢山ある。


 アルは王都をくまなく見せるために方向転換させて風をきる。

 心地よい風がディアナを撫で、長い後ろ髪をなびかせている。


 ディアナは不意にアルの胸に顔を埋める。

 グイグイと鼻を押し当てるように顔を動かす。


「ちょっと、擽ったいな」


 アルは堪らず声を上げる。

 ディアナはそんなのお構い無しだと言わんばかりに、アルの背中に回した腕に力を入れ、強く抱き締める。


 ようやく顔をあげたディアナは上目遣いでアルに尋ねる。


「アルさん、私達が初めて会った時のこと覚えてますか?」


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